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十八話

 魔術師によると、私が王宮魔術師に合格したから、スミニアナ王国からモンスターを転移させてくれるって!目を見開いたわ。本当!?一時的じゃなくて、呼び寄せられるの!?しかも彼が契約もしてないモンスターを!?


 聞き返すと、魔術師は片眉を上げ、そうでなければ自分はここにいない、と言った。


 目を輝かす私を鬱陶しそうに見ると、男性は身体を横に向ける。釣られて私もそちらに目を向けたわ。魔術師は左手の杖を振り上げた。杖先に闇属性の魔力が込められ、渦を巻くように黒い大きな光が収束した。その大きさに、私は息を呑む。魔術師は感情の篭らない静かな声で詠唱した。


──ダーク・サモン


 地面に白く巨大な召喚用の魔法陣が展開される。私はそれに目が釘付けになった。その魔法陣は私が普段ダーク・マインド・アピアーで使うものとは違う。書かれた古代文字が多く、緻密で美しいものだったわ。そこからフレアのように湧き上がる黒い炎が生じる。それは渦になった。


 そこから、十体の影──モンスター達が召喚された。


 転移したモンスター達は、最初不思議そうに首を傾げていたわ。いつもと違うことに気付いたみたい。モンスター達は私に気付いて鳴き声を上げたり、身体を揺らしたり、飛び跳ねた。そして隣の知らない人間の姿に、唸ったり警戒する素振りを見せた。


 モンスター達を見て、私は息を吐いた。知らず識らずのうちに息を止めていたみたい。胸が早く鼓動を打っていた。圧倒されたわ。畏怖の念を抱く。凄いわ……。


 警戒するモンスター達を他所に、魔術師はこちらを向いた。顔は氷のような無表情。警戒するモンスター達を意にも介さない。


「仕事は終わった。俺は王都に戻る。」


 魔術師はそう言って、こちらに背を向ける。立ち去ろうとする背中に、私は声をかける。あることを聞いたら、意外にも振り向いて応対してくれたわ。


 もう良いだろう、と再び背を向ける彼に、声をかける。緊張は少し薄れていた。


「ドラゴンのことを含め、ありがとうございました!」


 頭を下げる私に、彼からの返事はない。馬車の扉が閉まる。そのまま魔術師は去って行ったわ。


 馬車を見送り、私は深く息を吐いた。肩の力を抜く。


 凄いわ。上位の魔術師は、あんなことが出来るのね……。目を閉じると、先程の魔法が瞼の裏に浮かんだ。


 私も頑張るわ!



 ちなみに村の人達が集まって来て、ちょっとした騒ぎになったわ。彼等はブラック・ドラゴンに驚いていたわ。ドラゴンはいつも村の端で目立たないように呼んでいるから、仕方ないわね。私は説明をすることになった。良かった、と声をかける人達に、私は微笑んでお礼を言った。



 モンスター達にこれからは一緒よ、と言うと、嬉しそう。そしてモンスター達は次々と私に乗っかかって来た。


 緑色のスライムと茶色に赤と青のスカーフをしたラビット二体はキュ、と鳴きながら飛び付いて来た。黒のウォーグは尻尾を振りながらワウ、と鳴き、舌で私の頰を舐める。フェルイーターは身体を揺らしながらツルを伸ばして、果実を渡して来たの。色違いの二体のハーピィ達は嬉しそうに舞った後、それぞれ頬を擦り付けて来たわ。アイスバードはピチ、と鳴きながら頭を私の手に擦り付けて来る。それぞれ順番に撫でる。


 暫くして影が出来て、見上げると、緑色のゴーレムが手を伸ばして来たので、握って握手したわ。目が柔らかく細められた。


 ブラック・ドラゴンは、落ち着いたところで、かかんで自分も撫でろとばかりに私の手に頭を擦り付けて来た。笑顔が溢れる。勿論撫でてあげたわ。


 モンスター天国ね。胸がいっぱいになる。


 でも、皆が乗りかかって来るのは、流石に重いわ……。私は潰されながら苦笑した。



 ところで、最初から魔術師の男性の頭に上に、数匹の小さなボールサイズの白い綿毛がずっと乗っていたのよね。大きな目や口と言った顔があって、ずっとニコニコしているの。糸みたいな尾があるわ。


