十一話
何日かかけて、ドラゴンに乗ったり、徒歩での移動や馬車を使ったりして、宿に泊まりつつスミニアナ王国の端へ向かったわ。必要なものはその都度買ったわ。
道中、モンスターに襲われることがあったの。護衛の騎士や魔術師と一緒に、魔法や契約モンスターに協力して貰ってモンスターと戦ったわ。勿論、道中でも小型モンスターに忘れずに餌をあげたわ。
ある時、硬い黒い背中の上で、少し離れたところに飛んでいる飛行モンスターを見て、ふと思ったの。今の状態で、ダーク・マインド・ウォールを使ったらどうなるか、って。ダーク・マインド・ウォールは、ハーピィ達中型モンスターを惹き付ける際に使ったけれど、小型モンスターにも勿論使えるわ。ダーク・マインド・ウォールを使って、興味を示してくれる子がいたら。ドラゴンがいても逃げない子がいたら……。
私はふふふ、と笑ってしまった。奇妙な集団になりそうね。ブラック・ドラゴンに、小型モンスター、中型モンスターの列。想像しただけで、面白くて笑ってしまうわ。
暫く笑いが収まらない私を、ブラック・ドラゴンはギャア、と不思議そうな目で見ていた。
もうすぐアーマルズ王国との国境よ。
ブラック・ドラゴンに乗っていた私は、二つの国の国境近くの海で、ダーク・ミストをかける。そして、黒い背中を叩いて合図する。ドラゴンは、下に身体を向け、音を立てて着陸したわ。衝撃で、草埃が舞う。
黄色い太陽は東の位置にあり、五月と言うこともあり気候は暖かいわ。コバルトブルーの輝く海が目に入り、潮の香りが私の鼻を抜ける。
目から入る光景に、前の世界で見た海を思い出し、郷愁を感じた。
私は軽く頭を振って気分を切り替えた。海から街へと歩く。アーマルズ王国の国境へは、街から行けるの。大きな街ではないけれど、国境付近と言うこともあって、街全体に活気があるわ。
街を出て暫くすると、国境へ着いたわ。他に海以外は何もない、静かな場所。
アーマルズ王国との国境には巨大な門があって、大きな体格の制服を着た騎士が剣と槍を持って、門を挟んで両側に数人立っているわ。門番ね。
何故ここで着陸したかと言うと、入国手続きをするためなの。流石にドラゴンで国境を飛び越える訳にはいかないわ。
私は自分の服装を軽く整えた後、門へと足を進めた。
そこで、私はスミニアナ王国の地方の領地から出稼ぎで来た平民だと名乗ったわ。名前は本名で、苗字は偽名を名乗ったわ。本物のミーハナブルの苗字だと、すぐに貴族とバレてしまうもの。服装は普通の市民のワンピースだし、特に怪しまれることはなかったわ。大丈夫だと思っていたけれど、安堵からため息が出たわ。
門を潜った後、同じように海以外ない場所を通る。ブラック・ドラゴンを呼び出して飛んで行っても良かったけれど、その気になれなかったの。そして街に着いた。辺りを見回す。ここがアーマルズ王国の街。
辺りを見回す。ここがアーマルズ王国。スミニアナ王国とはまた違う雰囲気ね。大きな街ではないけれど、ここも人やお店で賑わっていて、とても活気があるわ。王都から離れているせいか、王宮は見えないけれど。私は背伸びをして、空気を肺一杯に取り込む。新鮮な気持ちになった。私は高鳴る胸を手で押さえつつ、歩みを進めた。
ふう、色々なものが買えたわ。私は買い物や用事等を終えた後、笑顔で馬車に向かった。
私は馬車に乗って街の外れに進んだ後、魔法陣を出して、ダーク・マインド・アピアーで再びブラック・ドラゴンを召喚したわ。そこから空を飛んだり、馬車に乗ったりして、アーマルズ王国の端に向かった。道中、スミニアナ王国と同じようにモンスターと戦うことがあったわ。
そして私は、地方の貴族の領地の、周辺が山に囲まれた村で、暮らすことにしたの。
◇◇◇
村に到着してから、私はすぐに学園の友人達に手紙を書いたわ。イニシャルのE・Mで送ったの。王国を跨ぐし、結構かかるかもしれないわね。私はアーマルズ王国に着いたこと、元気であること。皆や学園の様子を送って欲しい、と送ったわ。
魔法があるとは言え、返事が来るまでにどれくらいかかるか分からないわね……。学園の様子も気になるし、なるべく早く返事が欲しいのだけれど。返事が来るのは早くて二週間くらいかしら?
