モンスターお世話係
「みんな〜ご飯だぞ〜」
テイマー部の朝は早い。
モンスターたちにご飯をあげねばならないからだ。
授業があって、その前にあげねばならないために早い時間に起きてやる必要がある。
モンスター用フードにも色々ある。
モンスターにも色々いるのだから当然の話だ。
草ベースのものもあれば、肉ベースのものもある。
あるいは普通の肉やなんかにまぜたりまぶしたりする食事の時もある。
普通の動物の飼料でもいいモンスターもいるし、中には植物の性質に近くて水と肥料でいいなんてモンスターまでいる。
そして時にはモンスターそのものを与えることもある。
「ほんと、君はモンスターに好かれるタチだね」
キズクがバケツに入ったエサを持って現れるとモンスターがキズクに寄ってくる。
犬や猫に近い姿をしたモンスターから鳥系、馬や牛、虫や爬虫類系までキズクに寄ってくる。
ムギはキズクの周りにモンスターが寄ってくるのを見て感心してしまう。
犬を始めとした獣系のモンスターや鳥系のモンスターが、キズクに寄ってくるのは理解できる。
リッカは獣系、ノアは鳥系なのでそちらの方向に親和性が高いことは容易に推測できるのだ。
ただその他の系統のモンスターもキズクに寄っていく。
虫なんかは特に親和性のない人だと仲良くなるのは難しい。
「君ならアンデッド系もいけそうだ」
「あー、試したことはないですね」
一部のアンデッドモンスターも契約を結ぶことができる。
しかしアンデッド系に親和性を持っている人は極端に少なく、他のモンスターのように捕まえて飼育しておくことが困難なために契約する人はさらに少なくなる。
キズクもアンデッド系との契約を試したことはない。
そもそも契約できそうな個体を前にしたこともないので契約できるか分からない。
「池の方も行ってきますね」
「ああ、頼むよ」
「僕もそっちに行くよ」
キズクは副部長のソウと一緒に池の方に向かう。
「ここでもキタカタ君は人気だね」
キズクが池に近づくとまたしてもモンスターが集まる。
水を好む爬虫類系、両生類系、魚系なんかもキズクは網羅している。
親和性がないと検査結果が出ていると聞いていたのに、何かの間違いじゃないかとソウは目を細めた。
「キタカタ君が来るとあの子も顔を出す。他の人じゃ姿を見せないのにね。ムギのやつが嫉妬してるよ。三年も世話したのにキタカタの方がいいのか! ってね」
池の真ん中からタコのようなモンスターが頭だけを出してキズクを見つめている。
他のモンスターのように寄ってくることはないけれど、他の人の前だと姿を見せないらしいので寄ってきている扱いで間違いはない。
なかなか心を開かないモンスターで、よくモンスターの世話をしているムギですらあまり顔も見たことがない。
だがキズクがいると池のどこからひっそりと顔を見ていたりするのである。
恋する乙女のようだ、そんなふうにソウは思った。
「もうちょっと近づいてくれると嬉しいんですけどね」
キズクは池にエサを撒く。
マーマンが浮かぶエサを手に取ってサーっと泳いでいく。
「ほいっ!」
他のモンスターたちがエサを取っていく。
タコの子がエサを取れるか心配になったキズクはタコの子の近くにエサを投げる。
「あの子が気に入っているみたいだね」
「可愛いでしょ?」
「可愛い……僕はあまり姿見たことないからな」
可愛くないとは言わないが、今も遠くから少し頭を出しているだけだ。
人見知りのモンスターという点で可愛らしさはあるかもしれないけれど、可愛いかどうかを判断するにはちょっと情報が足りない。
ソウは苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
タコの子は近くに落ちてきたエサにちょっと驚いた様子を見せた。
そーっと足を伸ばしてエサを取ると、チャポンと水の中に沈んでいく。
結構仕草的にも可愛いなとキズクは思う。
「キタカタ君は他にもモンスターと契約するのかい?」
「できるならしたいなと思ってます」
「なかなかわがままだね」
ソウは笑顔を浮かべる。
わがままだとはいうがキズクのことを悪く言っている雰囲気ではない。
「もうそろそろ君たちもお世話になれてきた頃だろう。テイマー基礎も……習ったかな?」
「習ってるところです」
「夏休みを挟んで後期になると選択授業がある。そこでテイマーを選ぶとモンスターと契約することになるけど、テイマー部は授業より先にモンスターが選ぶこともできる。考えておくといいよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「まあ君なら選び放題だ。おっと、もうこんな時間か」
ソウはスマホを取り出して時間を確認する。
のんびりとしていたらだいぶ時間が過ぎていた。
「僕たち三年は多少遅れたっていいけど、君は早く行ったほうがいい。片付けは僕がしとくから」
「じゃあ、お願いします。リッカ、ノア、いくぞ」
リッカは広いスペースを走り回っている。
たまにはこんな広い場所を自由にするのもストレス発散になる。
キズクが声をかけるとリッカは楽しそうに舌を出して駆け寄ってきた。
「君ももうちょっとアピールしないと彼に選んでもらえないかもよ?」
ソウは何もいない水面に視線を向けた。
声が届いているかも分からない。
ただ気まぐれに声をかけてみただけ。
「彼は人気者だ。せめて手ぐらい振ってあげなよ」
キズクならもう一体ぐらい契約できそうだとソウは思う。
問題なのはどのモンスターを選ぶかだ。
タコがお気に入りのようにも見えるが、いかんせんタコの方はいまだに距離が遠い。
「さてと……僕も準備しなきゃな」
ソウは空になったバケツを手に池に背を向ける。
タコに声が届いたのか。
あるいは聞こえていても理解しているのかは分からない。
「人気者は大変だね」




