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scene9 弁当屋 幕内

【やれるのか! おい! 私!】


 外に出歩けるようになり、買い物も一人で行けるようになった。でもレジで店員さんにお金を渡すとき少し手が震えてしまう。そしてその時、誰かが後ろにいるとちょっと…挙動不審になってしまう。まだまだ私の心の病は、完全じゃなかった。


 そしてもう一つ悩みが……それは仕事の事……。私は4年間、私立の大学に通わせてもらった。その間、アルバイトをしていなかった。私は少しでも家計に協力しようと思い、アルバイトをしたいと言ったけど両親から『そんな心配はしなくていいから夢に向かってしっかり学業に励みなさい』と言われ、私は、その言葉に甘えてしまっていた。


 憧れの保育士になったら両親にいっぱい恩返しをするんだ!……と思っていたのに……自分が弱かったせいで、こんな事になるなんて……思ってもいなかった……。


 でも、このまま両親に迷惑をかける訳にはいかないと思い、散歩に出た時には、フリーの求人雑誌をもらって自分に出来る仕事がないかチェックしていた、勿論両親には、心配を掛けたくなかったので内緒にしている。


「保育士急募…………」


 それを見ただけで心臓がバクバクとなる。なので福祉関係の求人ページは、見ないようにしていた。でも……『今の私にできる仕事なんて……なにもない…かなぁ……』内心そう思って半ば諦めている自分がいる……。


 ある日の午前中の事、自分の部屋でいつものように求人雑誌を見ていた時の事。リビングに居るお母さんから、私を呼ぶ大きな声が聞こえた。


「きみこぉ!ねぇきみこぉ!」


「はぁぁい!」


 返事をして降りていくと、お母さんからこう提案があった。


「ねぇ君子、お米が無くなってるのすっかり忘れてたの! お父さんに帰りに買ってきてもらうけどお昼の分がなくてね! だからお昼は、お弁当にしようか!」


 との事。


「えっ? じゃぁ私が買いに行ってくるよ! お母さん何がいい?」


「えぇぇっと……お魚……お肉……ううぅぅん……じゃぁ両方入った弁当、幕の内弁当がいいな!」


「分かった! 幕の内弁当ねっ、じゃぁ私も幕の内にする!」


 私は2階に上がり着替えをしながら、ある事を思い出していた。そして靴を履き玄関を出ると、普段買い物をする商店街とは反対の方向へ歩き出した。


 思い出したある事……それは、散歩の途中で見つけたちょっと気になるお弁当屋さんの事だ。そのお店は商店街や駅から反対の方向にあり、閑静な住宅街の一角にあった。私が散歩をしている時に偶然見つけたお弁当屋さんだった。


 家から歩く事、15分程、お弁当屋さんが見えてきた。そのお店の名前は『幕内』、外観は、古民家風の作りで瓦屋根の白い壁で、入り口には紫色の大きな暖簾が掛けてあった。名前の通り幕の内弁当の専門店なのかな、と思いつつお店に入った。


『カラカラカラ』


 とお店の戸を開けて入る、すると……


「いらっしゃいませぇ!」


 カウンターの中からとても威勢のいい声が店内に響いた。その声の主は体格のいいおばさん、でもその声が昔のド○え○んにそっくりで驚いた!


「注文が決まりましたらどおぉぞぉ!」


(やっぱり〇ラ〇もんだ!)私は、驚きながらも無表情を貫いた!


 メニューを見ると、幕の内弁当だけではなく色々な種類のお弁当があった。どれもすごくおいしそうだったけど、お母さんのリクエスト通り、幕の内弁当を2つ注文した。


「じゃぁ、幕の内弁当を2つお願いします」


と注文する。


「ありがとうございますぅ! 注文はいるよぉ! 幕二つねぇ!」


(やっぱりドラえもんだぁ!)私は再度、無表情で大感激した!


 お弁当が出来上がるのを待っている間、椅子に座りお店の中を見渡してみる。店内も前になにかの雑誌で見たことがある外観と同じ古民家風の土間作りで清潔感があり、しかも店内のライトアップが絶妙でここに居ると何故か気持ちが落ち着く、そんな雰囲気だ。


(この内装を考えた人、センスいいなぁ……)


 そう思いながら更に店内を見渡しているとふと……壁に貼ってある広告に目が留まった。それは、このお店の求人の張り紙だった。


「『求人大募集中!』かぁ……」


 私は、この広告を見た時、何故か……おばさんと同じ割烹着を着て、カウンターに立って笑顔で接客をしている自分の姿が目に浮かんだ……。そして思うがまま、会計の時にこの求人の事を聞いてみた。


「あのぉ……この求人、まだ募集していますか?」


 するとカウンターの〇ラえもん声のおばさんが威勢よく答えた。


「絶賛募集中だよぉ! お嬢ちゃんうちで働くかい?」


「はい……それで面接は……」


 そう聞き返すと


「じゃぁさ、明日でもいいから履歴書持ってきなよ! 時間は、そうだねぇ閉店までだったらいつでもいいからさぁ! じゃぁ一応、名前聞いとこうかな」


「はい、神君子と申します」


「君子、きみちゃんかぁ! じゃぁ明日待ってるよ!」


「はい、じゃぁよろしくお願いします……」


そう言うと一礼をして店を出た。家に帰りお母さんにお弁当屋さんの面接を受ける事を話すと大賛成で喜び『うんうん……』と頷いて涙ぐんでいた、でもまだ雇ってくれるかわからないんだけどね。


 

scene10へ……続く! 絶対雇ってもらうんだっ!


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