出来ることから13
「お前がいなかったらどうなってたことか……つまらない欲に駆られて命を落とすところだった」
「運が良かったですね」
「あんな目に遭って運が良いわけないだろ」
トシはフッと笑う。
「お前が意外と強かったこととか、なんだか急にベテラン覚醒者みたいな雰囲気出したりしてることとか、気になることはたくさんある。だけど聞かない」
助けられた身で色々と質問なんかするべきではない。
疑問があっても、ただ感謝だけしていればいいのだ。
言いたければきっとキズクの方から言うだろうとトシは思った。
「トシさんは告白しないんですか?」
キズクとしても触れられたくはないので、サラッと話題を変える。
回帰前、トシが死んでトシの彼女が泉ギルドに乗り込んできた。
レイジのせいではないだが、どうしても我慢ならずに怒鳴り込んできたのだ。
最後には泣き崩れていて、トシと真剣に付き合っていたのだなと思ったことは覚えていた。
「……結婚するつもりだよ」
少し照れくさそうな顔をしてトシは答えた。
「だから指輪買ったんだ。そのせいで金無くてな。プレゼントまで回らなくて……だからもう少しだけ金があればプレゼントも、って思ってしまった……」
トシは比較的慎重な人で、あまりリスクを取ろうとはしない人だ。
普段ならゲートになんて入らなかっただろう。
しかし今回はなぜかタカマサの誘いに応じた。
それはお金がなかったからである。
トシは婚約指輪を購入していて、プレゼントまで買う余裕がなかった。
だからタカマサの誘いに、お金が欲しくて魔が差したのである。
「もうこんな無茶しないでくださいね。きっとブランド物もらうことよりもトシさんがいてくれることの方が大事だと思いますから」
ゲートが増えてモンスターとの戦いがより激しくなっていくとさまざまな人がさまざまな人を失った。
配偶者、パートナー、友達、あるいはほんの少し気になっている人も差別することなく奪い去った。
一緒にいることが大事、一緒にいれることのありがたさは相手がいなかったキズクも周りから学んだ。
誰かがそばにいることだけでも心が軽くなる。
キズクはリッカとノアのことを撫でた。
「なんだ、今日は年上みたいだな。だがお前のいう通りかもしれないな」
恋人もいないと言っていた子供の言葉なのになぜか重みのようなものを感じた。
「これからは真面目に生きるよ。せっかく拾った命をまた捨てるわけにはいかないからな。今度は愛の為にでも頑張るさ」
「応援してますよ」
「お前も困ったことがあったら言えよ? 金は貸せないが……俺にできることならするからさ」
「いざとなったら頼りにしますよ」
回帰して一日目、まだ何も整理できていないけれど、出来ることはやった。
二人の人を救った。
二人の死によって影響を受ける人のことを考えるともっと多くの者が救われたかもしれない。
「変えられる……のか」
「なんか言ったか?」
「いいえ、みんな無事でよかったなって」
勇気を出してみれば変わる、変えられる。
やる気だったけど、よりやる気が出た。
出来ることから始めてみればいい。
小さな流れがきっと大きな変化を生む。
キズクは長い道のりの小さな一歩を踏み出したような気分で窓の外を見たのだった。