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十七話

 私の脳裏に風属性魔法で乾燥させた泥水まみれの財布が頭に浮かぶ。更にティフィーが怪我しそうになったと言う話を思い出した。私は眉間に皺が寄るのが分かった。伯爵令嬢が実際に動いてた時もあるかもしれないわね。


 伯爵令嬢は友人達が私に罪を擦り付けていたのを知っていたけれど、特に止めなかったらしいわ。元婚約者候補だし、丁度良いから、って。私じゃなくても誰でも良かったらしいわ。



 読み終わった後に、私は顔を顰めた。苦虫を噛み潰したような気分になる。自分じゃないから主犯は誰でも良かった?何と言うか、自分以外どうでも良い、と言う感じね。友人を唆し、悪事を働いてもお構いなし。


 伯爵令嬢の処分は丁度良かったかもしれないわね。貴族から除籍されたし、奉仕活動で、少しは改心すれば良いけれど……。私は眉を下げた。なかなか難しいでしょうね。


 彼女もカウンセリングを受けるべきよ。そのことを友人への手紙に書いておいた。



 リーヴァイは近くに寄った時、会いに来てくれたわ。村の何人かの女性達に囲まれていることがあった。それに私は苦笑する。助けを求めるように銀の目をこちらに向けるリーヴァイ。私は手をヒラヒラと軽く振った。ショックを受けたように顔を強張らせるリーヴァイに、思わず笑ってしまったわ。頑張って。



 王宮魔術師の勉強をしながら卒業課題をこなすのは大変だったわ。それでも課題を出しつつ、週一で近くの街に通い、講師に指導を受けたり、小テストを受けた。そして、一ヶ月後。


 届いた封筒に、私は声をあげた。


「やったわ!」


 封筒には、アーマルズ王国の王宮の印とスミニアナ王国のイーブル魔法学園の印がされている。これは、きっと卒業関連の手紙よ!私はいそいそと封を切り、手紙に目を通した。


 イーブル魔法学園からの手紙には、冤罪のこと、退学になったことに対する謝罪が書かれていた。実は、前にも謝罪の手紙が届いていたのよね。なので私は読み流した。そして、卒業資格を得たことに対する賞賛が書かれていた。そして、卒業証書。


──卒業証書 イーヴィー・ミーハナブル 貴方はイーブル魔法学園の全過程を修了したことを証します──


 これを見て、言いようのない程の喜びが込み上げて来た。


 とうとう卒業資格を得たのね……!

 

