命懸けの戦い7
「くっ……!」
サイクロプスが雷を落とした時は地面が黒く焼け焦げていた。
一方でイザヤが雷を落としたところは地面がえぐれている。
イザヤが放った雷の方が威力が高い。
「はっ!」
けれども雷が放たれる予兆はもうなんとなく察知できている。
集中を高めて雷の予兆を見逃さなければ回避はできる。
キズクはイザヤに向かってグレイプニルを伸ばす。
「うん、やっぱり面白い……だから欲しくなる」
「うわっ!?」
イザヤはひょいとかわすとグレイプニルを掴んだ。
グッとイザヤが力を入れると、グレイプニルが引っ張られてキズクはイザヤの方に飛んでいってしまう。
イザヤは左手でグレイプニルを掴んだまま右手を硬質化させ、飛んでくるキズクを殴ろうとする。
「まだまだ!」
「へぇ、なかなかやるね」
「うぐ……!」
キズクは掴まれたグレイプニルを短くして空中で加速する。
顔を逸らして攻撃をギリギリのところでかわすと、逆にイザヤの顔面に拳を叩き込む。
しかし痛みを感じたのはキズクの方だった。
殴られた方のイザヤがニヤリと笑う。
イザヤの顔は半分が硬質化している。
硬くなった顔面をまともに殴ってしまってキズクの拳の方が出血しているぐらいだった。
「ほら、これはどうする?」
「ああああああっ!」
「キズクー!」
イザヤはグレイプニルに電撃を流した。
グレイプニルを伝って電撃が流れ、キズクの体が意思とは関係なく痙攣する。
「もう同じ手はくらわないよ」
飛びかかってくるリッカを硬質化した腕で受け止める。
「ギャン!」
「ぬっ……リッカ!」
リッカにも電撃をくらわせて、怯んだ隙に蹴り飛ばす。
「か……は……」
電撃で体が痺れて動かない。
グレイプニルも維持できなくなったキズクの首をイザヤが掴んで持ち上げる。
「さて、君の力もいただこうか」
イザヤの右腕から黒いモヤが出てくる。
黒いモヤは意思でも持つようにモゾモゾと動いてキズクに向かう。
「なんだこれ……」
黒いモヤが肌に触れる。
その瞬間とても不快な感情が胸に湧き起こった。
初めて経験する不快感で、なんでそんなものが湧き起こるのかと困惑すらしてしまう。
「やめろー!」
「はぁ、雑魚は近寄るな」
「ぎゃあ!」
「ノア!」
キズクを助けようとノアもイザヤに飛びかかる。
しかしイザヤは軽くノアのことをキャッチすると地面に叩きつけるように投げ捨てた。
「ん? ……ああ、そうなのか」
体の痺れは少しずつ治ってきている。
けれどもイザヤの力がキズクの力を遥かに上回っていて、全く抵抗できずにいた。
イザヤの右手から迫ってくる黒いモヤが口に入りそうになったところでピタリと止まる。
まるで何かと会話をするようにイザヤは独り言を呟く。
「どうやら満腹みたいだ」
「まん……ぷく?」
「食べすぎるといけないからな。残念だよ」
「……はぁ、ゲホッ!」
イザヤがキズクの首から手を離す。
首を絞められて呼吸も苦しくなっていた。
キズクはようやく得られた空気を吸い込み、赤くなった首を押さえながらイザヤを睨みつける。
「今日はお預けだ。運が良ければ君は生きていて、また会うこともあるだろう。運が悪ければ……それまでだ」
急に地面が揺れ出した。
「ゲートの崩壊が始まる。君は生きて出られるかな?」
イザヤは歪んだ笑みを浮かべるとキズクのことを殴り飛ばした。
「はははっ、気分がいい……今日は気分がいい」
キズクが地面を転がっていき、イザヤは大きく笑う。
「ああ、分かってるよ。僕もここに長居するつもりはない」
気を失って倒れるキズクの横を通り過ぎてイザヤは歩き出す。
イザヤは拳についたキズクの血を舌で舐めとる。
「腹を下すなよ? そうか。いや、時間はかかりそうか? うん、早く取り込んでくれよ」
ゲート内の揺れが大きくなっていく。
イザヤは揺れる中でも散歩でもするかのように軽やかに歩く。
「次は何を食べるかな?」
ーーーーー
「そこを退きなさい。じゃないと次は左腕どころじゃ済まないわよ?」
キズクが入っているゲートの近くにレイカはいた。
レイカの後ろには剣を持った人たちがいて、ゲートの前にはレイカを阻むように一組の男女が立っている。
すぐにでもキズクを助けにいきたいレイカは怒りの表情を浮かべ、ゲートへの進入を阻む男女を睨みつける。
男の方は左腕を肩口から切り落とされていて、痛みに険しい顔をしていた。
男の腕を切り飛ばしたのがレイカである。
「‘済まないがここは退けられない’」
男は痛みに顔を歪めながらも英語で返事をする。
「はぁ……ここは日本よ? 日本語で話しなさい」
レイカは深いため息をつく。
実は英語も分からないわけではない。
しかし英語が分かっていると教えてやるつもりも、英語で返してやるつもりもない。
「日本語を話さないのならもう一本ぐらい腕を斬り飛ばせば意図は伝わるかしら?」
「‘……くっ!’」
レイカの殺気に男がたじろぐ。
日本語は分からないが、激しい腕の痛みを思えば何をしようとしているのかは分かる。
「そう、死にたいのね。赤剣隊、殺しなさい。私が許可するわ」
レイカが後ろに指示を出す。
後ろにいた人たちは北形ギルドの人たちであり、レイカの指示に従って剣を構える。




