ゲート攻略演習5
「まあなんでもいいけどさ」
ケンゴはこうしたところで深く突っ込んでこない。
地頭がいいというのか、世渡りが上手いと思う。
「あっちはいいにしても、あっちもあるしな……」
ケンゴは残りの班員に目を向ける。
「よろしくね、二人とも」
「…………」
残る班員の二人は女の子。
シホとチトセであった。
チトセは笑顔で手を振るっているが、シホは睨むようにしてキズクを見ている。
「なんだってこんな組み合わせになったかな?」
キズクもケンゴも普通の人である。
特に周りとの関係構築で不和をもたらす人じゃなくて、ここまででちゃんと友達を作ってきた。
ただキズクには圧倒的に関係が良くない人が二人いる。
一人がレオンで、もう一人がシホなのだ。
レオンは全体的な人付き合いも悪い方で、キズクのことを気に入らないということが態度に出ている。
対してシホの方はキズクのことが嫌いというわけではなさそうだが、柔和な態度をとっているとは言い難い。
他の子ならまだしも、よりによってキズクと相性の悪い二人が同じ班に集まるなんて嫌な偶然である。
「悪いな、俺のせいで」
「お前のせいじゃないって。仲悪いやつなんか誰にでもいるもんだろ。たまたまクラスに二人いて、たまたま同じ班だっただけだよ」
ケンゴはわざとらしく肩をすくめてみせる。
こうしたところも大人っぽい。
ケンゴがいなかったら班を替えてもらっていたかもしれない。
「不安はあるけど……いざ戦いになってちゃんとやるだろ」
たとえ相手が嫌いでも戦いでは背中を預けて戦う必要がある。
そのラインさえ守ってくれるならケンゴも文句はない。
一抹の不安はありつつも、先生もいるし大丈夫だろうとキズクたちはゲートの中に入っていく。
「変な感じ」
「これがゲートを抜ける時の感覚だよ」
ゲートを通る時には独特の感覚がある。
空気が一瞬粘度の高い液体になってまとわりついてくるような、不思議なものなのだ。
「ここがゲートの中だ。周りを見れば分かるが、全くの別世界となる」
ゲートの中の環境は草原だった。
山と森、高速道路はどこにも見当たらない、全く違った世界が広がっている。
「低等級のゲートだと基本的に外の環境とあまり大きな違いはない」
ゲートの中は特殊な環境だったりするが、同じような草原でも高等級になると強い魔力を感じたりと違いがある。
十等級の草原はただの草原とほとんど変わりない。
「まずはコボルトを探す。コボルトは頭がイヌのようになっているモンスターだ。事前に渡した資料を見れば写真も載っていたはずだ」
コボルトは犬頭人身のモンスターである。
凶悪なイヌみたいな頭をしているのだけど、体はイヌと違って二足歩行なのである。
毛皮があってイヌっぽさはあるのだけど、形的には人の子供ぐらいの体格をしている。
「あっちの方角にいるな」
少しずつ移動しながら教師陣が双眼鏡を使ってコボルトを探していた。
ヤシマが遠くにコボルトを見つけた。
「さて、ここからは実際に戦ってもらう。緊張するなというのは無理だろう。だがいつかはやらねばならないことだ。さて……どこの班にやってもらうか……」
コボルトぐらいなら特に問題なく戦えるだろうなとは思うものの、キズク個人ではなく班で選ばれてしまうので勝手に立候補もできない。
みんながそれぞれ誰が最初の戦いに出ることになるのかと顔色を窺う。
ヤシマが悩んだように生徒の顔を見ていると、オオイシがボソリとヤシマに耳打ちする。
耳打ちされたヤシマとキズクの目があった。
「それじゃあ一班からやってもらおうか」
「オオイシ……何か吹き込んだな?」
キズクの肩に乗っているノアが目を細める。
特に立候補もないのだから一班というのは不思議でもない。
だが明らかに何かを言われて一班を選んだ。
オオイシにはキズクの視線に気づいてニコリと笑顔を返した。
「大方、経験者だってことを伝えたんだろうな」
キズクは以前オオイシの鍛錬の一環としてゲートに入ったことがある。
それどころかリッカやノアと共に他の人の助けを借りずに攻略した。
その時のことを考えれば、キズクがコボルトぐらいなんとも思っていないことはオオイシも分かっている。
ヤシマとしても最初はみんなの希望ともなってほしいだろう。
経験者がいるならその方がいい。
「何か言いました?」
「んー、何か言ったと思う?」
オオイシが一班に付き添う形で先行し、他の子たちは少し離れてついてくる。
コボルトの姿がしっかりと見えてきて、生徒たちの緊張感が高まる。
キズクはあまり緊張していないし、ケンゴもそんなに固くなっているような雰囲気はない。
テイマーであるということは、少なくともモンスターと対峙した経験があるということだ。
コボルトが初めて目の前にするモンスターというわけでもない。
実際テイマーが連れている魔獣を見たことがある人は多いのでモンスターを見るのが初めてなんて人の方が少ない。
けれども野生のモンスターを目の当たりにするのは初めてな人は多い。
「みんなは大丈夫そうか?」
「俺はちょっと緊張してるかな」
「これぐらいなんともない」
「あっ、んー……意外と緊張してるかも」
「平気」
キズクがみんなを気遣って声をかける。
ケンゴはやはりいつもと変わらない調子で答え、短く返答したシホも緊張している様子はない。
緊張している様子なのはレオンとチトセだ。
なんともないと言いながら、レオンもキズクの言葉に普通に返してしまうほどにモンスターに意識がいっている。
チトセはやや引きつったような苦笑いを浮かべている。




