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scene28 酒乱

【酔った私はとんでもない事をやらかした……かもしれない、覚えてないけど】


そして試写会が終わり、真咲さんが席まで迎えに来てくれて、そのまま同じホテルの別階で行われる完成披露感謝パーティの会場へエスコートされた。移動中、真咲さんが私に試写で見た映画について聞いてきた。


「映画はいかがでしたか? 君子さんの感想が聞きたいです」


「千隼が……私の知っている彼と、全く別人に見えてとてもカッコよかったです」


そう答えた。本当は、もっともっと感じた事や思った事があった、真咲さんには私の想いを聞いて欲しかった……だけど、話してしまったら自分の決心が揺らいでしまうのが怖くて、とても話せなかった。


パーティ会場に到着すると、すでに沢山の招待客で賑わっていた。周りに誰も知り合いがいない私を心配してか、会場内では真咲さんが私の傍についてくれていた。だけどそこまで手を煩わせてはけないと思い……


「真咲さん、私一人でも大丈夫ですよ」


「そうですか……じゃぁ私はこれで。何かありましたらスタッフにお申し付け下さい」


そう言いつつも、ちょっと離れた柱の後ろから私を見守ってくれていた。


食事は、バイキングの立食形式で、各テーブルの大きなお皿に沢山のお料理があり、好きなものを好きなだけ食べられた。私が今まで食べた事がないような素晴らしいお料理ばかり! しかも超美味しい!!


ひと通り食べ歩き、ちょっと食べ過ぎた感があったので会場の後ろに用意してあった椅子に腰かけ『ふうぅぅ』と一息。


すると私が座っている目前のテーブルにグラスを持った3人の煌びやかな年配の女性がやって来て料理を取りながらひそひそと話を始めた。


私は、その方たちの話を聞くつもりはなかったけど、そのひそひそ声が意外に大きく、会話が否応なしに聞こえてきた。


「ちょっと聞いた? 千隼、明華と別れたんだってさ!」


(え? 彼の事を話?)


「聞いた聞いた! でもみりあと別れて付き合い始めたばかりだったんでしょぉ?」


「でさぁ次に狙っているのは、OKプロの貴戸佐奈らしいよ!」


「えぇ? でも私が聞いたのはその娘じゃなくて……」


「ちょっと売れてるからって調子に乗ってんじゃない?!」


そんな話をこれ以上聞きたくなかった私は、直ぐにその場を離れた。


人の噂を鵜吞みにするつもりはないけれど……こんな話を耳に入れてしまうとまた心が乱れてしまう。


(さっきの話ホントかな、いや、嘘に決まっている。だって貴子社長が言ってたもん『この世界、お互い足の引っ張り合い』だって……)


只の噂……と分かっていてもやっぱり考えてしまう。そして余りにも深く考えすぎてしまったのか、怒りが沸々と湧き上がってきた。


(みんな好き勝手言ってるけど彼はそんな人じゃない! 多分……)


そんな事をひとり考えながら、ブツブツ呟いていると丁度、目の前に色とりどりのカクテルが並べられたテーブルに行きついた。私はそのイライラから、徐にテーブルにあったカクテルを取り一杯、二杯、三杯と一気に飲み干した。


「なにこれ!? 甘くてすっごくおいしい!」


と更にもう一杯! ジュースみたいに甘くてとろとろっとした飲み心地に調子に乗ってどんどん手に取ると、一気に飲み干した。


しかし! お酒が全く飲めない私が、カクテルを一気に何杯も飲んでどうにかならない訳がない。徐々に酔いが回り、なんていうか、気持ちがいいというか気が大きくなったというか……今まで経験したことがない感覚に気持ちが高ぶってしまい、そして何故かぶつぶつ独り言を言いながら彼を探し始めた私。


「千隼どこなのぉぉ? 千隼どこぉ?」(何かとってもいい気持ち、こんなの初めて……)


この時の私は、まだ意識がしっかりしていた方だったと思う。

 

