十六話
「分かりました。私は王宮の試験を受けることにします。そして、王都に行きますわ。」
「本当か!?」
前のめりになるリーヴァイに、私は苦笑して首を縦に振ったわ。
「ええ。」
その言葉に、リーヴァイはそうか、と呟く。目を細め、嬉しそうに笑っていたわ。
その後、リーヴァイと今後について話したわ。王宮魔術師の臨時試験は十月にあるみたい。約四ヶ月後ね……。魔術師の勉強をしているとは言え、大丈夫かしら。村から少し離れた街の図書館に行って、勉強することにするわ。
昼食の後、私達は家の近くに戻ったわ。店を出てスライム達を呼んだら、先程と同じようにリーヴァイに乗ったり抱き上げられたりしていた。そして私はダーク・マインド・アピアーで魔法陣を出し、モンスター達を転移させた。他のモンスター達もリーヴァイに会いたいだろうしね。ブラック・ドラゴンは村の少し離れたところで呼ばないといけないけれど。
呼び出された黒のウォーグ達は、私に視線を向けて鳴いた後、リーヴァイを見つけてそれぞれ鳴いた。寄って行くモンスター達にリーヴァイはもみくちゃにされていた。リーヴァイは目を細めて受け止め、一匹ごとに撫でていたわ。キュー、ギャウ!と言ったモンスター達の喜んでいると分かる鳴き声が辺りを包んだ。
少し離れたところで、緑色のゴーレムが彼等を見守っている。それに気付いたリーヴァイが近寄り、ゴーレムも久しぶりだな、と言って腕を軽く叩くと、ゴーレムは静かに首を縦に振った。それに微笑み、私も輪に加わった。
暫くして、私はモンスター達を一旦戻した。そして、リーヴァイと共に村の外れに向かい、黒いブラック・ドラゴンを召喚したわ。呼び出されたブラック・ドラゴンは身体を屈め、長い首を下に向けて私にギャア、と鳴く。そして、リーヴァイに顔を向け、先程よりもやや大きな声でギャア、と鳴いた。私はそれに微笑む。挨拶みたいね。リーヴァイの方を見ると、彼も微笑んで久しぶり、と声をかけていた。
私が手を伸ばし、黒いゴツゴツとした固い鱗に触れる。黒い目を細めギャア、と鳴き受け入れるドラゴン。リーヴァイに目で合図をすると、彼は静かに歩いて来たわ。目で彼の手を追うドラゴンを撫で続け、リーヴァイが手を伸ばすのを見守る。彼が撫でるのをドラゴンが受け入れるのを見て、私達は目を合わせて小さく笑い合った。
ふと、リーヴァイが目を細めた。
「イーヴィーは夢を叶えたんだな。」
優しげにこちらを見る目に、私はぎこちなく微笑む。そうね。あまり実感がなかったわ。
「……そうですわね。アーマルズ王国でやっていけるように、魔術師になりましたわ。」
それより、と私は話を逸らした。リーヴァイに笑顔を向ける。
「お互いに、ですわね。」
「そうだな。」
私達はお互いに微笑み合ったわ。
話の中で、リーヴァイがふと銀の瞳を細めた。優しげな眼差し。口には笑みが浮かんでいる。何となく落ち着かない気分になり、私は尋ねた。
「何かしら?」
「久しぶりに会ったが、変わったな。強くなったのが分かる。」
それに……、と何かを言いかけて、止めたリーヴァイ。首を傾げると、何でもない、と誤魔化すように彼は首を振った。まあ良いわ。私は笑顔で首を縦に振った。
「魔法の勉強を頑張るのは当然のことですわ。勿論それ以外のこともです。」
「そうか、確かにそうだな。」
リーヴァイは微笑み、納得したように頷いたわ。
それにしても、変わったのはリーヴァイだと思うわ。私は目を細める。背が高くなったし、体格もがっしりとしたものになったし。以前よりも目を引くようになったし。胸に温かい炎が灯った。