……本来ならもうすぐ卒業なのよね。靄がかかったような気分になる。皆どうしてるかしら。
隣国のアーマルズ王国の村で暮らし始めてから二週間が経ったわ。
最初はやっていけるか心配だったけれど、村の人達は優しい人達ばかりだった。他国から来たと言う私に、親切にしてくれたの。私は元貴族だけれど、街に出た時も市民と関わることはあったし、転生する前の記憶もあるから、何とかやっていけそうだわ。
魔術師として村人の依頼を受けたり、モンスター達と村人やこの地域の騎士達、契約モンスター達と戦ったりし始めたの。学校は退学したけれど、魔術師として働くことは出来ると思ったのよ。モンスター達とも触れ合いつつ過ごした。ちゃんとお世話してあげないとね。そんなある日。
魔術師として働いていたら、賑やかな声が聞こえて来るのを感じたわ。下を向いていた私は、顔を上げ、その方向に顔を向けた。何やら村の入り口に人が集まっているのが分かったわ。人々達の話し声がする。私は目を細める。
私は仕事を終えた後、お金を貰って、そちらへ向かったわ。近付くにつれ、話し声が聞こえる。入り口を見て、少し離れたところで私は固まった。そこにはこの村ではない、騎士が複数人いたの。かなりきっちりとした制服で、左に剣を携えてる。胸には、アーマルズ王国の紋章が入っている。まさか、王宮所属の騎士団?この村の村長に一人の騎士が、キビキビとした声で尋ねた。
「この村にイーヴィーと言う者はいるか?」
その言葉に私は息を呑んだ。何故彼等が私のことを聞くの?立ち尽くす私を他所に、背筋を伸ばした村長は強張った声で、知っていると答えたわ。私はこの間スミニアナ王国から来て、魔術師として働いている、と彼は教えた。そして周りを見回す村長と私の目が合った。あ、まずい。
「いました。彼女です。……イーヴィーさん!」
私は引き攣った顔のまま、彼等の元へ近付いた。首を傾け、村長と騎士を交互に見る。彼等に何の用か尋ねた。そんな私を騎士はじっと目を細めて見つめる。そして、持っている鞄から、封筒を取り出した。彼はそれを私に差し出す。受け取る私に、彼は告げる。
「イーヴィー・ミーハナブル嬢。これは、王宮から、貴方宛の手紙だ。」
「え?」
私は目を見開いた。今、彼、私の苗字を……!?それに、王宮からって……!周りが騒がしくなる。周りの視線が私に向いた。
「ミーハナブル?スミニアナ王国の貴族の?」
「彼等が言うってことは、イーヴィーさんってまさか……!」
人々の声。集まる視線。それに、私はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。私の手の王宮の印がされた封筒は、開かれるのを今か今かと待っていた。
そこからは怒涛の勢いだったわ。王宮からの手紙を読むと、王宮に来て欲しいと書かれてあったの。出来ればすぐに。国王様と謁見するって書いてあったのよ!?とても信じられないわ。
考え込む私に、騎士達が上から伸しかかるような重圧をかけて来た。私は断ることが出来なかったわ。何をされるか分からないもの。準備をして、すぐに出発することになったわ。家に荷物を取りに行こうとする私に、騎士達は急かすように付いて来たわ。私を質問責めにしたいであろう村の人達は、その様子にただ見送るだけだった。
王宮へは、二日かけて馬車で行ったわ。速いわね!遠いから三、四日はかかると思っていたわ。馬車に何か魔法がかけられているか、魔導具が使われているかもしれないわ。