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七話

「何?また否定するのか!?」


 声を荒らげるブレーズ王子に、私は首を縦に振る。


「ええ、今回も、今までも。私はオダン嬢には何もしていませんもの。」


 ティフィーには殆ど関わっていないわ。財布は落とし物として届けてあげたけど。匿名だから本人は知らないのよね。私もまさか彼女の物だとは思わなかったし。尚も否定する私に、王子が口を開こうとした時。あの、と言う女子の声がかけられた。


 王子がすぐさまそちらに顔を向ける。


「ティフィー?」


 声をかけて来たのはティフィーだった。ちょっと、ティフィー!?と慌てる周囲を他所に、彼女は一歩前に出て、赤い瞳を揺らした。


「あの……私も、聞きたいんです。」


 ティフィーは一度目を瞑ると、強い視線でこちらを射抜く。彼女は両手の拳を握る。


「ミーハナブル令嬢は、何故私に嫌がらせをするんですか?……私のことが嫌いなんですか?私、何か貴方にしてしまいましたか?教えて下さい。」


 顔を歪ませ、赤い瞳を潤ませるティフィー。私は眉に皺が寄った。ティフィーも私が指示したと思っているのね。私は首を横に振った。


「いいえ、私はオダン嬢を嫌ってはいませんわ。それに、貴方から何かされた覚えもありません。」


 ティフィーは嫌いではないのよ。それに、彼女からは何もされてないわ。私、ゲームをプレイしていた時はヒロインが好きだったし。今も別に嫌いではないのよね。あまり話したことないし、好きと言う程でもないけれど。


 ただ、黒幕が私だと決め付けてる点と、王子達を止めない点は気に食わないわ。あら?これを他の人に言ったら嫌いだと誤解されそうね。彼女は苦手ではないのよ。


 ゲームでもそうだけど、現に特待生として頑張っているのは知っているし。周りの人の為に心を砕いている点は評価するわ。


 そんな私に、ティフィーは眉を下げた。


「そんな……。ならどうして。」


「あくまで自分ではないと?」


 横から声をかけるブレーズ王子。眉を顰めた彼に、私は頷く。


「はい。心当たりはありませんわ。」


「ティフィーへの非道行為として、傷害未遂、窃盗、器物損壊など、かなりあるが?」


 つらつらと挙げる王子。ゲームと少し言ってることが違うわね。本来はティフィーへの嫌味についても言うのよね。今は私だし、いびったりしていないからでしょうね。


「知りませんわ。」


「ティフィーに試験等の順位で勝てないのが悔しかったんじゃないか?」


 私は眉を顰めた。ティフィーにそんなことで嫌がらせはしないわ。私は首を横に振る。


「私は王子にも順位で負けています。そんなことでオダン嬢に手を出しませんわ。それに、私は疑わしい人間を知っています。」


 そして、私は実行犯の疑いのあるニヤニヤと笑っている人達の方を示した。中には、スライム達に怯えていた生徒達もいる。


「今私を見て笑っている彼等です。私の知る限りでは、犯人はもっといますわ。」


 私の言葉に、少し離れたところから、声が上げられた。


「嘘ですわ!ティフィーの財布まで盗んで、汚したじゃありませんか!」


 声を上げたのは、ティフィーの周りにいる女子生徒の一人だったの。目を吊り上げて言う彼女。私は自分の眉が下がるのば分かった。


「それは……。」


 財布は発見した時には元々汚れてたし、何よりも落とし物として届けたのは私よ。


 言い淀む私に、意外な人物から助け舟が出た。


「それはない。」


 私は目を見開いて前を見た。ブレーズ王子が、腕を組み、眉間に皺を寄せて女子生徒の方を見ていた。女子生徒に視線を戻すと、彼女も私と同じように目を見開いて彼を見ていることが分かった。彼女は彼に尋ねる。


「どう言うことでしょうか、王子?」


 ティフィーを始めとした多くの生徒が王子に注目しているのが分かる。私はブレーズ王子に視線を戻した。彼は私に目が合うと、すぐに視線を逸らし、唸るように言う。


「私は、教師から聞いた。ティフィーの財布を拾い、届けたのはミーハナブルだと。……匿名で、と言ったらしいが。ティフィーの財布を盗み、汚したのは、別の生徒だろう。」

 

 私はそれに衝撃を受けた。ブレーズ王子を見つめる。彼は、知っていたの?周囲、特にティフィーや攻略対象者である男子達のいる辺りから信じられない、と言った視線を感じた。 