力は勿論強くなったでしょうね。魔法に関しても、前よりも魔法が強くなったのが何となく分かる。騎士団に行ってからも努力してるみたいね。
そんな考えのまま、私はリーヴァイの顔を覗き込む。彼の銀色の瞳には笑顔の私が映り込んでいる。
「貴方も、じゃない?騎士団も頑張っているんでしょう?それに、魔法も強くなってるのが分かるわ。」
私は彼の見た目等には触れず、魔法について話を振った。リーヴァイは目を瞬かせた後、やや後ろに下がった。そして私に尋ねる。
「魔法も強くなってるように見えるか?」
私はええ、と頷く。彼は目を細め、そうか、と嬉しそうに呟く。
「ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
私達は、お互いに笑い合った。
日が傾き、もうすぐ夕方。まだ気温が高いわ。村の入り口にはリーヴァイが乗る馬車が止まっている。リーヴァイは馬車の前に立っている。私は、馬車から少し離れた位置で足を止めた。
村の人達が、次々と彼に別れの言葉をかける。リーヴァイは手を挙げながらそれに答えていたわ。暫くして、リーヴァイは、こちらに振り返った。
夕日に照らされるリーヴァイの姿は、妙にくっきりと浮き上がって見えた。
「また今度来る。困ったことがあったらいつでも手紙を送ってくれ。相談に乗る。じゃあ、また。」
笑顔を向ける彼に、私は笑顔を返した。
「ありがとうございます。……リーヴァイ、また。お元気で。」
「そっちも。」
私達は笑い合う。そして、リーヴァイは馬車に乗り込んだ。扉が締まり、馬が脚を動かす。ガタガタ、と言う音が遠ざかって行く。
一瞬、静かになった。しかし、すぐに村の人達の話し声で賑やかになる。
それに、私は思わず吹き出した。感傷に浸っている暇がないわね。私は足を進め、彼等の輪に加わった。
◇◇◇
リーヴァイと話した後。すぐに王宮に王宮魔術師の試験を受けると言う手紙を書き、送ったわ。そして何日かした後、王宮から教材が幾つか送られて来たわ。自宅で机の上に置かれた本と向き合う。私は目を細めた。大変だけれど、頑張るしかないわね……。
王宮からは、教材と卒業資格用の課題が送られて来たわ。今週は二回、それ以降は週一で近くの街で魔法の指導などを受けるみたい。小テストもあるわ。
教材が送られた数日後、お父様からの手紙への返信が来たわ!私は机の上に置かれたミーハナブル領の印が押された白い紙を持ち上げ、目を通す。
お父様は不満そうだけれど、お母様達が話してくれたのもあり、許して貰えたわ。身体に気を付けることなどが書かれていた。その代わり、半年、ダメなら一年に一回はミーハナブル領に顔を出すように、と書かれていたわ。
私は目を細めて微笑む。分かりました、お父様。
教材が送られて来た後、村から少し離れた街の図書館に行って、勉強をしたわ。王宮魔術師の試験は十月……。大丈夫かしら。
学園時代の友人達と何回かやりとりをしたわ。それぞれ魔術師、研究者、医者、魔導具店など様々な進路に進んだみたい。
何回かやり取りをする中で、私は気になっていた、黒幕の伯爵令嬢がティフィーに嫌がらせをした理由を聞いた。友人達は私は知らなくても良い、と最初渋っていたわ。それでも聞いてみると、一人の友人が教えてくれた。
私は手紙に書かれた文字を見て、眉間に皺が寄るのが分かった。……思わず呆れてしまったわ。何と言うか、まあ……。
伯爵令嬢は、王子に好意を抱いて、王子に近いティフィーを排除したかったみたい。これはまあ、まだ予想出来ていたわ。王子はティフィーを気に入っていたし。告白したくらいだもの。
伯爵令嬢は友人達に話を振って、動くように仕向けたみたい。自分はあまり動かなかったらしいわ。