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八話

 影─スライムを始めとする九体のモンスター達は、会場の床に着地する。彼等は鋭い目付きで周囲を威嚇した。


 私の呼びかけと、突然呼び出されたことで、緊急性が分かったに違いないわ!


 スライムやラビット達は身構える。フェルイーターは口を開け、牽制する。ヴォーグは唸りながら牙を向く。ハーピィ達やアイスバードは羽根を広げて攻撃の準備をしている。ゴーレムは腕を上げている。


「モンスターで抵抗する気か!?」


 突然のことに、ブレーズ王子が杖を構える。ティフィーは悲鳴混じりの声を出した。


「ミーハナブル嬢、止めてください!」


 固まっていた生徒達も、私を囲うモンスター達が敵意の視線を向けていることに気付き、悲鳴を上げた。遠ざかる者もいれば、杖を向ける者もいる。会場にいた楽団は、悲鳴を上げ、楽器を抱えて矢のような速さで外へ出て行った。


 私は杖を振ろうとして、ふと窓の外を見た。外に影がかかった。



──グギャアアア!!!



 地響きを起こし、空気を振動させる響く大きな咆哮。


「何の鳴き声は何ですの!?」


「何だ!?」


 ダンスパーティの会場にいる生徒達は、一斉に窓の外を見る。私は、声の正体が分かっていた。大きさからこの場にいない、唯一のモンスター。


 窓から見える輝く大きな黒い身体、硬い鱗。羽ばたく翼に大きな尻尾。鋭い牙に爪。下を見下ろす鋭い瞳。


 私は、その大型モンスターの名前を呼んだ。


「ブラック・ドラゴン!」


──ギャア!


 宙に浮かぶ大型のモンスター、ブラック・ドラゴンは、私の声に応えるように力強く鳴いた。

 


◆◆◆



 ドラゴンが羽ばたく度に、風が舞う。


「窓の外に、ドラゴンがいるぞ!」


「キャアアア!ドラゴンよ!」


「怖い!」


 生徒達は窓の外を見て、悲鳴を上げる。


 その隙に、モンスター達は生徒達を牽制する。王子達の元へ行ったり、近くに行ってすぐ近くに攻撃したり。杖を向けて攻撃しそうな生徒達を牽制したり。


 近くで待機していた教師達も騒ぎを聞き付けて来る。


「今の鳴き声は!?」


「ド、ドラゴン!?」


 授業でブラック・ドラゴンを出すことはないから、教師達も知らなかった。

 

 学校で呼ぶわけにも行かず、休暇以来で久しぶりにブラック・ドラゴンに会った。


 牽制するモンスター達と窓の外のドラゴンに、教師と生徒達は友人含めパニックになっていたわ。友人達は私がドラゴンと契約しているのを知っているけれど、半信半疑だったせいか、すっかり頭から抜けてしまっている。


 皆ブラック・ドラゴンに気を取られてるし、モンスター達が牽制してくれている。今のうちに、外に出れるわ!


 私は、荷物置き場の鞄を掴み、ゴーレム、ヴォーグなどのモンスター達に声をかけた。


「ありがとうございます!皆!後で戻しますわ!」


 すぐに後ろを振り返ったから分からなかったけれど、声が出る子が鳴き声で返事してくれたのが分かったわ。声が出ないスライムやフェルイーター達の声が聞こえないけれど、仕方がないことだわ。


 私は、扉に向かう。後ろから、イーヴィー!と言う友人の声が聞こえる。待て!待って下さい!と言う王子、ティフィー達の声と教師達の止める声や足音も聞こえて来るけれど、無視した。


 外に出る。会場の外でブラック・ドラゴンが羽ばたいて待っていた。ドラゴンは、私を見つけると、ギャア、と鳴く。地面を揺らしながら着地してくれたわ。


「乗せて下さい!」


 乗りやすいように身を屈めるドラゴンに、私は手足を使いながらよじ登った。ドラゴンに乗り、下を見下ろすと、私に続いて人が集まっているのが分かったわ。殆どの人間は呆然と口を開けたままドラゴンを見ている。人々の中で、先頭にいたブレーズ王子が厳しい視線でこちらを見上げていた。彼はこちらに杖を向ける。彼に続いて、攻略対象者の男子生徒達はティフィーを庇い、前に出て杖を向けたわ。


