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scene8 桜の花が咲く頃に

美香先生、そして洋介、この2人とならば楽しくお喋りが出来るようになった私。だけど、やっぱり外に出る勇気はなかった。香先生が会話の中で、時々何気に『外に出てみない?』と聞いてくる時があったけど、頭を小さく横に振る事しかできなかった。

 

そんな私に優しく頷いて言ってくれる。


「大丈夫だよ、きみちゃん! ゆっくりね!」



【桜の花びら舞って】


私が引き籠もってどのくらいの月日が過ぎただろう。風が冷たくても、頬にあたる日差しが暖かく感じ始めた週末の日の事、窓を開けて外を眺めていた。すると、風に乗って空を舞う沢山の桜の花びらが目に入った。そして……


『ビュゥオォォォォォ!』


一瞬強く吹いた風に、空高く巻き上げられた花びらが、一枚、私の部屋の机の上に舞い降りた。その花びらを指で摘みあげ、日にかざし


「あぁ……もう春なんだなぁ」


そう呟くと、ふと、大学時代の頃を思いだした。


それは、友達数人でキャンパスにあった広い芝生広場、その中央にあった大きな桜の木の下で、皆で集まってお花見をしながらお弁当を食べていた事を。皆で丸くなって座って、他愛もないおしゃべりをしながらお弁当を食べた、楽しかったあの時の事を思い出した。


そんな穏やかな小春日和に、美香先生と洋介の二人が、揃って訪ねて来てくれた。美香先生は、手に大きな風呂敷で包んだ四角い何かを持っている。いつものように3人で他愛のない会話を楽しんでいた私は、会話が途切れた、その時、2人の顔を見ながらこう言った。


「私ね……皆で……公園の桜を見に行きたい」


それを聞いた2人は、一瞬動きが止まった。そして私を『じっ』と凝視した。


「一緒に行ってくれませんか?」


黙り込んだ2人に私が哀願すると洋介は驚き、戸惑いながらも


「えぇぇぇぇぇっ???!!! ううう、う、うん! 行こう、行こうよ!!」


と大きな声を上げた。


美香先生は、無言で笑顔を浮かべていた。そしてその瞳に、いっぱいの涙を浮かべ、小さく何度も頷いた。


私は、久しぶりに、本当に久しぶりに家の外に出た。玄関から扉を開けて外に出ると、青く広がる空を見上げ、大きく息を吸ってその息を空へ返した。そして先に外に出ていた美香先生が、私に手を差し出して言った!


「行こう! きみ先生!!」


その声掛けに私は笑顔で小さく頷き、差し伸べられた美香先生の手をしっかりと握り、公園へ向かって一緒に歩き出始めた。洋介は、風呂敷包みを持ち、満面の笑みを浮かべながら後ろからついてくる。


そして公園の中央にある大きな桜の木の下に3人で並んで座り、美香先生が持ってきてくれた風呂敷包みを解き、私が蓋を開けた。それは、美香先生手作りのちらし寿司だった。


「うわぁぁぁ! 美味しそう!」


美香先生が手際よく紙皿に取り分けてくれた後、皆で手を合わせ挨拶をする。


「それではぁぁぁいただきまぁす!」


穏やかな青空の下で食べるちらし寿司は、格別に美味しかった。


【皆、ありがとう】


その日を境にして私は、少しの時間ならで1人で外出できるようになった。 暫くは、3人で行った公園、そしてその先にある河川敷、そして商店街と少しずつその距離を伸ばしながら散歩を楽しんだ。時々散歩道沿いにあるお店に入ろうとしたけどまだ人と接するには、少し、抵抗があった。


でもこのままではいけないと思い、お母さんや美香先生、時には、お父さんにも協力してもらい、複数人で買い物に行く事から始め、それから3人、2人と徐々に付き添いを減らしていき、そして1人でもお店に入り、買い物が出来るようになった。


辛く悲しい日が始まったあの日。あの時から、どれくらいの月日が過ぎたのだろうか。お父さん、お母さんそして美香先生と洋介、みんなの協力と助けがあって、まだ完全じゃないけれど……やっと……やっと引きこもり生活に終止符が打てた。皆には、感謝しきれない位感謝している。


皆、本当に、本当に……ありがとう。


scene9へ……続きます! 頑張れ私!


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