テイマーの凄さ3
「……諦めることは死んだ後でいい。諦めなきゃ、何かできることがあるかもしれない。諦めなきゃ、何かが起こるかもしれない……」
「いいな、その考え。俺は好きだぞ」
キズクはグレイプニルを消す。
「でも最後まで見てても私の負け。それはちゃんと認める」
シホはシュンと肩を落とす。
「そうだな。俺の勝ちだ。リッカとノアがいた時の俺の全力……分かったか?」
「うん。満足した」
確かにシホのいう通り全力で戦ってはいなかったのかもしれない。
キズク一人で戦っていた時には上杉流の剣術を引き出すことはできなかった。
リッカとノアが加わるだけでもだいぶ違う。
連携を取り合いながら戦っていると、キズクの方にも余裕ができていた。
入学テストの時はグレイプニルも使っていない。
状況的に魔獣は無しだったのでしょうがないが、キズクがまだ力を隠しているという感覚は間違っていなかった。
負けたけど、どこかスッキリしたような顔をしてシホは頷いた。
「これで完全に仲直り……ってことでいいな?」
「もうあんな態度とってないでしょ?」
「それもそうか」
戦う約束をしてからシホの態度はだいぶ柔らかくなった。
頑なな態度はなんだったのだと思うほどである。
ちゃんとわだかまりは解消したようでキズクは安心した。
「約束も忘れてない」
「……本当にいいのか?」
戦うことになっていたが、条件としてキズクが勝ったら第二テイマー部に所属してテイマーになることも約束していた。
「約束は守る。それに……テイマーは強かった」
純粋に数が増えるだけでも非常に厄介だ。
モンスターの強さ、能力、賢さによっては、さらに厄介な敵となる。
加えて契約スキルも目の当たりにした。
キズクが駆使するグレイプニルはそれだけでも強力な武器であった。
モンスターと契約すれば、契約者自身も魔獣から魔力をもらえたりと強化されることはもう知っている。
自分に合うモンスターを見つけなきゃいけないことやお世話にお金がかかる、絆を深めていく必要があるなど面倒な要素は多いが、その分得られるメリットも大きい。
シホはテイマーや魔獣に対して偏見もないので、テイマーになることに抵抗はない。
「家の方はいいのか?」
シホが良くても上杉家は大丈夫だろうか。
約束はしたものの、無理強いをするつもりはなかった。
「あの家は私が何をしようと気にしない」
「……そうか」
シホは少し寂しそうに笑った。
何か家の事情というものがありそうだなとキズクも察したけれど、人様の家の事情に踏み込むのはよくないと流しておく。
「まあなんにしてもテイマーになるなら歓迎するよ」
シホがいいならキズクに文句はない。
「部長!」
「えっ、あ? なに?」
とても一年生同士とは思えない戦いに見学していたみんなは呆然としていた。
ムギも声をかけられてハッとする。
「入部希望者です」
「……えっ?」
「この子がうちの部に入るんですよ」
「…………なんで?」
「俺がテイマーの凄さ見せつけたからですよ」
シホはどう見ても剣術を極める道を歩んでいる。
そういう人はあまりテイマーというものに興味がない。
急にシホが入部すると聞いてムギは動揺を隠せない。
「……強い子、入ってくれるならいいか」
ここら辺ムギの強いところは、割とすぐ細かい事情を無視して色々受け入れてしまうところである。
「今すぐに入部届書いちゃう?」
「書く」
「オッケーオッケー。ソウ、取ってきて」
「俺か?」
「ん、早く!」
「分かったよ」
善は急げ。
シホがすごく強いことはもう目の前で証明されたので、気が変わる前に確保しようとムギは思考を切り替えた。
「親和性の検査は受けたことある?」
「ない」
「じゃあまずはそれを受けてみようか。検査費用もうちの部費から大丈夫」
「分かった」
サクサクと話が進んでいく。
とりあえずシホに勝って、わだかまりは完全に解消された。
第二テイマー部にシホが入部することになって、キズクの計画にも小さな進展があったといえる。
「ただリッカとノア、その上グレイプニルを使ってようやく……か」
勝負には勝った。
しかし文字通りキズクの全てを出し尽くさねばシホには勝てなかった。
勝ったんだけど、ちょっと微妙な気持ち。
せめてキズク単独で剣術を引き出せるぐらいには強くなりたいな、とキズクは思っていたのであった。




