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十四話

 少しして、学園の友人達から手紙が来たの!アーマルズ王国へ行ったことには驚いた、と皆が書いていた。心配、安堵の言葉が多いわね。


 友人の手紙に書いてあったのだけれど、ブレーズ王子がティフィーに告白したらしいわ。……そして、フラれてしまったみたい。文字で読んだ時には、流石に衝撃を受けたわ。フラグが折れてしまったのね。今回のことから、今はまだそんなこと考えられないって。人の恋愛に関してあれこれ言うつもりないけれど。……ご愁傷様。


 ブレーズ王子は、めげずにアタックを続けるつもりみたい。何と言うか、タフね。


 私自身は、ブレーズ王子に好意を抱いたことはない。家族や友人達に害がなければ二人がどうなっても構わないわ。勝手にして、と言う感じだわ。


 六月三十日が卒業日なのよね。皆それぞれ自分の進む進路についても書かれているわ。皆、前に進んでるのね……。私は、どうしようかしら。目を閉じる。私は国王様に王都の魔術師の試験を勧められたことを思い出したわ。卒業資格を得られると聞き安心した、と言う文字に、口元が緩む。


 友人達からの手紙を黒いテーブルに広げる。黒を埋め尽くさんばかりの胸に温かい幸福感が広がった。



◇◇◇



 お母様達が来てから一週間。王国を出てから一ヶ月が経ったわ。


 休みの日の朝。雲一つない青い空。太陽が東に位置している時間帯。オレンジ色の日が強く地上を照り付けている。草木が青々と茂っている。風が弱く、村にある風車は殆ど回転していない。私は外で、黒の鞄を持って日用品の買い物に行こうとしていた。身体全体を伸ばし、ググッと背伸びをした。ふう、とため息を付く。


 六月も後半。日差しが強いわね。私は茶色い髪の上にある空色の帽子を被り直した。セミが自分達が主役とばかりに元気良く合唱している。私は眉を顰めた。流石にうるさいわ……。


 そんな私の目の前を、コバルトブルーの羽根の蝶が羽ばたきながら横切ったの。我関せずとばかりに上下左右へとヒラヒラ飛んでいる。その優雅な姿に目に奪われる。綺麗。私は笑みを浮かべた。昆虫には嫌われないのよね。


 幾つかの店に寄る中。不意に離れたところから大きな声で私の名前が呼ばれた。久しぶりに聞いた、しかし聞き覚えのある低い男性の声に、そちらに意識が持っていかれる。私は目を見開き、弾かれたように身体を声の方向に向けた。


「イーヴィー!」


 緑のカーペットの上を、男性が慌てた様子で素早く足を動かしながら駆け寄って来る。背が高い。身長が前より伸びたみたい。仕事もあってか、鍛えられた体型。数年ぶりに見る、青色のミディアムヘア。銀色の瞳。アーマルズ王国の王宮の紋章が入ってる制服に身を包み、左手の腰に剣を下げたその姿。私は息を呑んだ。


「リーヴァイ?」


 目を瞬く私に、男性─リーヴァイは目の前に立った。どうして、リーヴァイが此処に?お父様の手紙を思い出す。そう言えばお父様が手紙を送った、と書いてあったわね。彼は私の上から下まで皿のようにして銀色の目を走らせると、ハア、と安堵したようにため息を吐いた。そして、細められた瞳をこちらに向けたわ。


「ミーハナブル侯爵から手紙が届いて、この村に急いで駆け付けたんだ。君が退学になり、スミニアナ王国から追放されたと聞いた時は驚いたよ。アーマルズ王国に来たと聞いて、探して回っていたが……、無事だったんだな。」


 目尻を下げて微笑むリーヴァイ。晴れやかな気分になったわ。アーマルズ王国を探してくれたって……。急いで来るくらい、私の心配をしてくれたのね!私は彼に満面の笑みを向ける。


