開花しなかった才能3
「ここだけじゃなくて他にもいるから」
今日は二、三年生の先輩たちがいそいそと動く。
いきなりモンスターの世話をしろとは流石に言わない。
モンスター用の高カロリーフードなどを持ってきてモンスターに与える。
こうしてエサをもらっている姿を見ると普通のペットのようにも見えるから面白い。
キズクとしては回帰前にやっていた仕事と変わらないので、モンスターのお世話係も特に苦にならない。
むしろ好きな仕事ではあった。
死が待ち受ける戦場に送り出さなくていい分だけ第二テイマー部でやるモンスターのお世話の方が気持ち楽だろう。
「そう言えばサモンさんは元気なのかな……」
キズクはふと一緒にモンスター育成をしていたサモンのことを思い出した。
引退した覚醒者で、自身も戦いの中で相棒だった魔獣を失ったと言っていた。
回帰前の寸前には仲良くなって優しくなっていたが、最初出会った時にはとんだ頑固爺さんだったものだ。
あまり過去のことも語らず、今どうしているのかも分からない。
「どこかで会えるといいな」
それでもいくらか昔話は聞いたものである。
あの様子なら今からすでに頑固オヤジかもしれないし、サモンはキズクのことを覚えていないだろうから仲良くなるのも大変だろう。
思い出してみると頑固さも懐かしく、今ならまだ覚醒者として活動しているかもしれないので会いたく思った。
「モンスターもここだけじゃないよ」
モンスターを放している放モン場をさらに奥に進むと池がある。
「ここには水棲系や水を好むモンスターがいるんだ」
三年生がモンスター用フードを池に撒くと、カメやカエルのようなモンスター水面に姿を現した。
あまり魚のようなモンスターはいない。
水に住む魚タイプのモンスターは水がなきゃいけなかったりする。
そうなると連れて歩くのに不都合が大きい。
もちろん水がなきゃダメというモンスターばかりではないのだけど、通常時に休むのに水があった方がいいなど契約した後の負担が大きかったりするのだ。
だからモンスター棟に魚系のモンスターは少ない。
「あの子……」
フードを食べているモンスターから少し離れた池の真ん中で、顔を出している子にキズクは気づいた。
丸い頭をしたタコっぽいモンスターだ。
「ああ、あの子は……人見知りでね。もう三年も世話してるのに、なかなか慣れてくれないんだ」
ムギが困ったような笑顔を浮かべる。
「ちょっともらいますね」
キズクはフードをいくつか手に取ると池の縁に膝をつく。
「おいで」
笑顔を浮かべてフードを差し出す。
タコのモンスターはキズクのことをじっと見つめている。
「そんなふうにしててもなかなか……あれ?」
多分来ないだろう。
ムギはそう思っていたのにタコのモンスターはおもむろにキズクに近づいた。
キズクが差し出したフードをそっと足で受け取る。
「たくさんお食べ。君はきっと……強くなる」
回帰前に人類はモンスターに対抗するためにモンスターの力が必要だと知り、モンスターの能力を測定する技術を高めた。
他にもモンスターの潜在能力を測定することも可能にしたのである。
アカデミーにいたモンスターはデータ収集のためにサンプルが残されていた。
もうすでにアカデミーにいないモンスターのサンプルもあって、その中に伝説級とも言われる潜在能力を持ったモンスターがいた。
ただ惜しむべきは潜在能力があると分かった時には、モンスターはもう戦闘によって死んでいたのだ。
親和性があまり高くない人と契約して、潜在能力を開花させられることがなかったのである。
あまり人が得意ではなく、心優しいモンスターで長いことアカデミーに残されていたモンスターにそんな力があると誰が想像できただろうか。
「まだいるかい?」
キズクはもう一つフードを差し出した。
タコのモンスターはそっと足の先でフードを受け取って、キズクから離れていく。
キズクがアカデミー行きを決めた目的は、この伝説級の才能を秘めたモンスターと契約することだった。
「あの子が人に近づくなんて……初めて見たよ」
「昔からモンスターに好かれやすいんですよね」
驚きの顔をするムギにキズクは笑顔を向ける。
キズクは全てのモンスターに対して親和性が高い。
今の自分なら伝説級の才能も引き出せる。
今度はただ不幸に終わらせるつもりはない。
タコのモンスターは離れていくキズクの背中をじっと見ていたのだった。




