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十三話

 王宮に行ってから一週間後、王国を出てから三週間。再び村が賑やかになった。


 お母様やお兄様達が村にやって来たの!友人に送った手紙から私の居場所が分かったみたいよ!休みの日で外にいたら、驚愕の声が聞こえて来たの。入り口にお母様達を見つけた時の衝撃と言ったら!目を擦って夢じゃないかと確認したわ。口を開けて呆然とした。


 固まる私を見つけたお母様は、大きな声で私の名前を呼んだ。そして涙ぐみながら駆け寄って来て、力強く私を抱きしめたの。耳元で無事で良かった、と言う安堵の声が聞こえた。身体が固まったけれど、数秒後、私もそっとお母様の背中に手を回した。


 お兄様達は近寄って、左右から私の肩に手を添えたの。二人の顔を交互に見えると、お兄様達は目を細めて微笑む。良く無事だった、と言ってくれた。胸が暖かくなる。私も目が潤んでしまったわ。


 村の人達は他国の貴族の訪問に驚いていたけれど、お母様達が話をして、暫くしたら少し落ち着いたみたい。気を遣って私達だけにしてくれたの。


 私はお母様達を家に案内して、様々な話をしたわ。私はお母様達に今日は来ていただき本当にありがとうございます、と言って頭を下げたわ。


 お母様達には私が学園で大変なことになっていたのに、気付かなかったと謝罪されたの。頭を下げるお母様達に、私は首を横に振ったわ。家族に相談しなかった私が悪いのよ。


 お母様達は無事で良かった、と微笑んだ。会えて嬉しい、心配していたと言ったわ。私も元気そうで良かったと返したわ。一番目のお兄様は追放はなくなったと言うの。首を傾げる私に、彼は手紙を差し出したの。受け取って、誰からかを首を傾げて尋ねると、お父様からだと二番目のお兄様が教えてくれたの。私はそれを聞いて目を見開いた。素早く手紙を開けて中身を読んだ。



 手紙には居場所が分かったことに対する安堵や心配と言った内容が書かれていたわ。自分が行けなかったことへの謝罪と、残念だと言うことが書かれていた。アーマルズ王国にいたことには驚いた、との文字。スミニアナ王国からの追放はなくなったから、戻って来るように、って。


 犯人達や王宮から賠償金が送られて来たらしいの。犯人からならともかく、王宮からと聞いてハンマーで打たれたような衝撃を受けたわ!王子が関わってるから、と言うことよ。殆どがアーマルズ王国で作った私の口座に振り込まれるらしいの。それを見て目を見開いたわ。良いのかしら、家へのお金なのに……。後でお母様達に聞いてみたら、気にしなくても構わない、と笑っていたわ。国外への追放は取り消しになるみたい。当主と言うことで、お父様への正式な謝罪があったらしいわ。


 国王様からは聞けなかった学園についても書かれていたわ。犯人達へ質問する時には、嘘を見破る魔導具を使ったみたい。これで真実が分かったらしいわ。ティフィーへの嫌がらせに関わってた犯人は男女含めて二十人以上って……。多すぎないかしら?私が教師達に手紙で書いた人数よりも多いわね。


 罪にもよるけれど、謹慎になった生徒が多いらしいわ。留年になった生徒もいるみたい。厳重注意で済んだ人は数人だけらしいわ。少ないわね……。注意で済んだ子も、今後に響くことは間違いないわ。


 ティフィーを標的にした理由としては、平民であること、成績、嫉妬など様々みたいね。私に罪を擦り付けた理由は流石に書かれていないけれど、周りに便乗した人もいそう……。


 そして、被害者であり冤罪については当事者であるティフィーはと言うと。


 厳重注意を受けて、一週間出席停止になったみたい。面談と私のいた世界で言うカウンセリングのようなものを受けたらしいわ。出席停止と言うけれど、ある意味保護みたいなものかもしれないわね。


 ブレーズ王子達を止められなかったし、私を犯人と思っていたとは言え、被害者。少し不満ではあるけれど、まあ納得はしたわ。お父様はティフィーの処分に対しては甘過ぎる、と不満が書かれているけれど。


 ティフィーはまだしも、王子達や犯人達については罰せられて反省するならそれで良いわ。ダメならそれまでよね。


 学園は退学になったはずだけれど、課題を提出することで、卒業資格を得られるらしいわ!良かった!


