開花しなかった才能2
「ありがとな。ちょっとだけならいいみたいです」
リッカの頭を撫でてやる。
性格的に天真爛漫で子供っぽい感じもあると思っていたけれど、こうしてキズクのことを気遣えるようなところもあるのだと少し驚く。
「じゃあ……ちょっとだけ」
リッカはほんの少しだけ頭を下げて撫でられるように待ち構える。
ただキズクに撫でられている時とは目つきが違う。
本当に大丈夫なのかと思いながらも三年生の先輩はそーっと手を伸ばす。
「おぉ……」
手のひらがリッカに触れて思わず声が漏れる。
リッカの毛は割と特殊だ。
頭の毛はふわふわとしていて、胴体の毛はさらりとしている。
一度で二度美味しい手触りをしているのだけど、戦いの最中リッカの毛は硬くなる。
しなやかさも持った硬質な毛になることで防御力を高めるのだ。
魔力を込めない武器なら全く刃が立たないぐらいには強くなるのであった。
今は戦いの最中じゃないので柔らかい。
「あっと……もうダメか」
本当にちょっと触らせただけでリッカは顔を逸らしてしまう。
「すいません……」
「いや、ちょっと触らせてもらっただけでもいいんだ」
リッカがそっけなくても三年生の先輩は怒らない。
他人に触られるのが苦手であるという魔獣も少なくはない。
キズクのお願いだから渋々聞き入れたのだということは、様子を見ていたら分かった。
むしろ賢くて良い子だなとむしろ感心してしまう。
「むふ、よきにはからえ〜」
一方でノアはというと、鳥に囲まれていた。
賢く契約しやすく、能力が弱くても役に立つので鳥系魔獣を契約している先輩も何人かいた。
オウムやタカのような魔獣は明らかにノアよりも大きくて強そうなのだけど、なぜかノアに敬意を払っていた。
用意された果物をノアの前にいそいそと運んできたりしてノアは得意気になっている。
みんなもその様子には驚いている。
「あの子……意外と強いモンスター……なのかな?」
偉そうに笑っているノアを見れば、とてもじゃないが強そうには見えない。
ただ神様がモンスター落ちした存在ということを、キズクだけは知っている。
だから魔獣の中でも格が高いのかもしれない。
「にょっほっほっほ!」
リッカには明らかに敵わないし、周りもリッカのことばかり見ているのでノアも思うところがあったのかもしれない。
とりあえず機嫌良さそうだしそのままにしておくことにした。
「もうこんな時間ね」
夕飯には少し早いぐらいの時間から始めて、気づいたら夕飯時になっていた。
「ちゅうもーく! 一応部活らしくやることってのもテイマー部にはある」
みんながムギに注目する。
「でも基本的には自由で、強制しないよ。でも、一個だけ絶対にやらなきゃいけないことがあるんだ。今からそれを説明するね。みんな、ついてきて」
料理の後片付けはソウなど数人に任せて、キズクはムギについていく。
第二テイマー部の建物を出て別の建物に向かっていく。
「モンスター棟?」
第二テイマー部の建物も大きかったが、それよりも大きな建物にはモンスター棟という看板があった。
「テイマー部……ということはもちろんモンスターと契約していかなきゃいけない。まだ君たちは習って……ないかな? 魔獣となったモンスターも別に使い捨てってわけじゃないんだよ」
建物をそのまま抜けていくと高い柵で囲まれた外になっていた。
そこにはモンスターがいた。
「ここにいるモンスターは人間にも友好的で契約のしやすい子たちだよ」
モンスター棟にいるモンスターは誰かと契約した魔獣ではない。
テイマーはモンスターと契約するけれど、一生に一体の魔獣という人の方が多分珍しい。
能力が低いうちに出会えるモンスターは、当然同じように能力の低いモンスターである。
契約できるかも分からないのに、自分の実力を超えたような強いモンスターを前にすることは危険でしかない。
となると、覚醒者として強くなり、より強いモンスターと契約できるようになったらどうするか。
新しいモンスターに乗り換えるのだ。
乗り換えるというと言葉は悪いが、より強いモンスターやより親和性の高い相性のいいモンスターと契約することは一般的である。
だが戦いの最中で相手のモンスターと急に契約できるなんてケースは珍しい。
加えて契約を解除したモンスターはどうなるのか、なんて問題もある。
そこで今では人と契約して慣れているモンスターは殺したり自然に放したりしないで管理するようにしていた。
強くなったら強いモンスターと新たに契約して、弱いモンスターはリリースする。
弱いモンスターは他に覚醒者となった人とまた契約して魔獣として活躍するのだ。
モンスター棟はそうやってリリースされたモンスターを管理している場所だった。
キズクが回帰前の最後にやっていたモンスター飼育係と同じものである。
「契約していない人も契約していて強いモンスターを望んでいる人もみんなにチャンスがあるよ」
ムギに寄ってくるモンスターが何体かいる。
動物に近い形をしていて、馬や犬などのモンスターだ。
「この子たちのお世話も私たちの仕事になるから、それを忘れないで」
このようなモンスターのお世話もテイマー部が行っていた。




