カラスと猫
住宅地に囲まれた小さな公園で、孤高のカラスと飼い猫が出会った。
両方とも人間が好きなのだが、嫌われるカラスと可愛がられる猫。その会話はこんな感じだ。
「ネコ君、きみは人間に頼らないで、志を高く持ちなさい。食料は自分で獲ればいい」
とカラスが言うと猫は、
「お腹が空いたら動けないニャ」
とマイペース。
「人間は、我々カラスを堂々とイジメる生き物だ。きみも気を付けろよ」
「そんなことはないニャ。うちのボンボンはネコをイジメないニャ」
ボンボンとは餌をくれる飼い主の坊ちゃんのことだ。
「ああ、どうせカラスは嫌われ者さ」
「でもボンボンはカラス君にも優しいニャ」
「俺もボンボンは好きだ。でもそれはな、ボンボンが変わり者だからだ。他の人間はみんなカラスを見たら追い払う。いつだってそうだ」
カラスは「カア」とため息をついた。
「そんなこと言ってないで、笑顔で『ニャア』と鳴けば、みんな友達になれるニャ」
「カラスだって『ニャア』と鳴けるが、俺にも誇りがある。だから『カア』と鳴くのだ」
でもね、と猫が顔を洗いながら話す。
「でもね、誰だってお腹は減る。そこに焼魚があったらカラス君も失敬するだろ。そのときは『ニャア』と鳴けばいいニャ」
カラスは黒い羽根を広げて驚く。
「そりゃあ、ネコ君だって怒られるだろ」
「だから謝って愛想を振るんだ。くよくよしないニャ」
カラスは思う。人間はすぐ雰囲気に流せれるのだ。可愛い猫は得だなあ。
「どうしたら、そんなに気楽に生きられるんだい」
「ただ日なたぼっこして、つらい事は忘れるニャ」
猫は二コリと笑った。
「そんなもんかい」
カラスも笑った。
天を仰ぐと、よく晴れた空の太陽が、みんなを平等に照らしていた。
カラスの黒い羽根だって、美しく光っていた。