 だが、とブレーズ王子は、腕を解いた。彼はこちらに視線を向ける。


「それ以外の件については、ミーハナブルが関わっているに違いない。ティフィーに謝るんだ。」


「私は関わっていません。よって、オダン嬢に謝罪することはありません。とりあえず、犯人である彼女達に聞いてみてはいかがですか?」


「私達じゃありませんわ!」


 再び示された女子生徒達は、否定しようとした。しかし、ブレーズ王子が赤い瞳を向けると、顔を強張らせる。やがて、観念したように俯き、顔を上げた。彼女達は眉を下げた。顔を見合わせる。


「私達は、本当はやりたくなかったんですわ。でも、イーヴィー侯爵令嬢が……。」


 言いかけた後、顔を伏せる。嘘で、演技ね。私は彼女達にそのような指示した覚えはないわ。私は首を横に振った。


 犯人達の虐めの動機は分からないわ。でも、彼女達に関しては、大方王子に恋をしていて、王子と仲の良く、成績の良いティフィーに嫉妬した、と言ったところかしら。私に罪を擦り付けたのは、昔婚約者候補だったからかしら?それともたまたま?どっちにしろ、迷惑ね。主犯伯爵令嬢の動機は分からないけれど……。似たようなものなのかしら?


「心当たりがありませんわ。彼女達は、嘘を付いています。」


 私はニヤニヤと笑う一角の、ある女子達の隣を見る。目当ての人物を見つけ、目を細めた。この間スライムに威嚇されていた伯爵令嬢が、不安そうにしながらこちらを見ていた。


 前はスライムに怯えてたわよね。自分は関係ないと言わんばかりの顔をしているけれど。調べた限り、あの子が黒幕っぽいのよね。友人をそれとなく誘導して、実行するようにした、って感じ。大人しそうに見えるけど、裏の顔がある、って感じかしら。


「嘘だと?自分が指示したことを彼女達に擦り付ける気か!?」


 ブレーズ王子の声に、私は彼を見る。彼は顔を歪めていた。


「彼女達に無理矢理やらせていたんだろう?」


 しつこいわ。私は、流石に眉を顰めた。大きな声を上げる。


「私は、ティフィーさんに何もしていませんし、誰にも彼女を傷付けるように指示したことはありません!間違っています!」


 ブレーズ王子は、ため息を付く。決まりだな、と彼は呟いた。


「素直に謝罪するようならば温情も考えていたが。これ以上シラを切るなら、仕方がない。……イーヴィー・ミーハナブル!」


 ブレーズ王子は、私、イーヴィーに人差し指を向ける。赤色の瞳は鋭く私を射抜いている。見覚えのある光景に、私は息を呑んだわ。これって、まさか!


 そして、ブレーズ王子は、自信満々に、声高々に宣言した。


「お前をイーブル魔法学園から、いやスミニアナ王国から追放する!」


 ブレーズ王子の声は、会場に良く響いた。


◆◆◆



「お前をイーブル魔法学園から、いやスミニアナ王国から追放する!」


 私はブレーズ王子の言葉に眉に皺が寄るのが分かった。


 横を見ると、何人かの男子と数人の女子に囲まれたヒロイン、ティフィーの姿が見えた。不安そうにこちらを見ている。両手の拳が握られているのが見えた。


 やっぱり、ダメだったのね……。ゲーム通り、ってところかしら。


 私は内心ため息を吐いた。


 これほど否定してもダメなのね。


 私は自分の眉が下がるのを感じた。顔が俯く。


「ブレーズ王子、信じて貰えないんですね。」


 私はブレーズ王子を見た。彼は眉を顰めたまま、首を傾ける。


「何を言っている?お前がやったことは事実だろう?」


 私は顔を俯かせた。結局こうなったのね。今まで、追放されないために、頑張って来たし。ティフィーにもあまり関わないようにして来たし。努力して来たのに。


 王子のその言葉に、私は頭の中で何かが切れる音がした。


「ミーハナブル、出て行くんだ。」


 ダンスパーティの会場から退場するように言うブレーズ王子。


 私の周りからは人が離れる。出口までの道が開く。


 集まる周りからの不審、疑心などの視線。心配そう、あるいは言うことを聞く必要はない!と言う友人達。王子達に疑惑の目を向ける生徒も中にはいるが、声を上げない。


 私を顔を上げた。口を結び、荷物置き場に向かう。王子から何処へ行く!?と言われ、荷物を取るだけですわ、と言う。そして鞄を持ち、中から杖を出した。


 何をする気だ!?と警戒する王子と周り。そんな彼等を無視して、私は右手の杖を上に向けた。目を閉じ、魔力を杖に込める。そして、詠唱を唱えながら、振り下ろした。


 皆、来て!私を助けて!


──ダーク・マインド・アピアー!


 白いこの世界の古代文字の書かれた円──召喚用の魔法陣が展開される。そこからフレアのように湧き上がる黒い炎が生じる。それは渦になった。そして、周囲に幾つもの影が現れた。

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