 笑顔を溢れる。様々は思い出が頭に浮かんだ。次に家族や友人、教師達の顔。涙が出そうになったけれど、目を瞑って堪えたわ。


 その後、村人達に知らせて、色々な人に卒業出来たことを送ったわ。


 村人達からは良かった、頑張ったと祝福された。大輪の花束も贈られたの。綺麗。私はお礼を言って笑顔で受け取った。家族や友人達からは祝福の手紙が送られて来た。


 リーヴァイからも祝福の手紙が送られて来たわ。次に会った時に、色取り取りの大輪の花束を贈られた。


「イーヴィー、良く頑張ったな!おめでとう。」


 花束を見た時、目を見開いた。まさか、リーヴァイからも貰えるなんて!赤、白、黄色などの花束を胸の前を抱える。彼に笑顔を向けた。


「ありがとうございます!リーヴァイ。」


 リーヴァイは目を細めて微笑んだ。


「喜んで貰えて良かったよ。」



 試験が近付いた時。リーヴァイは私の肩を叩いた。顔をそちらに向けると、彼は輝く笑顔で言った。


「イーヴィーなら大丈夫だ。頑張れ。」


 何の心配はない、と言わんばりの表情。温かい銀の目。私は顔が綻ぶ。拳を握った。


「ありがとうございます!私は、頑張りますわ!」



 四ヶ月後。十月。日が高く、夜にあちらこちらから響く虫の合唱。涼しくなって来たわ。私は馬車でアーマルズ王国の王都に向かったわ。


 出発する前、村の皆に激励された。胸にグッと来た。ありがとう、と返したわ。


 道中でも試験教材を読んだわ。数日馬車に揺られ、王都に着いた。その日は宿で明日の試験に備えて早めに寝たわ。


 当日。試験会場の入り口に着く。いよいよ魔術師の試験よ。私は両手で握り拳を作った。頑張るわよ!私はワンピースを揺らしながら扉を潜った。



 あれから数週間が経ったわ。今日は試験結果の日よ。家の前に村長を含めた村の人達が集まってくれたわ。胸が熱くなる。皆、ありがとう。私の右手を持つ封筒に周りの人々の視線が集まる。早く開封するように目で促された。私は封を開け、中身を見る。


 そしてその中身に、目が釘付けになる。息を呑んだ。


 え……!



◇◇◇



 試験結果が分かってすぐ、私は色々な人達に手紙を送った。勿論、リーヴァイにも。


 そして、五日が経った。私はため息をついた。そろそろリーヴァイにも結果が届いた頃かしら。


 太陽が真上に位置している。お昼を過ぎて、午後一時。魔術師として働いてると、横にいた緑色のスライムが飛び跳ね、身体をある方向に向けた。どうしたのかと声をかけると、スライムも再び飛び跳ね、少し進んだ先で振り返り、再び跳ねた。私は目を瞬く。追って来て欲しいみたいね。私は少し待って、とスライムに声をかける。そして依頼人の元へと足を進めた。



 依頼人に話をした後、時折振り返るスライムの後を追いかける。こっちは村の入り口で、一台の茶色い馬車が止まっていた。そこに立っていた人物に、私は笑顔になった。


「リーヴァイ!来てくれたんですね!」


 リーヴァイはこちらに駆け寄ると、私の手を握る。そして満面の笑みを向け、大きな声で言った。


「イーヴィー、王宮魔術師の試験に受かったんだな!頑張ったな。おめでとう!」


 リーヴァイの言葉に、胸が熱くなった。私も満面の笑みを向けたわ。


「リーヴァイ、ありがとうございます!」


 リーヴァイの言う通り、私は王宮魔術師の試験に受かったのよ!


 私は結果発表日から今日までのことを思い出した。



◆◆◆



 手紙で結果を見た時は、手だけでなく全身が震えたわ。飛び立つ程の喜びを感じた。


 私は震える口で受かったことを周囲の村の人達に知らせた。一拍置いてから、男女入り混じった歓声が上がる。大勢の人に四方八方から抱きしめられたわ。


「おめでとう!」


「やったわね、イーヴィーさん!」


「イーヴィーお姉ちゃん、おめでとう!」


 大人も子供も、皆満面の笑み。支えてくれた人達。私も笑い返した。


「はい!ありがとうございます!支えて下さった、皆さんのおかげですわ!」


 その日はお祭り騒ぎだったわ。村全体で祝福してくれたの。料理も美味しかったわ。この上ない幸福感を全身が包んだ。



 手紙には合格後について書かれていた。


 合格後はやっぱり王都に住むらしいわ。モンスター達は王都の近くに暮らして、数日に一回呼び出して体調等をチェックするみたい。仕事の時には何日か王宮で過ごすことになるらしいわ。


 それは良いのだけれど、モンスター達は普段はミーハナブル領にいるのに、どうするのかしら……。



 発表日から三日後。リーヴァイが来る一日前、つまり昨日。衝撃のことがあったわ。


 王宮から馬車に乗って、王宮魔術師が来たの!初めて見た時、目を見開いたわ。魔術師は男性で、年齢は良く分からないわ。見た目はやっぱり美形で、身長が高い。魔術師は王宮の紋章が入ったローブを着ていた。左手には杖。彼は私を見つけ、真っ直ぐこちらに静かに寄って来たわ。そして、私を見据える。自然と背筋が伸びたわ。


「イーヴィー・ミーハナブル女侯爵か?」


 私はカーテシーをした。


「はい。そうですわ。」


 魔術師は首を縦に振ると、淡々と話し出した。その話に耳を疑ったわ!

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