 更にアーマルズ王国で働いているリーヴァイにも手紙を送った、と書いてあった。お父様、リーヴァイに知らせたの?青色の髪が脳裏に浮かんだ。

 

 手紙の最後のイーヴィー、愛している、と言う文字。胸が詰まり、胸に温かいものが込み上げ、目から雫が流れる。私は懐からハンカチを取り出し、目を押さえた。


 手紙を読んだ後、お母様達と話し合ったわ。私はスミニアナ王国に戻るつもりはなく、アーマルズ王国に住み続けるつもりと伝えた。


 お母様達は最初ショックを受けていたし、心配していたけれど、最終的に私の意思を尊重してくれたわ。


 私はアーマルズ王国の国王様、王妃様と謁見したこと、王都での魔術師の試験があると教えて貰ったので、受けるか悩んでいることを伝えたわ。


 謁見について聞くとお母様達は目を見開き、声を上げた。私は失礼がなかったかを詰め寄って確認された。私はそんな彼女達に眉を下げる。突然のことだったけれど、何とか対応した、と言うと、彼女達は胸を撫で下ろしていたわ。


 魔術師の試験に関しては、私の好きにするように、と言ってくれた。


 女侯爵の爵位を貰ったことを伝えると、再び驚いていたけれど。同時にこの国でも貴族であることに安心していたわ。


 いつでも帰って来て良いと言ってくれたわ。手紙を送ってくれれば支援する、何か困ったらことがあったら連絡するように、と笑顔を向けてくれた。お父様には報告してくれるらしいわ。ありがとうございます、とお礼を言った。


 その後ダーク・マインド・アピアーでモンスター達を転移させた。お母様達もモンスター達も、久しぶりに触れ合えて嬉しそうだったわ。特に女性に人気だったスライムやラビット達は、お母様に跳ねて近付いて行くの。お母様は、あらあら、と目を細めて撫でていた。村から少し離れたところでブラック・ドラゴンを転移させると、兄達は恐る恐る触れた。ドラゴンも嫌がらず、静かにされるがままだった。


 お母様達が村に来てから少しして。領主の貴族が慌てた様子で来たの。目だけを左右に動かして、最後に私を見る。説明して欲しい、と言う目。私がお母様達が来てくれたんです、と言ったら、更に目を見開いていた。この間に王宮の使者に続き、今度は他国の貴族。彼がそんな風になっても仕方ないわね。


 そんな領主に、一番上のお兄様が話しかけたの。暫くして、領主は口角を上げた。話し合って納得してくれたみたい。村にいる間、快適に過ごせるようにします、と言う彼に、お兄様達はありがとうございます、と笑顔を向けた。


 お母様達は今日は村に泊まって、明日に帰るらしいの。宿が空いているか考えるお母様達に、私は家に泊まることを提案したわ。悩むお母様に、お兄様達が泊まれば良い、と声をかける。私がお兄様達の方を見ると、三人は泊まれない、自分達は宿に泊まる、と言ったの。良いのかしら。眉を下げる私に、お兄様達は、気にしないで良い、と笑ってくれたわ。その日の夜はお母様と色々な話をした。


 次の日お兄様達に聞いてみると、無事に宿が取れて泊まれたみたい。良かったわ。ふとある考えに至って、私は苦笑いする。貴族と言うこともあって、宿の人も部屋を用意してくれたのかもしれないわね。


 最後にお母様、お兄様達とそれぞれハグをして、別れた。いつでも帰って来てちょうだい、時間を作ってまた来る、と言う彼女達に、私は笑顔で手を振って見送る。今度お互いに手紙を送るつもりよ。


「いつでもあなたのことを思っているわ。何かあったらすぐに帰って来てね。……今度、お父様も一緒に来るわ。」


「何かあったらすぐに来るんだ。良いね?」


「俺は兄さんと違ってミーハナブル領にはいないが、何かあったらすぐに連絡をくれよ。」


 お母様達が見えなくなってから、無性に涙が込み上げて来て、再びハンカチで目を押さえた。


 さようなら、お母様達。またいつか。


 不意に、足元で柔らかい感触がしたの。下を見ると、緑色のスライムが身体を擦り付けていたわ。こちらを見上げる大きな目は下がっていて、心配そう。気分が少し晴れた。私は笑みを浮かべ、しゃがみ込む。そして、スライムのぷにぷにとした身体を撫でながら感謝とお礼を言った。


 一通り撫でた後、地面が揺れ、ドス、と言う力強い大きな足音が聞こえたの。そちらを見ると、いつの間に転移していたのか、緑色のゴーレムが寄って来たわ。立ち上がる私に、ゴーレムは太い右手を差し出す。手の中を見てみると、花を持っていたの。ありがとう、と微笑むと、ゴーレムは静かに頷いた。自分の手より小さな花を握り潰さないでいられるなんて、加減が上手いわよね。スライムやゴーレムの優しさが感じられるわ。


 ありがとう、貴方達がいるから、私は大丈夫よ。心の中を覆っていた雲はいつの間にかなくなっていた。



◆◆◆

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