覚醒者もいい人ばかりではない2
「‘チッ……セデナ、なんとかしろよ!’」
「‘あなたが死んでも私は構いません’」
「‘俺が死んで一人でこの人数相手にできるのかよ!’」
「‘そうなればあなたを盾にして時間を稼ぎます’」
男が女の方を見る。
しかし女の方は男に視線すら向けない。
「‘何をケンカしている?’」
「‘イザヤ様! 目的は果たされましたか?’」
ゲートからイザヤが出てきた。
女がサッと膝をついてイザヤに頭を下げ、男も少し遅れて同じように膝をつく。
「‘ああ、なかなか面白かったよ。それでこの状況は……’」
イザヤが上半身を逸らした。
「ちょっとあなた……ゲートの中でうちの息子見なかったかしら?」
レイカが魔力で作った斬撃を飛ばしていた。
イザヤの頬が浅く切れて血が流れる。
「‘イザヤ様!’」
「‘まあ待て’」
イザヤの血を見て女が殺気立つ。
けれどもイザヤは女を手で制する。
「知らないならさっさとそこを退けて……」
「中にガキが一人いる。運が良ければ生きて出てくるかもしれないな」
「なんですって?」
レイカも殺気立つ。
殺気だけではなく魔力も溢れてきて、イザヤは皮膚がひりつくような感覚にニヤリと笑顔を浮かべた。
「いいのか?」
「何が?」
「今ここで争えばその間にゲートが崩壊してしまうかもしれないぞ」
ハッとレイカはイザヤの後ろにあるゲートを見た。
青白く光るゲートの形が歪んでいる。
ゲートのボスモンスターであるサイクロプスが倒されてゲートが消えようとしているのだ。
「今なら見逃してあげるから……さっさと消えろ」
もはや残された時間もない。
また無駄口を叩くなら今度こそ切るつもりでレイカは一歩前に出る。
「ふふ、見逃してやる……か」
レイカの言葉を聞いてイザヤは愉快そうに笑った。
「‘セデナ、ブレイズ、行くぞ’」
イザヤはスッと道を開け、悠々とその場を後にする。
得体の知れない力をイザヤから感じたレイカはただ見送るしかできない。
「見逃してもらうなんて……初めてだね」
イザヤが立ち去り、レイカはゲートに飛び込む。
「キズク!」
キズクはゲートのすぐそばまで来ていた。
だがキズク本人は気を失っている。
リッカとノアが痛む体をおしてキズクを引きずってきていた。
「レイカ! キズクを助けてくれ!」
話せることはこれまで周りに秘密にしてきた。
けれどもそんなこと気にしている場合ではない。
「早くここを出るわよ!」
ゲートの中は細かく振動している。
木々が倒れて奇妙な空気に包まれていた。
もはやゲートの崩壊が目の前に迫っていて、ノアが話したことなんかレイカも気にしていられなかった。
レイカはキズクを抱えてゲートを取り出す。
リッカとノアも最後の力を振り絞ってゲートから出ていく。
「レイカ隊長!」
リッカとノアがゲートを出た瞬間、ゲートがシュルシュルと小さくなって消えていく。
「医療班を呼んで! 早く!」
キズクは生きている。
しかしかなり状態は良くない。
「赤剣隊、さっきの奴らを追いかけなさい! あの白髪の男は生きて捕まえるのよ!」
モンスターにやられたのではないとレイカも分かっていた。
ならばイザヤがやったのだと察した。
レイカの指示を受けて赤剣隊の覚醒者たちは走っていく。
「キズク……今ヒーラーが来るからね」
レイカは心配そうな表情をしてボロボロになったキズクの頬を撫でた。




