三話
ダーク・マインドを習得してから。私はダーク・マインドでモンスターとのきっかけを作りつつ、あの手この手で仲良くなれそうなモンスターと仲良くなり、触れ合おうとした。
ラビットなどの主に小型のモンスターには、近くに来た時に肉や草などといった食べられるものをあげたり。とは言っても、あげすぎても良くないから、少量だけどね。前世でもウサギが餌を食べる動画とか見たことあるけれど、可愛い見た目のラビットが前足で持って餌を持って食べる光景。シャクシャク、と言う咀嚼音。癒しだわ……。私はうっとりと目を細め、頰に手を添えて目の前の光景を見ていた。
契約・使役する際にはこちらからもう一度ダーク・マインドを使って、モンスターが受け入れてくれたら完了。ダメなら残念だけど失敗ね。契約したモンスターの周りには薄い白いオーラが見えるようになるの。
今、ラビットは二匹契約しているわ。どちらも茶色い毛並みの子。青のスカーフと赤のスカーフを巻いて、区別が付くようにしてあるの。他にも契約しているスライムは一匹いるわ。緑色の子ね。
スライムは餌が気に入ったみたいで、契約してくれたの。大きな目が愛嬌があるわ。撫でるとぷにぷにしてて、プルプルと形が変わるところが面白いわ。目は笑ってるから、怒ってないみたい。
ラビットと契約した経緯はスライムと違うわ。最初に赤のスカーフの子に餌をあげて、大丈夫そうだから契約したの。そうしたら、そのうち青の子が現れたわ。お友達みたい。最初は警戒してて、ウウウ……と唸り、目を吊り上げて赤の子を逃がそうとしていたわ。うさぎ型だけど、モンスターだから声が出るみたい。それでもそのうち絆されて、契約してくれたの。二匹とも撫でると毛が柔らかいわ。キュ、と気持ち良さそうに目を細める仕草がとっても可愛いの。
中型モンスターの時は、餌をあげたり、後は魔法で呼んで待つ。ダーク・マインドを使いこなせるようになってから、違う魔法が使えるようになったの。名前は"ダーク・マインド・ウォール"よ。
"ダーク・マインド・ウォール"は周囲に薄く広げるように魔力を展開すると、興味を持ったモンスターが寄って来るの。そこで餌をあげたりして、契約に繋がることがあるわ。
今契約してるモンスターはハーピィ二体。この二体は同時に遭遇して、契約してくれたの。それぞれの羽根の色が少し違うわ。頭を撫でてあげると喜ぶの。見た目も綺麗だし、笑顔が可愛いわ。次にウォーグという黒い毛色の狼型のモンスターが一匹。毛並みがふわふわで気持ち良い。アイスバード、青い見た目の鳥型のモンスターが一匹。その名の通り氷属性の魔法が使えるの。この子も柔らかい羽毛をしているわ。緑色のフェルイーター。食中植物みたいなモンスターね。良い香りだけど、小型のモンスターだけでなく、油断した人間も隠れた口で襲うから注意が必要なモンスター。この子は赤い花の見た目をしているわ。この子は撫でたり、たまに蔓を伸ばして来るから、触ってあげると嬉しそうに身体を揺らすの。この三匹は、餌に寄って来たの。何回か接触してから、契約してくれたわ。
フェルイーターに関しては、こんな時があったわ。
フェルイーターと契約して暫く経ったある日。この子が身体を揺らしながら、赤い林檎のような果物のような物を渡して来たの。食べて良いの?と聞くと、嬉しそうに身体を揺すったわ。口に含んでみると、甘い味が口の中に広がったの。笑顔でありがとう!と言って優しく撫でると、フェルイーターは嬉しそうに揺れていたわ。
それからもたまに貰って食べていたある日。屋敷に持って帰ったところ、使用人の女性が不思議そうに声をかけて来たの。
「イーヴィーお嬢様?その果物は、どうしたのですか?」
