部活対抗戦1
「だいぶ大事になっちゃったけど……大丈夫かな?」
タケダの部活は花菱会といい、タケダに近い子たちが集まっている。
第二テイマー部は花菱会と話し合いを続けて、部活対抗戦の条件について擦り合わせていった。
交渉は主にソウが担当して行なって、部長のムギと当事者であるキズクとシホでチェックしていた。
話し合いを重ねる中で、いつの間にか部活対抗戦の話は大きなものとなってしまった。
「なんで……互いに廃部をかけた戦いに……」
相手が怯むこともあるかもしれないと思っていたが、タケダの方も自信があるのか、かなり大きく出てきた。
シホの退部が争点だったはずなのに、互いの部活の存続をかけた戦いになっていたのである。
「すまない……僕がもっと上手くやっていれば……」
「いや、結局先生も了承したんだし……どうしようもないよ」
途中からおかしなことになっていると感じてムギも止めていたのだけど、廃部を含めた部活対抗戦の条件がなし崩し的に先生レベルで承認されてしまった。
廃部なんて条件を認めるつもりはなかったのに、先に先生の方が認め、学校が部活対抗戦の条件だとしてしまったらどうしようもない。
どんな手を使ったのかは知らないけれど、裏で手を回したことは間違いない。
「まあ勝つしかないですね」
決まってしまった以上はやるしかない。
辞退すれば一方的に条件を飲むしかないので、結局廃部になってしまう。
戦って勝つしか残された道はないのである。
「条件的にはこっちにも悪くないので勝算は十分にありますよ」
そうして部活対抗戦の日を迎えてしまった。
誰が漏らしたのか知らないが、部活対抗戦の話は周りにも広まっていて、周りにとっては面白いイベントのような扱いを受けていた。
戦うためのステージがある武道場に第二テイマー部と花菱会は集まっている。
日曜日の開催ということで、観客席には面白半分で見にきた生徒も詰めかけていた。
「まあ俺に終わる可能性すらあると思いますよ。なっ! レオン!」
「うるさい……」
今回の部活対抗戦の最初の案は、一年生のみ五人での勝ち抜き戦だった。
正直三年生まで含めると第二テイマー部の方が圧倒的に分が悪かった。
そのための苦肉の策として一年生のみとしたのである。
ただ悪くない作戦だとキズクは思う。
一年生にはシホがいて、キズクがいる。
シホの実力は一年生でもトップクラスだし、キズクもそれなりに強い。
テイマー部と戦うのだから魔獣はありと条件も突きつけてあるので、キズクの力は最大限に発揮することができる。
そこを理解しているソウも流石にその条件は譲れないと粘ろうとしたところ、タケダの方もあっさりと受け入れてきた。
余裕なんてことは言わないが、勝算はある戦いだと思っていた。
さらに今回はもう一つ手も打ってある。
「……どうして俺が」
「テイマー、やってみるんだろ? それに俺に迷惑かけたお詫び代わりだと思ってくれよ」
互いに一年生で五人のメンバーを選ぶことになったのだけど、キズクとシホ以外で戦えそうなメンバーはいなかった。
そこでキズクは一人、暇そうにしている奴を引き入れた。
それはレオンである。
コボルトゲートでの一件からもあまり関係は改善したとは言えなかった。
ただレオンがキズクを嫌って邪険にしているというよりも、照れ臭さがあるような距離のでき方になっていたのである。
キズクはレオンにテイマーになってみればいいと言った。
レオンも確かにそのことは否定できない考えだと感じていた。
なので襲いかかってきたことの贖罪とテイマーへの第一歩としてテイマー部に引き込んだ。
レオンとしても呪詛を吐きながらキズクに襲いかかった負い目は大きい。
断りきれずに部活対抗戦に出ることになったのだ。
「ただ……そう簡単には行くかな?」
ソウはステージを挟んで反対側にいるタケダのことを見る。
ソウの視線に気づいたタケダはニヤリと笑う。
タケダは勝算のない勝負には挑まない。
キズクはともかくシホが出ることに対しては拒否もできただろう。
なのに勝ち抜き戦という形でシホが出ることを、タケダは拒否することがなかった。
「勝てる算段があるんだろうな……」
どうするつもりなのか不明だが、タケダの余裕そうな表情を見るに何かの手があるに違いない。
「相手は一組じゃないみたいだけどな……」
同じクラスのやつと戦いになるのは嫌だなと思っていたけれど、花菱会に一組の人はいない。
となると他の組の生徒になる。
一組には入試において成績優秀だった生徒が多く集められている。
同じ一組から出ないのであればそんなに強くもないと思うのだけど、今のところ他のクラスに強い人がいるのかどうかも分かっていない。
「戦ってみるしかないか……とりあえず、先鋒は頼むぞ、トミナガ」
「う、うん。やるだけやってみるよ……」
キズク、シホ、レオンの他の二人も当然第二テイマー部の部員である。
五人の中で先鋒となるのは富永優香という女の子だった。
植物系モンスターに親和性の高い大人しめの地味めな見た目をした優しい子である。




