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番外編:とあるモンスターについて

【注意】番外編では恋愛要素は普通レベルです。

 番外編か、後日談とも取れます。



◇◇◇



 自宅の木の机の前に椅子の一つに私は座っていた。私はモンスター図鑑のフェルイーターの項目を見て、ふと目を細めた。そう言えば、昔、フェルイーターの果実を食べ過ぎないように、ってお父様に怒られたのよね。それからは気を付けているけれど。


 あの時お父様は魅了性がある、って言い方をしていたけれど。実際は違う。自分の眉間に皺が寄るのが分かった。私は、目を閉じてモンスターの事故・事件についての本を思い出した。



◇◇◇



 〇〇年〇〇月〇〇日。


 一人の闇属性魔法を使える男性がいた。仮に彼をA氏とする。A氏は何匹かのモンスターと契約していた。A氏は自分の契約している中型モンスターのうちの一匹、黄色い花を持つフェルイーターを見て、ふと思った。


 フェルイーターの作ってくれる実って本当甘くて美味いよな。なら、溜めておいて、今度毎日食べてみるか。


 A氏がフェルイーターに多めに作って欲しいと頼んだところ、A氏に懐いていたフェルイーターは、身体を揺らして嬉しそうに引き受けた。そして、数日に一回、果実を作ったのである。A氏は作った果実を保存した。


 それから何日か経った後。A氏は自宅の木の机に置かれた果実を前に、腰に手を当てて満足気に微笑んだ。


 良し、明日から食べるか。


 それから、彼は毎日、一日三回、時にはそれ以上に、実を口に入れた。


 それから暫くして。A氏は騎士団に逮捕されることになる。



◆◆◆



 A氏は自身の契約しているフェルイーターに掴みかかり、暴力を振るおうとして、近くにいた者に拘束された。フェルイーターは近くの人間に保護され、魔術師の元に送られ、そこで面倒を見ることになった。


 拘束された際、A氏は酷く錯乱しており、暴れた。



──離せ!もっとだ!寄越せ!



 A氏は凄まじい形相で止める人間を睨め付けた。普段の様子とはかけ離れている。


 A氏があまりにも暴れるので、気絶させられた。そして、彼は騎士団に連行されることになったのである。


 保護された際、フェルイーターは酷く興奮していた。しかし、周囲の人間や魔法によって時間はかかったものの何とか落ち着いた。保護される際、フェルイーターは力なくうなだれ、落ち込んだ様子だったと言う。



 騎士団に連行された後もA氏は暴れたので、医者の元で治療を受けることになった。


 上級の魔術師が呼ばれ、フェルイーターは、A氏との契約を解除された。フェルイーターはその魔術師の元へ行き、暫く過ごした後、徐々に慣れた後に住処に帰された。



◆◆◆



 同様の事件が続いた。軽い物では体調を崩した例もある。


 やがてフェルイーターの果実の害として、体調不良、そして魅了──寧ろ依存性が周知されることとなった。



◇◇◇



 モンスター図鑑 植物性モンスター ──番 フェルイーター



◇◇◇



 不意に、首の後ろから手が回って来た。突然のことに、心臓が跳ねる。耳元で囁く男性の声。


「イーヴィー、何を読んでいるんだ?」


 背中を撫でられたようなくすぐったさを感じた。鳥肌が立つ。


 私は後ろに顔を向けた。


「リーヴァイ。……驚きました。」


「悪い。」


 私を椅子の後ろから手を伸ばして抱き締めるリーヴァイは、全く悪びれていない声で言った。銀の目には悪戯っぽい光。口元は笑っている。私は小さくため息をつき、苦笑いした。


 私は机の上の本を持ち上げる。リーヴァイがそれに視線を向けたのが分かった。


「モンスター図鑑ですわ。フェルイーターの項目を見ていましたの。」


「成る程。」


 返事をすると、リーヴァイは立ち上がった。私の横の椅子に腰掛ける。視線を向けると、彼は笑った。


「確か、イーヴィーの探していた……コメ、だっけ?見つかったかもしれないって言ってただろ?どうだったんだ?」


 私は自分の目が輝くのが分かった。満面の笑みが浮かぶ。ガタ、と言う音が鳴る。椅子を引いて勢い良く立ち上がった。


「ええ、そうですわ!」


 そう、とうとう見つかったの!全く同じものとは限らないけれど、お米よ!今日届いたの!立ち上がったリーヴァイは、私の表情を見て、目を細めて微笑んだ。


「良かったな。今日、手伝うからそのコメ、で何か作ってくれないか?」


 私はその言葉に、すぐさま首を縦に振った。勿論!


「ええ、分かりましたわ!」


 私は、どんな料理を作ろうか考える。難しいわね……。折角だし、美味しい物を食べて貰いたいし。隣のリーヴァイは、穏やかな目でそんな私を見ている。


「今からそんなに悩まなくても……。イーヴィーが作る物なら、美味いだろうし。」


「そう言う訳にはいきませんわ!」


 私が目を吊り上げて強く詰め寄ると、リーヴァイは両手を挙げた。


「分かった、分かった。」


 そう言って私の頭を軽くポンポン、と数回叩く。子供じゃないんだけど。私が睨むと、彼は慈愛の満ちた目でこちらを見て来た。数秒経ってから、私はため息をついて睨むのを止めた。何か馬鹿馬鹿しくなったわ。


 笑顔の恋人の首元には、私とお揃いの琥珀色のネックレスが輝いていた。

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