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伝説級モンスターを育てて世界の滅亡を防ぎます〜モンスターが人型になれるなんて聞いてないんですけど!?  作者: 犬型大


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命懸けの戦い5

「喰らえ」


 黒いモヤが広がりながらサイクロプスに向かっていく。


「キズク、大丈夫か!」


「ぐっ……流石に痛いな……」


 木に叩きつけられたキズクだったが、なんとか気を失わずにすんだ。

 回帰前の経験からとっさに自ら少し後ろに下がって威力を殺していたのだ。


 それでもぶっ飛ばされるほどの衝撃があって、目の前がチカチカする。

 殴られた顔面と木に叩きつけられた背中がひどく痛む。


 垂れる鼻血を腕でぬぐいながら不思議な白い髪の男に視線を向ける。

 リッカがぬぐって伸びた鼻血を心配そうにベロベロと舐める。


「何をしてるんだ……」


 キズクを助けに来たという感じではなさそう。

 助けに来た人がキズクのことを急に殴りつけるはずがない。


 殴打もまともに食らっていたら危なかった可能性がある。

 キズクが死んでも、死ななくてもどっちでもよかったのかもしれない。


「逃げるべきなのか……?」


 少なくとも不思議な白い髪の男はゲートの中に入ってきている。

 つまりゲートを阻んでいた雷も解除されている可能性があるとキズクは推測した。


「……ん? なんだ……」


 恐怖を感じた。

 ただキズクの胸に広がる感情は自分のものではない。


「サイクロプスの……感情?」


 何の感情なのか。

 キズクは身をよじって黒いモヤをかわそうとするサイクロプスを見る。


 得体の知れない黒いモヤが迫ってきて、サイクロプスはグレイプニルから抜け出そうと抵抗している。

 しかしグレイプニルに拘束されているサイクロプスはろくに身動きも取れないままに、足元から黒いモヤに飲み込まれていく。


「何なのだ、あれは」


 ノアも黒いモヤを見て顔をしかめる。

 黒いモヤを見ていると妙な胸騒ぎを覚える。


「分からない……でもすごく不愉快だ」


 キズクは怒りの表情を浮かべる。

 胸にサイクロプスの感情が流れ込んできてウルサイ。


 サイクロプスは黒い霧に飲み込まれることに非常に強い恐怖を感じていて、キズクは胸が張り裂けそうになっている。

 互いの合意により契約は成立する。


 キズクが本気でサイクロプスを受け入れたわけではなく、サイクロプスも本気で契約を交わしたわけではなかった。

 しかし互いにほんの一瞬、契約することを考えた。


 契約にも仮契約というものがある。

 本来は性格の穏やかで、話の通じるモンスターを一時的に手元に置いておくぐらいの意味で交わされるものだ。


 キズクもモンスターを育てていた時は多くのモンスターと仮契約を結んでいた。

 今キズクとサイクロプスは繋がっている。


 仮契約のような不安定で不確かな繋がりであるが、なぜか繋がってしまったのだ。

 サイクロプスの恐怖が流れ込んでくる。


 止めねばならないとキズクは思った。

 なぜそう思ったのか分からない。


 サイクロプスはキズクを殺そうとしてきたモンスターである。

 倒せるなら倒したほうがいい。


 だが一方でモンスターはこれから人類の希望となり味方ともなる存在にもなる。

 リッカやノアは共に歩むべき仲間であるのだ。


 サイクロプスがそうなるかは分からない。

 でも今不思議な白い髪の男がしていることは、モンスターに対するひどく侮蔑的な行為であると確信のようなものがあった。


「ご主人様!」


 キズクは不思議な白い髪の男に向かって走り出す。


「やめろぉ!」


「うっ!」


 キズクは飛びかかるようにして不思議な白い髪の男を殴りつけた。

 不思議な白い髪の男はキズクのようにぶっ飛びはしなかった。


 サイクロプスを飲み込もうとしていた黒いモヤは消えることはなかったけれど、途中で止まる。


「何をするんだい?」


「ぐっ!」


 ほんのわずかにのけぞっただけの不思議な白い髪の男はキズクの首を鷲掴みにする。

 細腕に見えるのに力が強い。


 足がつかないほどに持ち上げられてキズクは苦しそうに顔を歪める。


「ご主人様を放せ!」


「チッ……」


 不思議な白い髪の男にリッカが飛びかかる。


「なに?」


 リッカを殴りつけようとした手が動かなくなった。

 不思議な白い髪の男が視線を手に向けると、キズクが右手からグレイプニルを伸ばしていた。


「……やっぱり君の能力じゃないか」


 不思議な白い髪の男は左腕を差し出して、リッカが噛み付く。


「なに……」

 

 本気で噛んだ。

 なのにリッカの牙はわずかに食い込んで止まった。


 普通の人なら噛みちぎることだってできるほどにリッカのアゴの力は強いはずなのに、牙がそれ以上入らなくてリッカは驚く。


「あそこのデカブツに絡みついているのと君の力は同じだ。君はなかなか素敵な力を持っているね」


 それでも牙は食い込んでいて血が流れる。

 けれども不思議な白い髪の男は血も痛みも全く気にしないように笑ってキズクを引き寄せる。


「ふふふ……その力は面白い。君も食べてしまおうか」


「ええいっ! キズクから離れよ!」


「おっと」


 横からノアが飛んでくる。

 不思議な白い髪の男はキズクから手を放してノアを軽くかわす。


「返すよ」


 不思議な白い髪の男はリッカが噛み付いている左腕を振る。

 左腕からリッカが外れてキズクに向かって飛んでいく。


「リッカ! うわっ!」


 かわすわけにもいかなくてキズクはリッカを受け止めるが、踏ん張りきれなくてリッカ共々後ろに転がってしまう。

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