部活対抗戦3
「試合、始め!」
「……きゃあ!」
犯人は誰か。
そんなことを考えている間に試合が始まってしまった。
何にしても戦いが始まればリュウセイの力が分かるだろうと思っていたが、戦いはすぐに終わってしまった。
試合が始まった瞬間に、リュウセイはトミナガと距離を詰めて刀で斬りつけた。
流れるような、一瞬の出来事である。
保護魔法の耐久度も一撃で無くなってしまい、トミナガは負けてしまった。
「……すいません」
「いや、あれは相手が悪かった」
トミナガはあっさりと負けてしまったことに落ち込んでいるが、あれはしょうがないとキズクも思う。
あまりに実力差がありすぎた。
怪我をしないで戦いを終えただけでもいい。
やはり記憶違いではなく、未来において独眼竜と呼ばれた実力のある覚醒者だったリュウセイの若い頃であるようだ。
勝ち抜き戦であるためにリュウセイは次も出る。
タケダたちの方はリュウセイの勝利に盛り上がっているけれど、リュウセイはあくまでもクールな態度を崩さない。
「……あいつも欲しいなぁ」
かなり強い相手。
どう打ち崩すべきか考える前に、キズクはリュウセイもテイマーにならないかなと思っていた。
回帰前、独眼竜と呼ばれていたリュウセイが魔獣と契約していたかどうかキズクは知らない。
もしかしたらいい魔獣と契約していたらもっと活躍できていた可能性もある。
ただ、剣術極める系の人はテイマーになることに抵抗が大きい。
加えて回帰前に見たリュウセイの性格だと、仲良くなるのもなかなか難しそう。
そんなことを考えている間に次鋒のテラニシダイキもリュウセイに負けてしまった。
「……私が行く」
二敗することは想定の範囲内である。
問題はここからである。
いまだにリュウセイの実力の一端すら見えていない。
三人の中で誰が行くべきか、少し悩んでいるとシホが覚悟を決めた目でキズクのことを見た。
「勝てそうか?」
「……分からない」
シホも自分が同年代最強だとは思っていない。
上には上がいるもので、リュウセイとの戦いは勝てたとしても簡単にはいかないだろうと思っていた。
でも自分のためにみんな戦おうとしてくれている。
後ろで見ているだけなんてできなかった。
「少なくともあいつのことを弱らせてみせる。そうすればキズク君なら勝てるでしょ?」
「負けるつもりはないけどさ」
「きっと残りのやつは大したことない。だから私があいつを弱らせる。もしかしたら勝てるかもしれないし」
「いや、きっとウエスギなら勝てるよ」
リュウセイは確かに強い。
しかしシホだって強い。
キズクに負けて、シホはさらに努力を重ねていた。
時々手合わせを頼まれるものだからキズクも応じたりして、シホと切磋琢磨していた。
「行ってくる」
「ああ、頑張れよ」
シホは微笑みを浮かべてキズクに対して頷くと、ステージに向かう。
タケダたちもここでシホが出てきたことにざわついている。
果たしてここでシホを出したことが凶と出るか吉と出るかは分からない。
しかしシホがやる気になっているのだから、キズクはただ見守る。
「あんたがウエスギシホか。入試組で一番強いらしいな。お前とは戦ってみたかった」
ここまでほぼ無言だったリュウセイが、シホに対しては反応を見せた。
リュウセイも強さを求める部類の人間である。
推薦組はどうしても実力を見せる機会がなくて、入試組の話の方が聞こえてくる形となる。
その中でもシホはやはり頭一つ飛び抜けて強いと言われている。
だからリュウセイも興味を持っていた。
「……ううん、私が一番じゃないよ」
シホは柔らかな笑みを浮かべて首を振る。
「何?」
「本当に強い人は別にいるんだ」
少し前までならムッとして答えていたかもしれない。
こんなふうに戦う前に苛立って心乱されていたことだろう。
だけど今は素直に認められる。
負けたことだけじゃない。
キズクもキズクで努力をしていることを知ったし、リッカやノアも頑張っているのだ。
魔獣の強さにあぐらをかいているわけじゃなかった。
キズクはシホに才能があり、自分にはそんなに才能がないという。
でもそんな才能の差を埋めるほどに頑張れるのだから才能があるだろうと思えた。
「……なら君を倒して、そいつも倒そう」
「私も負けるつもりはないよ」
互いに武器を構える。
シホも笑顔を消して真剣な顔つきに変わり、場の空気が張り詰めていく。
「始め!」
お互いに前に出てステージの真ん中で剣と刀がぶつかった。
斬り合いが始まるけれど、今のところ実力は互角。
最後にそれぞれ攻撃が体をかすめて、保護魔法が少し削れる。
「やるな」
「あなたもね」
息を呑むような攻防。
本当に一年生同士なのかと疑いたくなってしまう。
「上杉流……第一剣」
シホの体から魔力が溢れ出す。
魔力と剣が一体となって動く。
「月影刀法第一式!」
シホの剣術とリュウセイの刀術がぶつかり合う。
「これも互角……」
「いや、シホの方が押されてる」
一見すると力は拮抗しているように見える。
しかしキズクはシホの方が押されていると感じていた。
「危ない!」
リュウセイの刀がシホの目前をかすめた。
ほんのわずかな差でシホの剣術が破られたのである。




