出来ることから10
「色々考えてたけどこれが使えるならかなり楽になるな」
ゲートの中に入ってきた目的のためにキズクは色々と作戦を練っていた。
今の状態では大変かもしれないと思っていたけれど、グレイプニルの能力が使えるなら難易度は大きく変わる。
「キズク! 向こうの方から来ておるぞ」
「向こう? 見えてるのか?」
「僕はフクロウだぞ? わずかな光があれば見えているさ」
ゲートの中は洞窟になっていて暗い。
懐中電灯の光も奥まで届かず、遠い距離を見通すことはできない。
しかしそれはキズクの目ではという話である。
ノアの目にはさらに遠くが見えていた。
フクロウであるノアはわずかな光でも暗闇を見通すことができるのだ。
「隠れようか」
キズクは横穴の位置を確認し、グレイプニルを伸ばすと懐中電灯のスイッチを切る。
暗い中グレイプニルの感覚を頼りにして、横穴に入ると息をひそめる。
カサカサと音がしてアリがキズクの近くを通り過ぎていく。
「……大丈夫そうだな。結構見えてるのか?」
「今は真っ暗だから見えていないが、ちょっとした明かりがあれば結構見えるぞ」
「それは助かるな」
聴覚や嗅覚のリッカだけでなく、視覚としてノアが役立ってくれるのはありがたい。
キズクは笑顔を浮かべてノアの頭を撫でる。
「よし、このまま進んでいこう」
キズクはリッカとノアの能力を活かして、アリを避けつつダンジョンの奥に進んでいく。
「キズク、この先に空間がある。そこに大きいのがいるぞ」
ノアがキズクには見えない先を見通す。
奥についたようで、ボスと思われる個体がノアの目には見えていた。
他のアリよりも体が大きく、アゴが発達している。
アゴが大きいので、ほんの少しだけクワガタにも似ているかもしれない。
キズクは懐中電灯をタオルで覆って隠す。
ほとんど光は漏れないけれど、それでもノアの目には周りが見えるようだ。
キズクは壁に手をついて、ノアの助けも借りながらボスアリがいる部屋の手前まで移動した。
「ノア、ボスの後ろの方……上らへんに穴があるの見えるか?」
「穴? ……確かに何かあるな」
キズクに言われてノアはボスアリのさらに奥をに注目した。
ボスアリの後ろの壁の上の方にへこみのようなものがある。
「まさか、あそこに行くつもりか?」
「そのまさかだ」
「どうやってあんなところに……」
「それを悩んでたんだけど、今はこれがあるからね」
キズクはグレイプニルを出した。
ゲートの中に入ってきた時点で明確な作戦はなかった。
だがグレイプニルがあるなら目的は果たせる自信が今はある。
「ノア、飛べるか?」
「ふむ……今なら行けそうだ」
ノアは翼を広げて肩から頭に移動する。
回帰したばかりの時は体も上手く動かなかったけれど、キズクの肩で休んでいる間にいくらかマシになった。
戦ったり激しく飛び回ることは無理だが、飛ぶぐらいならできる。
「よし、じゃあ作戦はこうだ……」
キズクはノアに作戦を伝える。
「ふむ……いけそうだな」
「頼むぞ。リッカは大人しく待っててくれ」
今回の作戦でリッカは待機となる。
しょぼんとした顔でキズクのことを見上げて、ちょっと心苦しく思うが、無理はできない。
「それじゃあ、始めるぞ」
キズクは荷物の中からサイリウムを取り出した。
ボスアリに見えないところでパキッと折って光らせるとノアに渡す。
「では行くぞ」
ノアがサイリウムを持ってキズクの肩から飛んでいく。
「ここだ!」
まずノアが向かったのは天井であった。
天井から垂れ下がるつらら岩の横で止まってキズクを呼ぶ。
下ではアリがノアに気づいてアゴを鳴らして威嚇するような音を立てている。
キズクは一気に部屋の中に飛び込んでいき、手を伸ばす。
グレイプニルがキズクの手から放たれて岩にグルグルと巻きついた。
「はっ!」
ボスアリがキズクに気づいた時には、すでにキズクは飛び上がっていた。
グレイプニルを縮めて体を引き寄せ、大きく高く跳躍した。
ボスアリを越え、ボスアリの後ろにあった穴を目掛ける。
ノアはさらに移動して穴をサイリウムで照らす。
「届か……」
ちょっと届かなさそう。
飛びながらキズクは穴の中にグレイプニルで掴めそうなものはないかと探す。
「アレだ!」
穴の奥にキラリと光るものが見えた。
キズクはグレイプニルを伸ばす。
「うおっと……危ない……」
「キズク!? 大丈夫か!」
やはり距離が足りなかった。
ギリギリのところでグレイプニルは奥の何かに巻きついて、落ちる寸前で持ち堪えた。
チラリと下を見ると待ち受けるようにアリがアゴを鳴らしている。
「大丈夫だよ、ノア」
サイリウムを置いたノアがキズクの服を掴んで穴の中に引っ張り上げようとしてくれる。
流石にほとんど意味はないけれど、心配してくれることは伝わる。
キズクはグレイプニルを縮め、掴んで引っ張りながら壁を登っていく。
「よいしょ……」
もうちょっと体鍛えなきゃな、とキズクは思った。
若さゆえの体力はあるけれども、ジャンプ力もグレイプニルを引っ張る力も足りなかった。
だから跳躍距離が足りなかったのである。
よく見れば腕も細い。
若い今なら体を鍛えるのにも良い時期である。