王親家のいざこざ2
「留守を任せたが、まさか勝手に封印を解くとはな」
「それは……私ではなく……」
「言い訳無用!」
「ぐっ!」
圧が強くなる。
「自分がしたことではないから責任がないとでも言うつもりか! 話は聞いておる! 貴様が甘やかしている不貞の子がしでかしたことだろう!」
「それは……そうですが……」
「このままなら当主はユウスケに任せることになるかもしれないな」
「なっ……!」
ヤヒコは怒りの混じった表情を浮かべて顔を上げた。
「俺はここまで王親のために身を粉にしてきました! あんなやつに当主の座を渡すなど……」
「ならば当主らしい振る舞いを身につけることだな。レイカさんとキズクはどうした?」
「……レイカとはすでに終わりました」
カナトが封印を解いてしまったことを知っているぐらいなのだから、レイカを家から追い出したことも知っているだろう。
舌打ちしたいような気持ちを抑えてヤヒコはサイゲンのことを見る。
「もう俺も子供ではありません。どんな相手と添い遂げるかは俺が決めます」
「子供ではない……か。子供ではないものが自分の妻と子を追い出して浮気相手を引き入れるのか」
「う……」
「あまつさえレイカさんは北形家のご息女だ。家同士の関係の悪化は子供ではないお前は考えたのか? 今回の騒動の尻拭いをしたのも北形家だ」
堂々とするつもりだったのにぐうの音も出ないほど正論を突きつけられた。
確かに誰と愛し合うかを決める権利はヤヒコにある。
しかし誰とでも愛し合える権利とそれによって生じる責任の問題はまた別である。
「権利を主張するなら責任を果たせ。西日本の封印全てを確認してくるんだ」
「なっ……それでは……」
「そうか、ならよいぞ」
「あっ、いえ! やります! やらせていただきます!」
もはや口答えする余地などなかった。
「今すぐ発て」
「はっ、分かりました……」
ヤヒコは慌てて部屋を出ていく。
これ以上サイゲンの心象を悪くしてはいけないとそれだけを考えていた。
「あやつもなぜこうなった……」
サイゲンは深いため息をついた。
元々ヤヒコは真面目で不倫したり、レイカとキズクを追い出すような人ではなかった。
なのにどこで道を誤って歪んだようになってしまったのかと頭が痛い。
「ご当主様」
「フジミか」
先ほどヤヒコを呼んできた和服の女性、藤見郷奈が部屋に入ってきた。
「まずはキズクとレイカさんだ。どうなってる?」
「すでに離婚は成立しています」
「あれほどできた人を……」
サイゲンからはため息しか出てこない。
もう離婚が成立してしまっているのならサイゲンにできることはない。
「二人はどうしている?」
「今は北形家に身を寄せているようです」
「北形家に? 絶縁されたものだと思っていたが……まああそこなら安心だな。あの子ならば後継者に、と思っていたのだがな……少し家を離れている間にこんなことになろうとは」
子育てを間違ったのだろうかとサイゲンはうなだれてしまう。
「それとなく気を使ってやってくれ」
「承知いたしました。加えまして北形家のご当主である北形様よりご当主様に話したいことがあるとご連絡が」
「私にか? レイカさんの一件以来頑なに連絡をよこさなかった奴が何を……」
「そのレイカ様、およびキズク様に関することのようです」
「ほぅ?」
サイゲンは眉を上げて反応する。
「連絡してくる……ということは二人と北形家の関係は悪くなさそうだな。惜しい人物を逃したものだが、結果としてみると良いところに収まったのかもしれないな」
ユキエとカナトの影響が家の中で強くなりすぎている。
今のままではヤヒコの正しい行動も期待できない。
ならば北形家にいる方がキズクのためになるとサイゲンも思った。
「ユウスケを探せ」
「ユウスケ様をご当主に?」
「……まだ分からないがこのままならヤヒコに王親は任せられん。ヤヒコ、カナト、ユキエも監視をしろ。怪しい動きがあればすぐに報告するんだ」
「承知いたしました」
「他にもあるのか?」
「たくさんあります」
「……ならお茶でも淹れてくれ」
サイゲンはめんどくさそうな顔をする。
回帰前にはなかった動きが一つ、キズクの知らないところで転がり始めたのである。




