昔よりも便利になりました2
「おいで、カルラコンジ」
ピッと紙を空中に投げる。
紙に描かれた魔法陣からオオイシの魔獣であるカルラコンジが飛び出してきて、教室が驚きに包まれる。
教室に出てくるためなのか、以前見た時よりサイズは小さい。
「これが魔獣移転魔法だ。紙に書いてあったのが魔法を発動させるための魔法陣。だから魔獣移転魔法陣だね。分かりやすいだろ?」
大きなタカほどのサイズになっているカルラコンジはオオイシの腕にとまる。
魔獣移転魔法陣とは、魔獣を手元に呼び寄せることができる魔法をアイテム化したものだ。
「一回限り……それにちょっと高いけど、こうして魔獣を呼び寄せることができるんだ。このおかげで魔獣はクーラーの効いた部屋で休んでもらって、僕たちは危なくなったら来てもらえばいいなんてことができるようになった」
小さくなって一緒にいる。
昔はそれがせいぜいだった。
だが今では魔獣を近くに呼び寄せる方法がこうしてあるのだ。
おかげで大型魔獣のテイマーは魔獣を待機場所に置いといて、自分だけ移動して呼び出すなんてこともできるようになった。
使い捨てであるとか、少しお高めなんてことは気になるが使ってみると利便性は大きい。
リッカは大きめな方の魔獣となる。
将来的には魔獣移転魔法陣を使うことも必要かもしれない。
リッカのサイズならまだ輸送はできるからそこら辺は後々考えていく。
「せんせー!」
「ん? なんだい?」
「人は移転できないんですか?」
ある生徒が手を挙げて質問する。
「良い質問だね。答えはできないだ」
魔獣を移転させられるなら人も移転させられないか、と考えることは自然な流れだ。
だが今のところテレポートして、好きなところに行くなんて移動方法を聞いたことはない。
それどころか未来においてもそんな技術の話が一般的に広まることはない。
魔獣に応用されている以上、研究がなされていて、一般応用もなされるように試していたことはあるだろう。
だが人のテレポート技術はキズクが知る限り一般化されない。
「細かいことはかなり技術的な話になるからあまり知らないけど、魔法によって人をどこかに移転させることはできないらしい。今のところはね。研究はされているから、もしかしたら将来的にはそういうことも可能になるかもしれない」
魔獣ができる以上、人にもできる。
世界が荒れなきゃそのような技術も実現したかもしれない。
可能性がないとは言い切れない。
「こうした技術の他にも魔獣はある程度サイズを変えられたりもする。本来の大きさよりも大きくなることはできないけど、小さくなることもできるんだ」
カルラコンジはグググと少し大きくなる。
目の前でこうして見せてくれると他の人にとっても分かりやすい。
「本来なら魔獣は人と契約する必要なんてないのかもしれない。けれども人と繋がり、力を与え、共に戦ってくれる。モンスターなんて、と否定的に考えず、心を通わせられるモンスターと向き合ってみてほしい」
授業も終わりの時間が迫り、オオイシはまとめに入る。
「僕はカルラコンジと出会えて幸せだ。より相性のいい魔獣に出会って仕方なくパートナーを変えたり、あるいは戦いの最中に魔獣を失って悲しみにくれることもある。だけどそばにいてくれた思い出は変わらない。テイマーとして魔獣と一緒に戦う道も考えてみてほしい」
軽めな態度で授業をするから、こうした真面目な言葉がより引き立つ側面もある。
「次回はアカデミーが保有しているフリーのモンスターを見学するよ」
最後に笑顔を浮かべたところでチャイムが鳴った。
タイミングも完璧である。
「それじゃあ残りの授業も頑張ってね」
ヒラヒラと手を振ってオオイシは教室を出ていった。
「本当不思議だねぇ」
「そうだな」
小さく呟いたノアの声にキズクは同意したのであった。




