scene6 これから私……どうすればいいの
【世捨て人】
外に出る事が出来ない、テレビを見ると全力疾走した後のように心臓が早まって苦しくなる。スマホは見るだけで気分が悪くなり眩暈が始まる。ラジオやパソコンも同じ様な症状になり私は、世の中の事を知る方法を全て無くしてしまい完全な世捨て人となってしまった。
最初の頃は、カーテンも開けず、真っ暗な部屋に籠り一日中ベッドの上で過ごす日々だった。着替えもせずお風呂にも入らず部屋を出る時は、トイレに行く時だけ。
『お父さん、お母さんには、心配かけたくない!こんなんじゃだめだ!早く元気な姿を見せてあげなきゃ!』
そう思い、クローゼットを開けて気に入った洋服を出して着替えようとすると……何故か……涙が溢れだしてしまう。お気に入りの洋服さえも……着ることが出来ない……そう思えば思う程、深みにはまっていく。
「辛いよぉぉ……苦しいよぉぉぉ」
ベッドに蹲って泣いてしまう毎日。
もそんな意気地なしの私を心配してくれる人がいた。それは、『千草保育園』でお世話になった給食の先生、管理栄養士の美香先生だった。美香先生は、私に気付かれないようにこっそり、家を訪れていた。そしてその時には、手作りのお菓子やケーキを沢山持ってきてくれた。お母さんは、その事を私に伝える事なく夕食と一緒にそっと扉の前に置いてくれていた。美香先生が作ってくれるお菓子やケーキを食べると、なんだか気持ちが楽になるというか……何だろう……とても懐かしい感じがする。
そして時が過ぎ行き、寒さ厳しい季節になった。ある日の夕方、扉の外から『カチャカチャ』と音がした。それはお母さんが、いつものように夕食を持ってきてくれた音……続けてお母さんの優しい声が聞こえた。
「君子。雪が……雪が降ってきたわよ……良かったら外を見て見ない?」
(雪? 外は雪が降ってるんだ)
私は、何気に窓の方へ向かいカーテンを少し開けた。窓ガラスが白く曇っていたのでパジャマの袖を握ってそっと窓を拭きあげた。そこから見えた光景は、家々の屋根が真っ白に変わり、まるでケーキの上の生クリームのようだった。
(わぁぁ……綺麗……)
そう思いつつ眺めているとふと気づいた。深深と降り頻る雪の中、私の居る2階から見える家の前の道に桜柄の傘を持つ人が。するとその傘を持った人が、くるっと振り返り上を見た。その人は、グレーのコートに赤いマフラーを巻いている、美香先生だった。美香先生は、窓から見ている私に気付くと、ゆっくりと体を私に向け、深々と頭を下げた。そして頭を上げると満面の笑みで大きく手を振って帰って行った。
私は、窓越しに小さく手を振り返した。『美香先生……気付いてくれたかな……』そう思いながら涙を流した私。だけど何故か……顔には満面の笑みを浮かべていた。
次の日の朝、私は部屋のカーテンを思いっきり『ジャッ!』と開き窓を開けた。外は一面の銀世界だった。そして外の冷たい空気を思いっきり吸い込んで深呼吸。窓を開け、冷たい空気が部屋に吹き込む中、クローゼットを開け、お気に入りのパーカーとジーンズを出して着替え、髪をとかして一つ結びにし、部屋を出て両親の居るリビングへ降りた。
「おはよう……」
私は、小さな声で両親に声を掛けた……とてもか細い声で……。
「ごめん……なさい……ごめんな……さい」
今の私には、両親に……それだけしか言えなかった。
何も言わず只々頷きながら私を見つめるお父さん……お母さんは私にゆっくりと歩み寄り、大きく手を広げ抱きしめてくれた。そして『グスッグスッ……君子……君子……うん……うん……』と言いながら泣いてくれた。
scene7へ……続いていいのかなぁ……




