一悶着3
「部活対抗戦って……何ですか?」
キズクはソウにの方を向く。
「……ここにいるのは弱くとも覚醒者だ。時には自分のプライドがぶつかり合って喧嘩になることもある。だが好き勝手に喧嘩にされたら困るから、何かの理由をつけて喧嘩をするルールがあるのさ」
他の部員には片付けを指示してソウは部活対抗戦の説明をし始めた。
「個人では決闘戦、部活を巻き込むと部活対抗戦ってなるんだ。プライドをかけた戦い……なこともあるけど何かを賭けることもある。直接的に金銭を賭けるのはダメだけど、謝罪とか……ひどい場合だと相手の部活動の廃部、なんてことも過去にはあったらしい」
「つまりあいつはウエスギの退部を戦って無理やり決めようってわけなんですね」
「多分そうなんだろうね。でも互いの合意が必要だし……」
タケダは一方的に部活対抗戦を宣言していったが、言えば部活対抗戦をやらねばならないというものでもない。
当然のことながら互いにやると合意があってこそである。
「受けることはないよ。無視していればいい」
「ウエスギ……お前はどうしたい?」
「…………私?」
「ああ、部活対抗戦、なんてものになってくると部活の問題にもなるけど……本質はお前の問題。お前がどうしたいかだ」
無視すればいいのかもしれないが、こんなところまで乗り込んでくるタケダが無視しただけで引っ込むとも思いにくい。
しつこく部活対抗戦を要求してきたり、部活の妨害や嫌がらせをしてくるかもしれない。
今はシホがタケダへの返事でここにいたいと言ったので、そのまま無視すればいいという流れにはなっている。
けれどもそれでは根本的な解決にはならない。
シホが部活を辞めるという選択もあるし、あるいはもっと他の選択もある。
回帰前もモンスターという脅威を目の前にしながら、くだらないプライドや利益のために離合集散を繰り返す人たちを見てきた。
だが結局残っていったのは強い意思を持つ仲間たちだった。
たとえ衝突があっても居たいと思う場所があれば、繋がりは切れず仲間はそれぞれを大切に守っていた。
第二テイマー部がそこまでしてくれるかは分からない。
でもシホが居たいというのならキズクはどうにかする方法がないか一緒に考えるつもりだった。
引き込んだ責任もある。
「あの婚約者と仲がいいのか?」
「ううん……」
シホは首を横に振る。
「婚約者っていうけど……家が決めただけ。あいつは私を婚約者っていうけど……互いに好きでも何ともなくて、あいつにとって私は自分の地位を固めるだけのアクセサリーに過ぎないの」
最近少し柔らかかったシホの顔がまた冷たい仮面のようになっている。
経緯は知らないが、タケダとの婚約関係はシホの意思によるものじゃなさそうだ。
「テイマー部……まだ分からない。でも今のところ嫌いじゃないし……タケダのところには行きたくないし、タケダのせいで辞めさせられるのは……いや」
シホは自分の腕を掴んで地面を見つめている。
泣いているわけではないが、どこか泣きそうなほどに儚く見える。
「……先輩、部活対抗戦についてもっと細かく聞かせてください」
「キタカタ君……」
「約束はテイマーになるってことだからな。まだ果たしてもらってない。それを邪魔する奴がいるなら……どうにかしなきゃな」
キズクはシホに微笑みかける。
「出たぞ、キズクのいい男ムーブ」
ノアはリッカの背中に止まって様子を見ていた。
キズクは自分のことをモテない男だというけれど、実際そんなこともなかった。
確かに貧乏で甲斐性なしだったが、優しくて気遣いができる人だったので意外と好意を寄せる女性はいたりした。
弱いくせに他人のために動こうとするところがある。
今もそんなところは変わらない。
ノアとしても嫌いじゃない。
けれどそんな態度が女性にどんな印象を与えるのかキズクは分かっていないのである。
「早く力を取り戻して人になれるようにせんとな……」




