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四話

──ダーク・マインド


 黒い渦が緑色のゴーレムの手へ伸びて行っても、ゴーレムが拳を振り下ろすことはなかった。そして、全身が白く光り、終了。ゴーレムの周りが輝いて見えるようになったの。


 私ははあー、と大きなため息を付いたわ。知らず識らずの内に入っていた肩の力が抜けた。再び見上げると、ゴーレムと目が合う。ゴーレムは暫くこっちを見た後、振り返って足音を立て、地面を揺らしながら去って行ったわ。何だったのかしら……。何にせよ、大型モンスターとの契約したのね。私は背筋が冷えるような、しかし胸に温かいものが流れるような、入り混じった複雑な気分になった。


 それ以降、屋敷にゴーレムがいつの間にか転移して来るようになったわ。花を渡してくれることがあるの。胸が温かくなったわ。花を胸の前で持ち、ありがとう、と言うと、心なしか穏やかな目付きでこちらを見て来ていたわ。


 他に、時々土属性魔法で作った土をあげることはあるわ。ゴーレムが手を添えると、土に込められた魔力が吸収されるの。他のモンスターで言う餌代わりみたいなものかしら。


 ゴーレムは転移して来るけれど、本来なら私が呼んだ時か、契約したモンスターがピンチの時しか転移して来ないはずなの。最初に転移して来た時に、本で調べてみたわ。すると、大型モンスターになると、呼ばれなくても自由に転移出来るみたい。


 契約したモンスターを転移して呼び出す魔法は、"ダーク・マインド・アピアー"って言う名前だわ。


 ゴーレムと契約したと家族が知った時、彼等は驚愕していたわ。必然的に洞窟近くまで行ったことがバレ、叱られてしまったわ……。貴族の娘だし、屋敷近くの森は一人で行って良いと言う条件だったの。


 心配をかけ、今度からは護衛を付けるようにと言われたわ。今度からは一人では行かない、と約束して許して貰ったの。


 後日、リーヴァイにゴーレムと契約したことを手紙で送ると、心配の言葉と同時にゴーレムに会いたいと言う言葉が書かれていたの。見た時に笑ってしまったわ。大丈夫、と言うことと構わないと送っておいたわ。


 ちなみにリーヴァイは会った時は敬語だったけれど、仲良くなってすぐに普通の話し方に変わったわ。



 ゴーレムと契約して一年程経った頃。馬車で領地の山付近の場所に行った時。山の近くを歩いていたら、あるモンスターと遭遇したの!普段会わないはずなのに、見た瞬間雷に打たれたような衝撃を受けた。怪我でもしているのか、動けないみたい。大きな身体を地面に伏せて、目を閉じていたの。大きな黒く光沢のある身体、背中から生える閉じられた翼、ゴツゴツとした鱗。そんな状況じゃないのに、思わず見惚れそうになったわ。


「大丈夫ですか?」


 初めて見るそのモンスターに恐怖が襲ったわ。それでも声をかけて、心配で近寄ろうとしたの。すると、そのモンスターは顔を挙げ、黒い瞳でこちらを射抜くの。大きい鋭い牙を見せ、グルル……、と低く唸っていたわ。鋭い目付きはまるでそれ以上近付くな、と言っているようだったわ。


 ダーク・マインドはこのモンスターには使えない。逆上して下手したら襲われてしまうわ。私はどうするか迷ったわ。このままにしとく訳には行かないし……。


 少し考えた後、私は杖に魔力を込めた。杖先が赤く光る。火属性の魔法が発動され、中で赤い炎が揺らめく、オレンジ色の球体が形成された。前にいるモンスターは、警戒しながらも、球体の方に黒い目を向ける。


「魔力を込めた玉ですわ。これを食べて下さい。きっと元気が出ます。」


 モンスターは、魔力をあげることで、元気になるの。契約したモンスターなら、あげることはあるわ。……この子は違うし、本当はあまり良くないの。それでも目の前のこの子が元気になるなら、手段を選んでいられないわ。モンスターの種族から考えて、火属性魔法で作ったの。攻撃ではないし、食べたからと言ってもちろんこの子が傷付くことはないわ。


 杖をモンスターの方に向け、球体を近付ける。モンスターは、暫く動かなかったわ。考えているみたい。やがて鼻を動かして嗅いだ後、大きな口を開けると、一口で魔力の玉を飲み込んだ。


 食べたわ!


