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謀略、変化、奥の手1

「悪いな、キズク……」


「いえ、そのうちこうなる可能性があることは分かっていました」


「決してこの間のことが原因ではないんだ。急に監査が入ってな。どうにもお前の存在を疑っているらしいんだ」


 カナトが来てから数日後、キズクは泉ギルドを仕事のために訪れていた。

 泉ギルドとキズクの関係は非常に微妙なものである。


 昔は未成年の覚醒者活動は禁止されていたのだけど、若い段階から覚醒者として力に目覚めた人が増えてくると活動年齢も引き下げられていった。

 ある覚醒者のおかげで今では中学生も覚醒者としての活動が許されているが、それも自由というわけではない。


 学業に影響が出ないようにとか、保護者の許可が必要とか制約がある。

 一方でキズクは母親にバレないように活動している。


 つまり保護者の許可をもらっていないのだ。

 泉ギルドの方も正式な手続きを踏んでおらず、ちゃんとした雇用契約も結んでいない。


 子供が知り合いのお店でちょっとしたお手伝いをして、代わりにお小遣いをもらっている。

 それぐらいの関係なのである。


 もちろんレイジはしっかりキズクに装備を用意したり、ギルドの一員として迎えてくれていた。

 しかしやはり堂々と公言できる関係じゃないのだ。


「監査の目が光ってるうちはお前を働かせることはできない。今日は帰れ。また落ち着いたら話そう」


「分かりました」


「これは今日の分だ」


「何もしてないのに……」


 レイジは封筒を差し出した。

 仕事もしていないのにとキズクは焦る。


「いいさ、これぐらい。……どうやらお前に目をつけて監査が入ったようだ。何か問題があるなら仕事とは関係なく連絡をくれ」


「……ありがとうございます」


 少し驚いた。

 封筒を受け取ってキズクは泉ギルドの建物を出て、やはりこうなったかとため息をつく。


「分かっておったようだな」


 キズクに動揺が見られなかった。

 このようになることはすでに想定済みだったのだろうとノアは目を細めている。


「ああ……でも少し意外だった」


「んー?」


「回帰前は……クビになったんだ」


 回帰前も同じことがあった。

 ただしほんの少し結末は違う。


 今回レイジはキズクがしばらく働けないと言っただけで、落ち着いたらまた働ける含みを持たせ、何かあれば助けてくれるようなことを口にした。

 回帰前はキズクは泉ギルドをクビになった。


 もう来るなと言われて、キズクは大きなショックを受けたものだ。


「こんなところも変わったんだな」


 泉ギルドで働けなくなったという事実は変わらない。

 しかしどうクビにされるかによって、受ける印象もだいぶ違うものである。


「それにしても大丈夫なのか?」


「なにが?」


「あそこで働けなくなったら困るのではないか?」


 リッカの食費などを泉ギルドで働いてまかなっていた。

 キズクの唯一の収入源が絶たれた形になるのだ。


「困るよ。回帰前はショックだったし、これからどうしようかと悩んだな」


「ふむ……今は悩んでない?」


「悩んでるよ。ただ回帰前のように狼狽えてはいないだけ」


 ノアの目にはキズクにどうにも余裕があるように見える。


「クゥーン……」


「ん? そんな目するなって。大丈夫だから」


 キズクのお金が自分に出ていることを分かっているリッカはまた申し訳なさそうな目をしている。

 笑顔を浮かべてリッカの頭を撫でてやるけれど、リッカの気分は晴れなかった。


 ーーーーー


「急に家賃の値上げってなんでですか!」


「うむ……少し荒れておるのぅ……」


 ベッドの上に座るキズクにリッカとノアが体を寄せている。

 リビングではキズクの母親である麗華レイカが電話をしている。


 薄いドアでは物音を防ぐことはできず、レイカの声は丸聞こえになっている。

 会話の内容は家賃の値上げについてだ。


 急に家賃を値上げすると連絡があってレイカは抗議のために電話しているのである。


「そんな……急に値上げと言われても困ります!」


 電話での交渉はあまり上手くいっていないような声色をしている。


「……これも分かっていたのか?」


 思わず荒くなっているレイカの声にリッカは少し怖がっている。

 けれどもキズクは相変わらず冷静だ。


「……うん」


「仕事をやれなくなったことといい……何か繋がりを感じるな。お金周り……か?」


 キズクの生活に大きな影響を与えそうな出来事が連続している。

 起きた出来事で何の影響を受けるかとノアは考えた。


 ギルドで働けなくなればお金が得られなくなる。

 家賃が上がれば生活が苦しくなる。


 金銭的なところに負担がかかってくる。


「そういえばこんなことの前には生活が苦しいなら助けてやる……と言ってきた奴がいたな」


「正解だよ」


 ここまでで起きた出来事はカナトが関わっている。

 泉ギルドに急に監査が入ったことも、家賃が急に値上げされたことも、どちらもカナトが裏で手を回している。


「もっと正確にいえばあいつの母親だろうがな」


 今のカナトにそこまでの力はない。

 何かしているとしたらカナトのさらに裏にいるカナトの母親である。


「どうするつもりだ? このままでは……むっ、別にお主を追い出そうというわけではない!」


 リッカが恨めしそうな目でノアのことを見ている。

 まるで自分がカナトのところに行けば解決するようにも聞こえた。


「心配するな。手はある。だから行くなよ?」


 キズクが手を伸ばすとリッカの方から頭を擦り付けてくる。

 この意味を回帰前のキズクは知らなかった。


 しかし今は知っている。


「絶対に……今回はお前を手放さない」


 ーーーーー

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