「ブラック・ドラゴンに乗り、どうする気だ?まさかドラゴンで俺達に攻撃する気か?此処には、お前の友人にクラスメイト達、関係のない生徒や教師もいるんだが。」


 口元を歪め、嘲笑を浮かべるブレーズ王子。彼の近くでは、友人達がイーヴィー!大丈夫よ!戻って来て!と叫んでいる。


「愚かなことは止めろ。……貴方の罪が重くなるだけだ。追放では済まなくなる。」


 ブレーズ王子は一旦言葉を区切ると、一度目を閉じる。そして、こちらに強い視線を向けたわ。目の奥に燃える炎が見える。


「今すぐにブラック・ドラゴンから降りるんだ。」


 ブレーズ王子の物言いに、私は違和感を感じたわ。まるで、私にこれ以上罪を犯して欲しくない、と言っているように感じたの。でも、すぐ私は気のせいだと心の中で首を横に振ったわ。ブレーズ王子はゲームでもイーヴィーを追放していたし。


 さて、どうしようかしら。ドラゴンに乗って、何処かへ飛んで行こうとしていたのだけれど。流石に王子が言ったみたいにドラゴンで暴れ回るなんてことはしないわ。何にせよ、飛ぶ前に。私は口を一文字に引き結んでから、再び開いた。


「王子。私は貴方方に失望しましたわ。」


「何だと?」


 ブレーズ王子は眉を顰めた。


「王子に何と言うことを!」


 攻略対象者である一人の男子生徒が王子の前に飛び出た。私は彼に視線を向ける。彼は、王宮騎士団の団長の息子ね。彼は、炎が燃えるような眼差しで私を睨み付けていた。


 私は騎士団長の息子から視線を逸らし、ブレーズ王子を見据える。彼の怒りが増したのを感じたけれど、無視したわ。


「貴方方は、私が犯人だと決め付けている。犯人は別にいるのに。」


 私は一度言葉を区切った。そして、強い眼差しで、ティフィー、王子、騎士団長の息子を始めとする攻略対象の男子達を一人一人を見た。


「ですから、貴方方冤罪を決め付けられたこと、これまでにされたことを手紙に書いて、王宮に送り付けますわ!」


「何!?」


 王子達は流石に顔色を変えた。王宮に!?とお互いに顔を見合わせている。周囲も同じことをしていたわ。攻略対象者の中の一人が声を上げた。


「そんなことが出来るはずがないだろう!?第一誰が信じるんだ!?」


 私は静かに言った。


「誰が何と言おうと、私はやりますわ。」


 そうよ。直接言ってもダメ、教師に言ってもダメなら王宮に手紙を送れば良いんだわ。国王も自分の息子が関わっているし、騒ぎが大きければ動くんじゃないかしら。私は目を細め、加えて続ける。


「オダン嬢への嫌がらせについても、犯人の名前を送ろうかしら。」


 主犯の伯爵令嬢を中心に、さっと犯人達の顔色が青褪めた。これじゃすぐバレそうね。


 ……流石に王宮に手紙を送るってのは嘘だけどね。でもさっきの手紙を王宮に送れば、調査が行われるわよね。必然的に真実が分かるはずだわ。


 私は前に出て、止めるように声をかける教師達に視線を向ける。


 念の為、教師や校長達にも犯人の名前と悪事の手紙を送り付けようかしら。ここまで騒ぎになっているし、教師達も本格的に調査するわよね?


「では、私は行きますわ。」


 ブラック・ドラゴンが鼻から白い息を出す。私は大広間に杖を向け、スライム達を元の場所へ転移させた。そして、ドラゴンの背中を叩いて合図しようとした。

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