「ありがとうございます。」


 私は荷物を地面に置き、一回転した。私の動きに合わせてブラウスとスカートがヒラリと舞う。カーテシーをし、リーヴァイに笑顔を向けた。


「この通り、私は大丈夫ですわ。」


 リーヴァイは銀の瞳を細め、みたいだな、と穏やかな声で言った。


 三年ぶりに会うリーヴァイは印象が変わっていた。元々整った顔立ちだったけれど、騎士団に勤めているおかげか、鍛えられてるし……。昔は可愛かったのに。今は何と言うか、目を引く男性になったわね。ブレーズ王子達も美形だけど、リーヴァイはリーヴァイよね。


 目が泳ぐ私に気付かないまま、リーヴァイが声をかける。


 リーヴァイは学園で何があったか聞いたらしいわ。私がアーマルズ王国に来たと聞いて、探していたら、私のお父様からの手紙を見て、駆け付けてくれたみたい。


 リーヴァイは手紙を見て、村の近くに寄る用事があったから、一日だけ日を貰ったらしいわ。何か悪いわね。私は眉が下がるのが分かった。そんな私に、彼は首を横に振り、気にするな、と言ったわ。


 リーヴァイは私が持ち直した荷物を見て目を瞬かせた後、持ってくれたの。お礼を言うと、彼は構わない、と言うように首を横に振った。軽く謝った後に、買い物をどうするか聞いて来たわ。私は彼を伴って買い物に行くことにしたの。


 私は少しごめんなさい、とリーヴァイに声をかけた後、杖を振る。ダーク・マインド・アピアーで魔法陣を出現させ、小型モンスター達を呼んだわ。


 スライムやラビット達はリーヴァイに気付くと、キュ!と鳴いたり、飛び跳ねたわ。笑顔で、嬉しそう。彼の元に寄っていって、戯れ付いた。リーヴァイは目を細め、口元を緩めて久しぶりだな、とスライム達を撫でる。リーヴァイも嬉しそうに見える。この子達はより戯れ付いた。店に着いても、この子達はくっ付いていたわ。


 リーヴァイは緑色のスライムを片手で抱き抱え、頭に青いスカーフのラビット、左肩の上に赤いスカーフのラビットを乗せることになった。鞄は私が自分で持つことになったわ。構わないけれどね。何とも言えない顔をするリーヴァイに、気にしないで、と言った。最悪魔法で軽くすれば良いし、風属性の魔法で浮かせれば良いわ。スライム達も嬉しそうだし。それにしても、重くないのかしら?


 茶に赤、青、緑。色取り取りね。


 ふふ、と笑いが漏れた。


 リーヴァイは私が冤罪を擦り付けられ、国に追放されたことに銀色の目を吊り上げていたわ。目の奥に赤い炎が見えた。追放がなくなり、卒業資格を得られる事を告げると、ため息を付いて知っている、と言ったの。少し雰囲気が和らいだ。


 リーヴァイは瞳を彷徨かせた後、言いにくそうに言った。


「王子は……。」


 そこまで言って、言葉を切るリーヴァイ。私は彼の言わんとしていることが分かった。眉間に皺が寄るのが分かったわ。ブレーズ王子が庇わなかったのか、って?私は目を逸らし、吐き捨てるように言う。


「ブレーズ王子?寧ろ、筆頭に疑っていましたわ。追放したのも、彼よ。私は、何もしていないと言うのに。」


 私はリーヴァイに視線を戻す。彼は顔を伏せていた顔を上げた。


 リーヴァイは私とブレーズ王子が同じクラスだったと知っている。かつて王子の婚約者候補だったから、気を遣ってくれたのかもしれないわね。


 暫くして、リーヴァイは顔を上げ、話を続ける。スミニアナ王国に戻るつもりはないかと尋ねられたけど、私は首を横に振ったわ。お父様達が居るとは言え、自分から出た身。追放が取り消しになったからと言って、戻る訳にはいかないわ。


 リーヴァイが眉間に皺を寄せているのが分かった。私がどうしたのか尋ねると、彼は顔を伏せ気味に低い声で聞いて来た。


「何故、王都に来なかったんだ?グレン領でも良かったが……。この村でなくても良かっただろう?」

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