私は、林檎のような果物を見て、笑顔になったわ。
「契約してる、フェルイーターがくれたんですわ。とっても美味しいし、大丈夫だと思います。」
「モンスターが!?」
使用人は、さっと顔色を変えると、お嬢様、失礼します、と言って果物を私から取り上げる。フェルイーターがくれた物なのに!私は慌てて、使用人に怒ったわ。
「どうしてですの!?味は大丈夫でしたわ!」
「申し訳ございません、イーヴィーお嬢様。しかし、私は旦那様にお話ししなければなりません。失礼します。」
使用人は、私に頭を下げると、早歩きで去って行った。私は呆然と見送ることしか出来なかったわ。
その日の夜、お父様に叱られてしまった。契約してるモンスターとは言え、無闇にモンスターが出した物を食べたりしてはいけないと。お父様によると、フェルイーターの果物は少しなら問題ないけれど、食べ過ぎると、お腹を壊したり、魅了作用があるみたい。フェルイーターについては調べたけれど、果物については知らなかったわ……。真剣な目付きで言うお父様に、私は頷いた。その後お医者様にかかったけれど、健康に問題はないと知って、皆で安心したわ。後で使用人に謝罪とお礼を言ったわ。
「ごめんなさい。怒ってしまって。私のことを心配してくれただけなのに……。後、ありがとうございます。」
「いえ、大丈夫です。お嬢様をお守りすることも、私達の役目なので。」
使用人は首を縦に振り、笑顔を向けてくれたわ。
それからは、フェルイーターに果物を渡されても、毎回は食べずに、断るようになったわ。最初は残念そうだったけれど、繰り返し言い聞かせると、納得してくれたみたい。たまに食べるくらいになったわ。
契約モンスターのお世話はそれぞれ違うけれど、小型モンスターの時は一日一回、中型のモンスターの時は欲しそうだったら餌をあげるようにしているわ。
大型モンスターについては、餌をあげても、ダーク・マインドで気を惹き付けても、効果はほぼないわ。強いとは言え、契約は難しいし。何かきっかけがあれば、契約出来るかも?……と、思っていたのだけれど。
私は、傍に立っている大きな緑の岩山のような物を見上げた。茶色の目が、こちらを見ているのを感じる。
「あなたは、どうして私のところに来たのかしら……。」
唸るように言う私に、岩山、緑色のゴーレムは、何も答えなかった。
この子に関しては、遠出をして森から洞窟の近くに行った時に、地面が揺れて、大きな足音がすると思ったら、近くに来ていたの。流石に、大きなゴーレムに遭遇した時は、びっくりしたわ。斧を持っていたし。ダーク・マインドを使っていなくなって貰おうとしたけれど、当然効かないし。じっと上からこちらを見つめるのは、正直震え上がるかと思ったわ。
暫く見つめ合ったけれど、ゴーレムは何もして来なかった。そこで足音が聞こえて、別のモンスターかと意識が逸れたの。場合によっては、魔法か契約モンスターを呼び出して応戦しなくちゃいけないもの。ひとまずゴーレムのことは意識の外へやったわ。
すると、ゴーレムが急に動き出したの。再び地面が揺れ、ドス、と足音がして……、ゴーレムの斧が緑色の光……風属性の魔法の光を纏ったと思ったら、モンスターが吹き飛んでいったの。一瞬の出来事で、どんなモンスターか分からなかったわ。
それから茶色の瞳で、ゴーレムだから唸るくらいしか出来ないだろうし仕方ないだろうけど、無言でこちらを見ているゴーレムに身が縮こまったわ。
「ありがとう……。」
私が小さな声で礼を言うと、ゴーレムは徐に何も持っていない方の手を伸ばして来た。いよいよ攻撃されるかと思って後退りしても、ゴーレムは何もしてこなかったわ。手を伸ばしてるだけ。私はまさかと思って試してみたの。