昔よりも便利になりました1
「今日の授業はテイマー基礎だよ。契約している人もしていない人も基礎的な知識はあって困ることはないからね。担当は僕、オオイシだよ」
一年生のうちは覚醒者としての基礎的な知識を多く身につける時期である。
覚醒者基礎という授業があるのだけど、同じ授業の中でいくつかの分野の基礎的なことを学んでいく。
覚醒者知識基礎、魔法基礎、テイマー基礎など学ぼうと思えば吸収すべき知識は多い。
覚醒者知識基礎では覚醒者として必要な知識を学ぶ。
マナーやギルドを始め、実際に覚醒者として活動を始めた時に必要なことも教えてくれるのだ。
ありがたい知識を教えてくれるものだなとキズクは思った。
社会にいきなり出て分からないことが多いなんてことも珍しくない。
キズクも困った記憶はある。
こうして教えてくれるのは非常にありがたい。
教えてくれる先生の都合などで授業の中身は多少変わってくる。
他の組だと覚醒者知識基礎や魔法基礎をやっているが、一組は先にテイマー基礎となった。
そしてなんとテイマー基礎を教えてくれる先生はオオイシであったのだ。
「テイマーっていうものが何かは分かるかな? モンスターと契約を結んだ者がテイマーというのが一般的な定義だね」
オオイシはプリントを配る。
「じゃあテイマーになるためにはモンスターとの契約が必要ということになるね」
オオイシはにこやかに授業を進める。
家庭教師をしてくれていた時にも思ったが、オオイシは意外と人に教えるのが上手い。
「だけどそのための契約とはなんだ……と思う人も多いだろうね。正直に言って契約ってやつは分からないことも多い。契約は目に見えるものじゃない。契約書を交わすわけでもなければ、言葉を交わして契約するわけじゃないんだ」
テイマーとして基礎も基礎の話。
教室の中の反応も様々だ。
すでにテイマーとして契約を交わしている子は話を聞きつつも、知っているからか熱心に傾聴しているわけではない。
集中して聞き入っているという生徒のはほぼいない。
たがそれなりに興味を持っているような子はいる。
一方で、全く興味なさそうな顔をしている生徒もちらほらと見受けられる。
レオンなんかはその筆頭だ。
傍系ではあるものの、剣術名家である北形家のレオンはテイマーに否定的である。
モンスターの力を借りて戦うなどとんでもないといい、モンスターと契約を交わすことに否定的な考えやモンスターそのものに拒否反応を示す人もいる。
いつモンスターが反旗を翻すか分からない、とテイマーに対する憎しみのような感情を持っている人まで存在していた。
今はテイマーの勢力がやや弱い。
テイマーに対する否定的な考えも強くて、結果としてモンスターが必要だったと世界が気づくのに時間がかかった。
「ここら辺も改善していけたらな……」
テイマーの勢力が他の全ての勢力を上回って、飲み込むなんてことまで望まない。
せめて他の勢力に押されないぐらいの存在になればいい。
「誰かいるかな……」
自分がテイマー勢力を率いていくなんてキズクは考えず、ふさわしい能力を持った人がいないか記憶を辿る。
「考え事かな?」
「……うわっ!?」
気づいたらオオイシの顔が目の前にあった。
考え事をしていて気づかない間にオオイシが体をかがめてキズクの顔を覗き込んでいた。
「ふふふ、授業はちゃんと聞かなきゃね」
「……すいません」
ぼんやりしていたのは事実だ。
キズクが素直に謝ると、オオイシは怒った様子もなく教壇に戻っていく。
「昔はテイマーも不便だった。といっても僕よりも前の世代の話だけどね。今はモンスターに関する知識も多く、モンスター用の高カロリーフードも種類があって、公共機関も追加料金を払えば乗れる。先人の努力によるものだ」
テイマー、あるいは魔獣に対する整備も進み、否定的な意見はあるもののそれなりに受け入れられてきた。
それらは全てテイマーとして活動してきた覚醒者の尽力あってのものである。
「ただまだ不便なことは残っている。今もこうして魔獣を連れていることことからも分かるだろう?」
魔獣を連れて歩かねばならない。
これがテイマー最大の弱点だとも言える。
魔獣がいるということは最大の利点でもあるが、魔獣をそばに置いておかねばならないことは手間である。
教室だって魔獣を入れられるように大きく作られている。
小型の魔獣ならばさほど手間もがかからないだろう。
しかし強い魔獣ほど大きいものが多い。
ゲートを攻略しに行くと分かっているなら魔獣をそばに置いていてもいいが、普段日頃からどこでも一緒とはいかないこともある。
「魔獣をどうしても置いておかねばならない。だけど不足の試合が発生するなんてこともある。そんな時にはこれを使うんだ」
オオイシは懐から一枚の紙を取り出した。
その紙には見慣れない模様が描かれている。
「それはなんですか?」
「これは魔獣移転魔法陣だ」
「魔獣移転魔法陣?」
「まあ実演してみようか」
オオイシは紙に魔力を込める。
すると紙に書かれた模様が光り出す。