場内をふらふら、彼を探して彷徨っていると誰かにぶつかり、その拍子に何かに手をついた。手をついたそれは、大きなグランドピアノだった。見ると鍵盤蓋と屋根が開いている。


「おぉぉ! ピアノだぁ……おっきなピアノ……きでい(きれい)……」


(そういえばあの時以来、ピアノの前に立つこともできなくなってたなぁ)


そう独り語とを言いながら鍵盤に指を置く……


『ポロォン……ポロロォン』


(きでい(きれい)な音色だなぁ……)


私は、徐に椅子に座り両手を鍵盤に添え目を閉じた。


(そう……私は、ピアノを弾くのが大好きだった……)


そして私は、かみ先生が大好きと言っていた曲、ヨハン・クリストフ・パッヘルの『カノン』(仁科とし子教授編曲版)を弾き始めた。


(自慢じゃないけど、とし子編曲版でも今の私なら楽譜を見なくても楽々弾けるぜっ! それぐらい練習したんだからっ!)


『ポロン……ポロロロン……』


目を閉じ、ピアノを弾いていると、頭の中に保育園の頃の映像が映画のスクリーンのように流れてくる。園庭を走る私達を笑顔で追いかけてくるかみ先生……ピアノを弾きながら歌うかみ先生……。体をゆっくり揺らしながら弾いている、すると自然と目に涙が溢れてきた。


『ポロン……ポロン……』


弾き終わってゆっくりと目を開ける、すると……


『ワアァァァァァァァァァァッ!! パチパチパチパチパチパチパチッッッ!!!!』


ものすごい歓声と拍手。それに驚いた私は、何事かと顔を上げるとピアノの周りに沢山、沢山の人が私を取り囲んでいた。その歓声と拍手は、私に向けられたものだった。


(しししまった! 酔った勢いで調子に乗ってしまった!)


もう恥ずかしすぎて酔って赤い顔が益々真っ赤っかに! あたふたしながら急いで立ち上がり、お辞儀をして立ち去ろうとしたその時、足がふらつき後ろに倒れようとした。


「きやっ!?」


『ドサッ!』


すると誰かが倒れる私を後ろから抱きかかえるように受け止めてくれた。それは、千隼だった。彼は受け止めた私の目を見つめて……


「きみちゃん……」


と呟き顔を近づけてきた!


(ま!? ままままままま! 待ってぇぇ!? こんなに沢山、人! 人! 今やばいってぇぇぇ!)


そう思った瞬間、真咲さんが彼との間に割って入り、風の様に私を奪ってその場から立ち去った。そしてそのまま地下駐車場の車へ連れていかれた。


酔ってふらふらの私は、真咲さんに車の後部座席に押し込まれそのまま座席に横たわり……


「すみません……真咲さん、ありがとうございました……」


お礼を言った。すると真咲さんは若干お怒り気味で


「いいえ、これも仕事ですから……しかし飲めない方があのような飲み方をしてはいけません!」


(見られてたんだ……)


「はぁい……気をつけまぁぁす……」


と返した。


「フフッ……それと周りの雑音にも惑わされてはいけませんよ!」


(そこまで見られて見透かされていた! 超恥ずかしいぃ!)


もう真咲さんと言い貴子社長と言い、誰も彼も私の胸の内が分かっているようでちょっとイラついて言い放った。


「皆さん、まるで私の心の声が聞こえているようで恐いんですけど!」


そう言うと真咲さんは『ハハハハハッ!』と高笑いした。


覚えているのはそこまで……その後、完全に酔いが回ってしまった私は、ホテルへ帰ったけど……酔った私のホテルについてからの記憶は曖昧だ、というよりほとんど覚えていない。確か部屋に連れていかれ……着ている物を全部脱がされ……お風呂に連れていかれ……朝起きたらルームウェアを着ていたから……着替えさせられたと思う。


そして……なんか真咲さんに絡んでしまったような…………そんな記憶がうっすらと……しかし何を言ったのか覚えていない。でも真咲さんに相当手間を取らせてしまったのは確かだった。以後、お酒の飲み方には気を付けます。



scene29へ……あ、頭痛ぁぁい……これが二日酔い?



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