表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/36

scene30 加藤家

真咲さんとはここで別れ、私は気持ちを切り替え、彼のご両親に会う心の準備をした。


「あれ? 鍵がない、鍵……鍵はっと……」


千隼がバッグの中を探していると土間の明かりが灯り『ガラガラ』と扉が開いた。扉を開けたのは、白のタンクトップに緑色の短パン姿、彼のお父さんだった。白髪交じりのオールバック、高身長で無精髭が似合うイケてるおじさんって感じだ。その姿を見た千隼は、声を荒げて怒鳴った。


「父さんなんだよその恰好は! それに髭! 今日女の子の友達が泊まりに来るって連絡したろっ!」


「ああっ……そうだったね。こんにちは、えっと……」


「は、初めまして、神君子と申します、よろしくお願い致します……」


見かけによらず意外とおっとりしているお父さんだ。そして奥のドアが開き中からエプロン姿のお母さんが小走りで出て来られた。


「まぁまぁ遠いところようこそいらっしゃいました、千隼の母です」


「じ、神君子です。よろしくお願い致します、お母さん……」


「君子さん、どうぞよろしくね、ささっ! 狭いところだけど上って!」


「お邪魔します……」


玄関に入り靴を揃え、上がると奥の和室へと案内された。其処は、綺麗な襖に囲まれた和室で、真ん中にある座卓には、お寿司やお刺身などかなりのご馳走が用意されていた。


私は緊張で顔も体もガチガチ。彼は、ラフな部屋着に着替えて私の隣に座った。


「きみちゃん、そんなに緊張しないで、楽にしてよ!」


(そんな事言ったってこの状況で緊張しない方がおかしいでしょ! 真咲さんのせいで心の準備も出来ていなかったし!)


次に彼は、扉を開け廊下から二階にむ向かい大きな声で二人の名前を呼んだ。


「さくら! つばき! お客さん来たよっ!」


すると二階から『ガチャッ!バタンッ!ドタドタドタドタドタ!』と誰かが騒がしく階段を降りてきた。

『ガラガラガラ』と開けた扉から飛び出してきたのは、細身でおさげ髪の女の子二人。しかも同じ顔、ちょっと年の離れた双子の姉妹だった。彼と同じで目鼻立ちがはっきりしている、美人姉妹だ。


「ほら! 二人ともご挨拶して!」


「加藤つばき、小学校四年生です! よろしくお願いします!」


「あぁ――っ! 私がお姉ちゃんだから先に言うって約束したじゃん! ずるいぃ!」


そう言って小さな子どものように地団駄を踏む。


「なんで? いいじゃん」


(プッ…どっかで聞いた事のある台詞……)


納得いかない姉、二人の喧嘩が始まりそうになるが、そこで彼が割って入り一喝する。


「こら! お客さんの前で喧嘩は止めろ!」


「加藤……さくら……です……よろしくお願いします……」


ふてくされて挨拶をした姉(笑)彼が兄らしく二人の喧嘩を宥めていた。


それから楽しい食事会が始まった。お父さんは無口な人で一人黙々と食べたり飲んだりしている。時々私に話しかけてくれたけど会話は『そうですか……』で終わり全く続かなかった(汗)


お母さんは、とっても気さくで明るい方、見た感じは、どらさんを細くして村田さんと足して内藤さんで割ったような感じの人だった。双子の姉妹も口喧嘩が多いけど、とても仲がよさそう。

 

そして食事も随分進んでお互い打ち解け合ってきた頃、さくらちゃんが私に問いかけてきた。


「ねぇ、きみ姉ちゃん! きみ姉ちゃんは、保育園の先生だったんでしょ? お兄ちゃんから聞いたんだ!」


私は、ちょっとドキッとしたけど……


「う、うん、そうよ」


そう答えた。


「うわぁすごい! 私ねっ大人になったら保育園の先生になるのが夢なんだ! 保育園の担任だった先生みたいに可愛くて、優しい先生になるって決めているんだ!」


私は、さくらちゃんの話を聞いてちよっと胸が痛んだ。


(私は……その夢を叶える事が出来なかった。でも千隼と出会う前の私だったら……さくらちゃんの……この話を聞いただけでこの場で泣き出してしまっていたのかもしれない……)


でもこの時、私はさくらちゃんの目を見つめながらこうアドバイスをした。


「保育園の先生は、とっても素敵なお仕事よ。大好きな子ども達と一緒に遊んだり歌を歌ったり時には、怒ったり一緒に泣いたり……さくらちゃん、子ども……好き?」


「うん大好き!」


「じゃぁ大丈夫! きっとなれる、素敵な先生に!」


そう言いながら頭を撫でてあげると


「やったぁぁぁ!」


と大喜びするさくらちゃん。すると……


「私はっ! 幼稚園の先生になるもん!」


つばきちゃんが負けじと言い返し、皆で大笑いした。


食事会が終わり皆で後片付けを終わらせ、それからさくらちゃん、つばきちゃんと3人でお風呂に入った。


お風呂から上がると彼がりんごを切ってくれていて、それと一緒にアイスも用意してくれていた。それを皆で頂いた後、二人が私の手を引いて自分達の部屋へ案内した。


そこには立派な電子ピアノがあり二人が『何か弾いて!』と言ってきたので『カノン』(とし子監修)を弾いて見せた。


「すごぉぉい! きみ姉ちゃんすごぉぉい!」


感動した2人は『弾き方教えて!』と二抱きついてきたので、簡単なピアノのレッスンを始めた。そして最後には、2人でネコふんじゃったを連弾できるようになった。


彼はというと、後ろのベッドに腰かけドラマの台本を眺めながら、はしゃぐ私達を見ながら微笑んでいた。


夜も更けて就寝時間になり私は、和室にお布団が用意されていた。身の回りを片付けていると、さくらちゃんとつばきちゃんが自分の布団を持って和室に来た。


「きみ姉ちゃん一緒に寝よう!」


という事で私が真ん中になって3人で川の字になり、2人が読んで欲しいと持ってきた絵本『三匹のヤギのガラガラドン』と『ねないこだれだ』の2冊を私が読み始めた。そして気が付くと2人は、2冊目を読み聞かせている途中で寝入ってしまっていた。


私は姉妹に挟まれ、とても幸せな気持ちになった。今日一日、短い時間だったけどまるで保育士のようにピアノを弾いて絵本を読んで、とても楽しかった。 


(やっぱり私……もう一度保育士に戻りたい……あんなに辛い思いをしたけれど……今なら……また保育士に戻る事が出来るかもしれない……今なら……今なら…………かみ……先生……)


そう考えていたら、私もいつの間にか寝入っていた。


scene31へ……とっても温かい家族だな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