 あれってもしかして……、と聞いてみたら、彼は無表情で貴方には関係ない、と言ったけど、尚も詰め寄ったわ。そしたら、彼は面倒だと言いたげにため息をついた。


 魔術師は頭の上に右手を伸ばす。彼の手の甲にふわりと白の綿毛が乗ったわ。彼は左手を上に向け、右手の横に出す。白の綿毛は転がるようにして左の手の平に移動した。彼は素早く右手を下ろす。白の綿毛の生き物は魔術師の手に嬉しそうにキュー、と鳴いて擦り寄るの。魔術師は左手を私の前に突き出した。


「勝手にしろ。……出来るならな。」


 魔術師は不本意そうだった。近くで見て、やっぱり!珍しい!と思った。これ、ケセランパサランね!図鑑で見たし、前の世界でも聞いたことあるわ!ケセランパサランは妖精や精霊の仲間。モンスターと違うから契約は出来ないし戦闘には参加出来ないけれど、持ち主に幸運を呼ぶのよね!


 ケセランパサランは、こちらを見て驚いた顔をすると、キュ!と鳴いた。魔術師の手、長い腕を伝って肩に乗ったの。彼はすぐさま左腕を引っ込める。ケセランパサランは彼の顔の横から顔を出してこちらを見た。可愛い!


 魔術師はもう良いか?と言いたげに冷ややかな目をこちらに向ける。私は首を縦に振った。ケセランパサランが見れただけで充分だわ。


 去り際には、数が増え、五、六匹のケセランパサランが魔術師の頭の上で風にふわふわと揺れていた。顔は笑顔でどの子も楽しそうに見えるわ。


 冷たい印象の男性に白のふわふわのケセランパサラン……、何と言うか、怖いのと癒しが混ざると、変な感じね。


 それにしても、上位の魔術師で、ケセランパサランを使うなんて、凄いわね。緊張は少し薄れていた。



◆◆◆



 イーヴィー?と声をかけられ、意識が現実に戻る。銀の瞳が不思議そうにこちらを見ていた。いつの間にか緑色のスライムが肩の上に乗っている。大きな緑色の目が同じようにこちらを見ている。首を傾げるリーヴァイ。


「合格してから今までのことを思い出していました。」


 教えると、リーヴァイは目を細め、そうか、と言った。


 リーヴァイはドラゴンと契約してる魔術師は少ないこと、殆どの魔術師は王宮に勤めていると教えてくれたわ。



 暫くして。リーヴァイは、鞄に手を入れる。私はそれに首を傾げる。


「どうかされましたか?」


 リーヴァイは私が声をかけてすぐに、袋を出した。彼は、笑顔でそれを差し出す。


「はい。買ったんだ。合格祝い。」


「本当ですか!?ありがとうございます!」


 心に明るい太陽が差した。私は満面の笑みでそれを受け取る。


「見て良いですか?」


 リーヴァイは、ああ、と銀の目を細めたまま頷いた。丁寧に開けると、中から箱が出て来たの。私は蓋を開けたわ。中を見て、息を呑んだ。中に入っていたのは、吸い込まれそうな輝きを持つ青く丸い宝石にチェーンの付いたネックレスだったの。大きさからして魔法石かしら?光を反射して輝いていて、綺麗。私はため息をつく。胸の奥底から歓喜の気持ちが湧いた。


 首にかけ、手で持ち上げたまま、笑顔で彼を見上げた。緑のスライムは私に釣られてネックレスを見ている。


「綺麗ですわね。ありがとうございます!」


 リーヴァイは目を細めた。


「ああ。……良いな、似合っている。」


 リーヴァイの言葉に、頰が熱くなる。


「そうですか?ありがとうございます!本当に綺麗ですわね。大切にしますわ。……魔法石ですか?」

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