出来ることから9
「ふふ、説明することも多いな」
「君が何も説明せんのが悪い」
「そうだな……まずはこれから説明しようか」
キズクは歩きながら手からロープを出した。
ロープの先端がノアの前まで飛んできて、頭を優しく撫でる。
ただのロープではなく、完全にキズクの操作下にあるようだ。
「契約スキルさ」
「契約スキル?」
「そうだよ。一部のモンスター高親和性を持つ人が、一部の高適性モンスターと契約して、高好感度の時に使える能力のことだよ」
「こ、こうしんわ……?」
キズクが何を言っているのか分からないとノアは目を丸くして首を傾げる。
「要するに、リッカとか能力の高いモンスターと相性バッチリな人が契約を結んで仲良くなると特殊な力が使えるようになるってこと」
覚醒者にはモンスター親和性という目に見えないステータスのようなものがある。
いくつかのモンスターのタイプによって親和性も種類分けされていて、親和性が高い種類のモンスターとは契約しやすく、力も引き出しやすい。
中には高親和性といって、特定のモンスターのタイプにおいて非常に高い親和性を持っている人もいる。
一方でモンスターにも人と契約しやすい性格や能力といったものがある。
一部のモンスターは強い力や特殊な能力を持っていて、そのモンスターと高い親和性を誇る覚醒者が契約して絆を深めると、特別なスキルを使うことができるようになることがあるのだ。
それが契約スキルである。
リッカも高い能力を誇る特別なモンスターであり、キズクは高親和性覚醒者であった。
そして回帰前の今の状態でも仲がいい自信がある。
だからリッカの契約スキルを使えたのである。
「よくそんなもの使えると知っていたな」
「……これも回帰前に知ったことなんだ」
回帰前の今の時期には契約スキルなんてものは使えなかった。
だからリッカが契約スキルを使えるような魔獣であることも知らなかった。
「運命のイタズラか、カナトと近いところで活動することがあったんだ」
生きるためにはなんでもしなければいけなかった。
屈辱にまみれようともキズクはお金を稼ぐために覚醒者として働いていて、そこに弟であるカナトがいた。
リッカは弟に奪われていたのだが、その時にリッカの契約スキルがキズクに使えたのである。
「……思えばあれは、リッカからの最後のチャンスだったのかもしれない。助けの声だったのかもしれない。……あの時にリッカを取り戻していれば……」
だがキズクは契約スキルが使えることが怖くなってしまった。
カナトにバレないように契約スキルが使えることは隠してしまったのである。
ただやはり少し気になって使う練習はしたものの、カナトとリッカと離れると契約スキルはまたつかえなくなった。
「キズク……」
いつの間にか立ち止まり、後悔の目をするキズクの頬をノアが翼で撫でる。
リッカも心配そうに足元に擦り寄る。
カナトと契約していたはずなのに、どうして自分に契約スキルが使えたのかキズクには分からない。
だがもしかしたらリッカからのメッセージだったのかもしれないと今は思う。
まだキズクとリッカは繋がっているのだと、そして自分をカナトのところから取り戻してほしいという思いだったのではないかと思うのだ。
回帰前に流れてきたリッカの記憶の中で、その時のことは見られなかった。
だからどのような思いだったのかは今となっては分からない。
「反省はしても後悔はするな。過去は変えられない。未来をどうするのかを考えろ」
「ノア……」
回帰前の過去にあった出来事をいくら後悔したところで変えられない。
心に影を落としたところで自分が辛くなるだけである。
ならば後悔はやめて、糧にして前に進むしかない。
「そうだな。今回はもう契約スキルが使える。それだけでも十分だよな」
契約スキルが使えることから分かることがいくつかある。
キズクはリッカと契約していて、リッカは契約スキルが使えるほどの魔獣で、キズクはリッカとの親和性が高くて、そしてキズクとリッカの絆は契約スキルが使えるほどに深いのだ。
「んーーーー!」
なんだか嬉しくなってきてリッカの顔を揉むように撫でる。
リッカは目を細めながらもそれを受け入れる。
「今度は手放さない」
キズクは自分の額をリッカの額に合わせて軽く目を見つめる。
「このスキルの名前はグレイプニル。使いようによってはなんでも魔法のロープさ」
もしかしたら、今この力が使えるのは今度こそ全てを手放さない、今度こそ全てを繋いでおくために与えられたのかもしれない。
そうキズクは思えた。
「まあでもさっきの戦いでは上手く使えた方だと思うよ。想像よりも俺の自由に動いてくれた」
こっそり練習はしていたとはいっても実戦で使うのは初めてである。
上手くできるか不安はあったけれど、グレイプニルを上手く扱うことが出来た。
「もうかなり使い慣れてるように見えたけどな」
「そんなことはないさ。ドキドキだったよ」
どこまで出来るのかも分かっていないので加減も難しかった。
アリがそんなに強くなかったから助かった。