ゲート攻略演習1
ボチボチとアカデミー生活にも慣れてきた。
リッカが怖くないと分かれば周りの子も声をかけてくれるようになって、友達も増えてきた。
固かったクラスの雰囲気も和気藹々とした柔らかいものとなっている。
授業の内容やスケジュール、教室移動なんかも慣れたおかげで余裕が出てきた。
部活動の方も良い感じの雰囲気である。
今のところは先輩に教えてもらいながらモンスターのお世話をしている。
お世話しながらモンスターと慣れ親しんでいき、相性のいい相手を探しているなんて時間でもある。
回帰前、モンスターと触れ合う時間はキズクにとって癒しでもあった。
テイマー部でのモンスターの世話はとても楽しいものになっていた。
やはり親和性が高いおかげなのかモンスターもキズクに対して集まってくる。
他にも、テイマー部にはトレーニングルームもある。
日々の鍛錬を欠かすなとレイカに言われているキズクは、頻繁にテイマー部に行って体を鍛えたり剣を振ったりしていた。
充実した日々だと言っていい。
「来週の土日、実際にゲートの攻略に向かうことになった」
朝のホームルームでオオイシからいきなり告げられた。
アカデミーは覚醒者を養成する機関でもある。
単純に戦い方を教えるだけではなく、実戦的な経験も積ませるようなこともしてくれる。
実戦的な経験とはすなわちモンスターと戦うことだ。
当然ながらリスクはあるものの、覚醒者として強くなるには結局モンスターと戦う必要がある。
避けては通れない道である。
ただ単純にモンスターと戦うといっても楽なことではない。
素人集団の一年生と戦うのにふさわしいモンスターやゲートを探すのも簡単なことではないのだ。
来週の土日というのはかなり急な話であるが、ゲートがどのタイミングで発生するのかも分からないのだから仕方ない。
「それに伴って君たちには一つ魔法を習得してもらう。収納空間魔法だ」
ゲート攻略というイベントにざわつく中、オオイシは話を進める。
「これは覚醒者として活動する上では必須と言っても過言じゃない。今時使えない人はいないだろうね」
魔法を使わないタイプの覚醒者でも絶対に習得している魔法が一つある。
それが収納空間魔法である。
英語だとインベントリなんていう魔法で、文字通りものを収納する空間を作り出す。
覚醒者の問題として荷物というものが昔はあった。
ゲートやモンスターが、町の近くやアクセスがいいところに現れてくれるとは限らない。
時には離れているところや行きにくいところにも現れる。
そうなると移動に時間がかかり、持ち物が多くなることも想定される。
加えて覚醒者には装備も必要となるし、テイマーなら魔獣用の品物だって持っていかねばならない。
持ちきれないような荷物が必要な時も昔は珍しくなかった。
だが人はまた便利なものとして収納空間魔法を開発したのだ。
「やり方は難しくない。一度発動してしまえばあとはすぐに使えるようになるんだ。最初の発動も今は補助があるから簡単だよ」
オオイシは紙をぴらりと見せた。
魔獣移転魔法陣の時のように紙には魔法陣が描かれている。
「これに魔力流して発動させるだけ! あとはなんとなく使い方が分かるようになるよ」
収納空間魔法は実は複雑な魔法である。
空間魔法というやつが複雑で、まともに扱える人は多くない。
しかし色々考える人がいるもので、魔法陣に魔力を込めることによって、複雑なところを全てすっ飛ばして魔法を使うことができるようにした。
収納空間魔法の面白いところは最初に魔法を発動させて空間さえ作り出してしまえば、あとは出入り口を開くだけで使えてしまうところにある。
オオイシが一番前の列に収納空間魔法を発動させる魔法陣が描かれた紙を配った。
前の列の子たちが魔法陣に魔力を込める。
すると魔法陣が光る。
一見するとそれで終わりなのだが、魔法を発動させた本人の目にはちゃんと変化が起きているのだ。
目の前に黒や青の穴が空いているように見える。
それが収納空間魔法の入り口であり、出口だ。
人によって多少見え方が違う。
「収納空間の大きさは人によって違う。大きい人いれば、小さい人もいる。時間があったらある程度どんなものが入るのか確かめておくといいよ」
前の列から順々に収納空間魔法を発動させて、一番後ろのキズクのところで回ってきた。
回帰前にもやったことがあるので、ためらうこともない。
キズクはサッと魔力を込める。
魔法陣が光り、目の前の空間に穴が空く。
どうすれば穴を閉じられるのか、どうすればまた穴を開けられるのか。
なんとなく分かる気がするのだから不思議だ。
収納空間魔法が使えれば今後の利便性が大きく向上する。
「これはありがたいよな……」
ちなみにキズクの収納空間魔法は回帰前でもかなり大きな方だった。
余裕があるということで、収納空間魔法を活かした荷物係なんてことをしていた時期もある。
「あとは細かな用意は各々しておくように。忘れ物したら困るのは君たちだからね」
「うむ、ようやく本格的に覚醒者らしくなってきたわけだな」
ノアは腕を組むように翼を組んでウンウンと頷いていたのであった。
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