 私は胸の前で手を組んだ。顔が綻ぶ。心が晴れやかに踊った。


 モンスターと目が合う。理知的な黒い瞳は、さっきと打って変わって穏やかな光を宿していた。モンスターの口からグルル……、と言う鳴き声が漏れる。威嚇とは違う、穏やかな声だわ。


 モンスターは伏せたまま、私の方に顔を近付けようとした。私は近くに行き、数歩離れたところで立ち止まる。恐怖心は消えていた。モンスターは頭を下の方に向けると、私のすぐ近くまで顔を近付けた。流石にこの距離になると、身体が強張ったわ。モンスターはそれ以上何もすることなく、じっと私を見ている。


 そこで、私はモンスターの方に引っ張られるような感覚を感じた。首を傾げる私。モンスターは動かない。


 私はもしかしたら、この子なら出来るかもしれない、と思ったわ。そこで、ダーク・マインドを伸ばす。モンスターの身体の方に黒い渦が向かっても、その気になればどうにでも出来るだろうに、この子は逃げようとしなかった。黒い瞳が細められる。モンスターの全体が白く光った。……契約成立よ。


 契約した子が増えたのに、私は全く喜びを感じなかった。寧ろ肩が重くなった気がするわ。モンスターと目が合うと、ギャア、と鳴いた。


「ありがとう。」


 私は笑顔を向ける。モンスターは再び、ギャア、と先程よりも少し大きな声で鳴いた。

 

 そろそろ戻らないといけないわね。私はもう一度お礼を言った後、背中を向けて歩き出す。モンスターが追って来ることはない。ただ、ずっと背中に視線を感じていた。


 暫くして、契約したこのモンスターが転移して来た。家族が大騒ぎになったことは言うまでもない。森の奥の洞窟付近に行く許可がおり、この子とはそこの洞窟で会うように言われたわ。モンスターに説明すると、答えるように鳴いたわ。モンスターの種族もあり、洞窟以外では基本会えないけれど、仕方ないわね。モンスターには緊急時以外には転移して来ないようにお願いした。


 他の子と比べて会う機会は少ないけれど、背中に乗せて貰って一緒に飛んだりして楽しかったわ。モンスターも嬉しそうに鳴くの。手袋越しに撫でると、硬いしっかりした皮膚が感じられる。うっとりとして、ため息が出てしまうわ……。


 リーヴァイにこの件についての手紙を送ると、大変驚いていた。是非背中に乗ってみたい、と書いてあったわ。近々屋敷に来るかもしれないわね。



 契約したモンスター達は基本安全だと分かってるから、家族や使用人にモテるのよね。


 スライムやラビット達は女性や使用人達が触れ合ってるわ。中型モンスターは、男女含め触りたい人が多いみたい。大型モンスターは、怖いのもあってか、基本見てるだけの人が多いわ。たまにゴーレムに勇気を出して触ろうとする人もいるけどね。もう一匹の子は流石に誰も触ろうとする人はいないわ。


 皆可愛い!かっこいい!とか褒められて、こころなしか嬉しそうに見えるわ。


 領内を出かける時、スライムやラビット達を連れて行くことがあるのだけど、良く子供に囲まれるの。短時間だけモンスター達に相手してもらって、程々で切り上げるようにしてるわ。彼等も少しなら大丈夫みたい。


 モンスターを連れてなくて私一人でも結構囲まれるのよね。子供達は可愛いけれど、ずっと相手するのは……。最後にはクタクタになってることが多いわ。



◇◇◇

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― 新着の感想 ―
魔力をモンスターに食べさせる、かぁ。 味とか喉越しとか、楽しむ(?)要素有るのかな。 ゴーレムへの土属性魔法は、何かテイムモンスター専用のショップか何かで購入した土なのだろうか? それとも、主人公に…
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