生活の変化2
「あなたは今日から北形よ」
「へっ?」
病院にいても暇である。
本来なら数日は経過観察のために入院する必要があるのだけど、面倒だからと一日で帰ることになった。
レイカのせいなのかキズクが早めに退院すると聞いて医者はホッとしていた気がする。
その間に覚醒者協会や警察が来て話を聞かれたことはあったが、特別変わったこともなかった。
キズクに寄り添っていたために頑なに動かなかったリッカとノアも、戦いでダメージを受けたので検査を受けることになった。
なのでキズクのみが退院して北形家に帰ってきている。
ムサシが話したいということで、ムサシの私室をレイカと共に訪れていた。
そこでレイカに言われた言葉がこれで、キズクは思わず呆然としてしまう。
「えと……」
「レイカの禁制を解いた」
「禁制?」
急に何のことかとキズクは不思議そうな顔をする。
「実はね、私も覚醒者なの」
「えっ、そうなの?」
思いもよらないカミングアウト。
人生二度目でもレイカが覚醒者なことは知らなかった。
「え、だって……魔力も無いし……」
「私は家を出る時に禁制をかけられていたの」
「その禁制って何?」
「要するに魔力を使えないようにさせられていたのよ」
「レイカが結婚することは反対だった。だがそれでも結婚して出ていくのなら相応の覚悟を持つこと、そして北形家に伝わる剣術の流出を防がねばならなかった。だからレイカの魔力を封じたのだ」
魔力を封じられれば、いかに覚醒者といえど普通の人と変わらない。
むしろ魔力を持っていて使えることが覚醒者であると言い換えてもいいほどなのだ。
回帰前のレイカは北形家に戻ることもなかった。
だから魔力は封じられたままであり、覚醒者であることをキズクは知らなかったのである。
しかし今回はキズクの働きかけもあり、レイカは北形家に身を寄せることになった。
カナトの動きもレイカに知るところになって、レイカもこのままではダメだと前に進み始めた。
「家を飛び出した意地みたいなものがあったけれど、あなたを見て思ったわ。私も前に進まなきゃいけない。あなたのために私に何ができるかって考えたの」
キズクは前に進むという決意をした。
それは良くも悪くも周りにもその影響を与えていた。
キズクが前に進もうとしている。
ただその道には多くの障害があり、一人で立ち向かうには困難である。
そう考えたレイカも前に進むことにした。
キズクが今後当たるであろう障害を取り除き、あるいはキズク自身が乗り越えていけるように手助けしようと決めたのだ。
その手始めが魔力を取り戻すことだった。
「あなたに剣を教えるわ。そのためにも私たちは王親ではなく北形になるの」
戦える力が必要だ。
そのためにキズクに剣を教える必要がある。
改めて北形という責任を背負い、キズクに生き延びるための術を教えることにしたのである。
「この家は剣で成り上がった家よ。モンスターと契約しているあなたに向けられる目は厳しいものになるかもしれない。それでもやるかしら?」
北形を名乗るということには責任が伴う。
ふさわしくない実力であれば周りから冷たい目を向けられる。
特にキズクはモンスターと契約している。
それを認めないとまで北形家は頑なではないが、よく思っていない者は多い。
これまでは客人扱いだったからキズクに対する目はそれほど厳しいものではなかった。
しかし北形を名乗るのならこれまでと同じではいけない。
周りに認めてもらう必要がある。
けれども簡単には認めてもらえないだろう。
「急なことだね……」
「今すぐ決めなくてもいいわ。じっくり考えて……」
「いや、やるよ」
キズクのためではあるものの、もしキズクが負担に思うのならそれはレイカの本望ではない。
強制するつもりはなく、キズクが別の道を選ぶとしても応援するつもりだった。
キズクはまっすぐにレイカの目を見て答えた。
覚悟なんて、とっくに決まっていた。
剣を教えてもらえるならキズクとしても望むところだ。
回帰前、弱った体を押して剣を教えてくれた母のことを思い出す。
あの時の続き、改めてレイカが師匠となる。
「分かったわ。私は厳しいから覚悟なさい」
レイカは目を細めて笑う。
キズクがそう答えると思っていたけど、息子がまっすぐに立ち上がる眩しいほどの姿を見て、答えが分かっていても嬉しかった。
「それともう一つ」
「もう一つ……ですか?」
今度はムサシが口を開く。
「入ってくれ」
ムサシが部屋の外に向けて声をかけると、一人の男性が入ってきた。
「どうも〜」
三十代ぐらいに見える男は軽く手を上げて、ヒラヒラと振りながら軽く挨拶する。
「この人は大石光二、お前と同じテイマーだ」
「えっ、テイマー……なんですか?」
北形家は剣の家である。
なのにテイマーを呼ぶなんて意外だとキズクは驚く。
「モンスターと契約している事実は変えようがない。今回キズクが契約している二体の魔獣は確かにお前を助けようとした。ならば一緒に強くなるべきだろう」
ムサシの考えもまた意外だった。
リッカとノアのことをムサシもよく思っていないのだと思っていたが、そんなこともないのかもしれない。




