二十話 本編終わり(番外編もあります)
私はレッド・ドラゴン……、と呟く。そして目を閉じて前に見た図鑑の挿絵を思い出したわ。
レッド・ドラゴンはブラック・ドラゴンと違い、全体的に赤いみたい。火属性魔法が一番得意らしいわね。攻撃も火属性攻撃を放つらしいわ。
そうなんですね……、と呟く。リーヴァイはそれにああ、と頷いた。リーヴァイは実際にレッド・ドラゴンを見たことがある、と言ったわ。本当!?私は身を乗り出した。
「本当!?羨ましいわ……!」
リーヴァイはハハハ、と小さく笑った。
「イーヴィーも王宮に来れば、見れるんじゃないか?」
私は目を見開く。心の中で日が差し、心臓の鼓動が早くなる。レッド・ドラゴンに会える……!?私は知らず識らずのうちに再び身を乗り出していたことに気付いた。椅子にかけ直したわ。リーヴァイはそんな私に笑っていた。
リーヴァイは思い出すかのように視線を斜め上に向けた。そして、笑みを浮かべる。彼は魔術師本人はケセランパサランで有名になることに不本意らしい、と言った。魔術師の様子から見て、そうでしょうね。私は彼の無表情と静かな目を思い出した。だが、とリーヴァイは笑みを浮かべたまま続ける。
「周りに聞いたが、ケセランパサランにたまに餌をあげているらしい。」
私は目を見開く。声を上げて尋ねた。
「本当ですか!?」
あの人が、ケセランパサランに餌!?そんな私に、リーヴァイは片手をあげた。
「あくまで噂で、だがな。」
後ケセランパサランを連れているし、運が良いのかもしれないな、とリーヴァイを言った。そんな彼の言葉を耳に入れつつ、私は考え込む。冷たいように見えたけれど、ケセランパサランを可愛がっているのね。笑みが漏れる。微笑ましい気分になった。更にケセランパサランを見てる時、魔術師の目の光が柔らかくなったのを思い出す。何だか納得がいったわ。
図鑑に載っていたけれど、ケセランパサランは普通に餌を食べるらしいのよね。魔術師はケセランパサランに合う餌を探してるのかしら?おしろい、もといフェイスパウダーはどうなのかしら?もしかしておやつ?
私はふふ、と、笑う。色々想像してみたら、何か楽しいわね。私は冷ややかな魔術師と笑顔のケセランパサランの姿を思い出した。
お茶を終えてからは、外に出たわ。家の広場の茶色い木のベンチに並んで腰掛け、暫く雑談をしたの。モンスター達は皆近くに来ていたみたい。モンスター達は私と一緒のリーヴァイに鳴いたりして寄って行った。リーヴァイは撫でながら、目を細める。私に視線を向け、皆元気そうだな、と言った。それに首を縦に振る。私は彼の隣でモンスター達を撫でたり、ラビット達を抱き抱えたりした。ラビットの柔らかい毛並みや、スライムの触った時の弾力が気持ち良い。モンスター達は嬉しそうにすり寄って来たわ。
モンスター達と過ごした後、私は村の外れに向かった。ブラック・ドラゴンを呼び出すためよ。ダーク・マインド・アピアーで魔法陣を展開して、ブラック・ドラゴンを転移した。私達は黒の硬い鱗を撫でる。ドラゴンは黒の目を細めギャア、と鳴いた。
私はブラック・ドラゴンを撫でたまま、隣に立つリーヴァイを見上げる。リーヴァイ、と声をかけると、彼は撫でていた手を止め、こちらに銀の瞳を向けた。
「久しぶりに、ブラック・ドラゴンに乗りますか?」
言うや否や、リーヴァイは銀色の目を爛々と輝かせる。首を縦に振った。
「ああ、乗りたい。」
私はリーヴァイからブラック・ドラゴンに目を向け、良いかしら?と声をかける。ドラゴンはギャア、と答え、翼を下げ、乗りやすいように身をかがめた。よろしくね、と言った後、私は茶色い長い髪を鞄から取り出した赤いゴムで縛る。私はドラゴンの身体をよじ登り、背中に乗った。
下からリーヴァイがよろしくな、と声をかけたのが聞こえる。そして、リーヴァイはいそいそと登って来た。彼は後ろに付くと、私の背中から手を伸ばしてドラゴンに捕まった。身体が密着する。自分の身体が包まれているのが分かったわ。
背中に感じる体温が気になり、私は後ろを見た。銀の目が合う。リーヴァイは不思議そうに首を傾ける。
「どうした?」
私はいえ、と答え、視線を逸らした。早くなる心臓に、気のせいだと思うことにした。
下からはラビット達を始めとするモンスター達がこちらを見上げていた。
私はブラック・ドラゴンの背中を軽く叩き、合図をしたわ。大きな翼を広げ、身体が持ち上がる。私達は、風を切り、空へと飛び立った。
私達と同時に、青のアイスバードと色違いのハーピィ二匹が飛び立ったわ。隣を見ると、三匹と目が合う。楽しそうな目に、こちらも笑みが漏れた。
ハーピィ達はドラゴンやアイスバード程高く飛べないので、途中で別れることになった。リーヴァイと一緒に手を振ると、ハーピィ達は優雅に宙を舞った後、下に降りて行ったわ。
群青色の空。西に位置するレモン色の太陽。下を見ると乳白色のカーペット。ドラゴンに乗って飛ぶのは、以前の休みの時以来ね。久しぶりに飛ぶ空は、とても気持ち良いわ。一人で飛ぶ時と、誰かと飛ぶのとでは、やっぱり違うわね。気が浮き立つ。鼓動が早くなった。
風が自分の横を流れる。雲の上にいるから、太陽がとても近い。離れた位置に鳥やモンスターが飛んでいる。
勿論、アイスバードは横に並んで飛んでいるわ。
下を見ると、ブラック・ドラゴンと目が合ったわ。ギャア、と鳴き、羽ばたく。ドラゴンも私と飛べて嬉しそうに見えるわ。
後ろを向けると、リーヴァイは目を輝かせて周囲を見ている。魔法ならともかく、モンスターに乗って飛ぶことは、あまりないものね。彼は私が自分を見ているのに気付くと、満面の笑みを向けた。
「気持ち良いな!」
そんな彼に、私は目を細め、微笑んだ。
「ええ、そうですね!」
リーヴァイの笑顔は、私には天から光が差したように眩しく見えた。