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出来ることから8

「はあっ!」


「おおっ! すごいではないか!」


 キズクは攻撃をかわしてアリの足を切り付ける。

 ノアは器用にキズクの肩に足で掴まったまま、翼で口を押さえて感動している。


 確かにノアの前ではモンスターから逃げ回ることも多かったけど、そんなに何もできないわけじゃないぞとキズクは思う。


「リッカ!」


「ワフ!」


 キズクが足を切って怯んでいるアリにリッカが襲いかかる。


「へっ、犬っころもやるではないか」


 ノアがつまらなそうな顔をする。

 リッカは爪に魔力を込めてアリの頭を切り裂いて、あっさりと倒してしまった。


 情けない姿でも晒してキズクに呆れられればいいのにと思っていたが、意外とリッカも戦えるものである。


「魔力も使えそうだしアレを試してみようか!」


 一つ思い出していたことがあった。

 回帰前には分からなかったこと、そしてリッカの思いも知って思い出すと申し訳なさが胸いっぱいになる出来事。


「グレイプニル」


「おおおっ!?」


 キズクが伸ばした左手から黒いロープが飛び出してきた。

 まるでリッカの毛を束ねたような黒いロープは、キズクの思い通りに動いてアリに絡みつく。


「な、なんだあれは?」


 黒いロープに絡め取られたアリは浮き上がり、逃れようとジタバタともがく。

 けれども黒いロープはびくともしない。


「このまま締め上げる」


 ギュッとロープが締まってアリを締め上げていく。

 ミシミシと音がして、耐えきれなくなったアリの体が背中側にくの字に折れ曲がってしまう。


「おっと!」


 仲間の死も気にする様子はなくアリはキズクに襲いかかる。

 キズクはロープを操って天井から突き出ている岩に巻きつけた。


 ロープがキズクの体を引っ張り上げ、キズクはアリを飛び越えて攻撃を回避する。

 振り返りながら左手をアリに伸ばすとロープがアリの体に巻きつく。


「おりゃー!」


 キズクが腕を引くと体がアリの方に引き寄せられる。

 引き寄せられる勢いを利用してアリの頭に剣を突き立てる。


「キズク、カッコいー!」


「うん。いい感じ」


 忘れていた。

 若い頃はそんなに運動神経も悪くなかったのだけど、契約した魔獣もおらず自信を失っていたキズクは前に出て戦うことも少なかった。


 でもやれば意外と出来るものである。

 回帰前も多少は戦っていたので、そうした経験があるから動けるところはある。


 あるいは、今は心強い仲間がいるからかもしれない。


「トシさん、危ない!」


 キズクに気を取られてトシの後ろにアリが迫っていた。


「あっ……」

 

 キズクはロープを伸ばしてアリの首に巻きつける。

 そのまま腕を引いてロープを引っ張ると、アリの首が一回転してねじれる。


 倒れるアリの後ろでリッカが残るアリに襲いかかっていた。

 乱雑にアリの頭に噛み付くと、アリの体を持ち上げて壁に叩きつける。


 アリは動かなくなるけれど、念のためにとキズクは剣で頭を切り落としておく。


「ふぅ……」


 リッカに他のアリが来るような反応は見られない。

 ひとまずモンスターの襲撃を乗り切ったようだ。


「お前……あんなのどこで……」


「俺も戦えるようになりたくて練習してたんです」


 キズクは笑顔でサラッと嘘をつく。

 こっそりした練習の成果ではなく、回帰前の経験があるから戦えたのである。


「そ、そうなのか……」

 

「それにでもすごいな! あんなにあっという間に倒しちゃうなんて……俺は自分が情けないよ」


 タカマサは痛みに顔を歪める。

 足の痛みは時間が経つほどにひどくなっている。


「とりあえずどうやってここから抜け出すかだな」


 トシは改めて崖を見上げるが、もちろん崖は低くなったりとしていない。


「ゲートのすぐそばに横穴みたいなものがありました。もしかしたらどこかから回れるのかもしれません」


 キズクは冷静に周りのことを確認していた。

 ゲート近くに道のような穴があった。


 きっと回っていってゲートに戻れるのだろうと見ていたのである。


「俺が探してきます」


「キズク君? それは……」


「俺なら大丈夫です。結構強いの見ましたよね? それにリッカがいれば先に相手を察知して避けることもできますし」


「確かにそれはそうかもしれないが……」


 キズクがそれなりの強さがありそうだということは目の当たりにした。

 それでもキズク一人に行かせるのはどうなのかとトシは悩む。


 しかし一方でタカマサを置いていくわけにもいかないし、回っていけるかも分からないのに連れていくこともできない。


「任せてください。道を見つけてきますので」


「あっ……」


「まあ、任せてみようぜ……情けない大人はここで怯えてればいいんだ」


「俺は怯えてなんかいないぞ。いざとなったらお前を捨てて逃げる」


「そうしてくれ」


 タカマサは足に負担のかからない座り方を探しながら呆れたように笑った。


「して、何をするつもりだ?」


「言っただろ? 目的があるってな」


「それは覚えておる。具体的に何をするかだ。お前が戦えることは分かったけれど無茶はいけないぞ。そもそも、あれはなんだ?」


 あれとはキズクが手から出したロープのことである。

 ノアはキズクがあんなものを使っているところ見たことがない。

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