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scene24 お上りさん

【着くなり社長と対面?! 超緊張する!】


そして東京へ出発する日を迎えた。お父さんが空港まで送ってくれる予定だったけど仕事の都合で送れなくなり、代わりにどらさんが朝早い飛行機だったけど、仕入れのついでに空港まで送ってくれた。


慣れない飛行機と初めての一人旅で若干緊張している私に、どらさんが朝早くから私の為に作ってくれた幕の内弁当を手渡しながら……


「これ、飛行機の中で食べてしっかり頑張ってこい!」


どらさんは、若干心配そうな顔をしている私に激をくれた。そして熊本空港を離陸、空路羽田空港へ向かう。道中、飛行機の中で幕の内弁当を食べていると(千隼もこんな風に食べてたのかなぁ)としみじみ思ってしまった。


私の中で、彼に対する思いが揺らいでいる、その事は確かだ。彼の真っすぐな思いに『応えてあげたい』という思いと『私じゃ釣り合わない』という思いが交錯して苦しい。私のその揺らいでいる心を三人は気付いてくれている、だから私の背中を押してくれた。『はっきりさせてこい』と。だからこの東京行は、私の気持ちを彼に伝えるいい機会だと思っている。


熊本から約二時間の飛行機の旅、羽田空港に無事到着。修学旅行でも来なかった初めての東京。私は完全にお上りさん状態。大きな荷物を引きずりながら、人目を気にせずきょろきょろ。余りの人の多さに人酔いしそう……早くここを抜け出したかった私は、速足で待ち合わせ場所に向かう。


待ち合わせの駐車場まで、ちょっと遠かったけど真咲さんが作ってくれた手書きの地図のおかげで迷わず時間通りに着く事が出来た。そして地図には『黒い大きなベルファイアナンバー品川ろ4512』と付け加えてあった。


「黒い大きな車……ベルファイア……ナンバーは品川ろの4512……4512……あったこれだ!」


私がお迎えの車を見つけて近づいて行くと、後ろのドアが自動で開き始めたので中を覗き込みながら挨拶をした。


「おはようございます…お世話になります……熊本から来ました、神君子です。どうぞよろしくお願いします……」


そう声を掛けると……


「こんにちは、君子さん。長旅お疲れさまでした」


運転席から後ろを振り向いたのは上妻真咲さんだった。


「上妻……真咲さん⁉ 真咲さんが運転してくれるのですか?」


「それが私の仕事ですからね。では君子さん、長旅でお疲れのところ誠に恐縮ですが、社長が是非お会いしたいと申しておりますので、事務所に向かわせていただきます」


(えぇぇぇっ! いきなり社長と対面⁉)


私の身体は一気に緊張の度合いが増し硬直した。


空港を出発し首都高速を走り都心へ向かう。大都会東京(笑)見た事のない高いビルと人の波。田舎育ちの私はあっけにとられ、車の中からあんぐりと口を開け、そびえたつビル群を見上げていた。


やがて車はそのビル群の一角にある、黄色に赤いラインが入ったおしゃれなビルの地下駐車場に入った。


車から降りて真咲さんの後をキョロキョロしながらついて行く私……地下からエレベーターに乗り6階のボタンが押される、と同時に私の心臓が『バクバク!』と音を立て始めた。


(こんなラフな格好で社長と面会だなんて!ききき緊張するぅ!)


ど緊張している私をよそに、真咲さんはずっと微笑んでいる。


そして社長室のドアの前に着き、真咲さんが扉をノックする


「はい……」


女性の声が聞こえた。


(社長は……女性?)


「真咲です、きみちゃ……君子さんをお連れしました」


「どうぞ……」


と柔らかい声が聞こえた。


「失礼します…」


真咲さんが入室する、続けて私も……


「失礼します……」


と言いながら深くお辞儀をして入室した。


扉の先には、床が白い大理石風の広いフロアー。そこには白いソファーガラスの応接机。奥には白い大きな机……その机の向こうには大きな白い椅子。背中を向けているけどそこに社長が座っているのが分かった。


室内に入ると真咲さんに促され白い机の前に案内された。


「私はここで失礼します……」


そう言って真咲さんが退室する、この部屋には、私と社長の二人っきり。私の緊張は、超マックスに! 何も言ってくれない、背を向けたまま……室内が静まり返る。


私はこの沈黙に耐え切れず勝手に自己紹介を始めた。


「はは、はじめまして、じ、じ、神君子と申します。ほ、本日は、お招きいただき、ああ、あ、ありがとうございまし……ありがとうございます」


もう緊張で言葉が、しどろもどろになってしまった。すると背を向いた椅子の向こうから……


「プッ……ププッ……アハッハハッアハハハハハッ!」


大きな笑い声が聞こえた。


「そんなに緊張しないできみちゃん!」


その言葉と同時に椅子がくるりと私の方へ回った。その椅子に座っていたのは、白石川貴子さんだった!私は驚きながら問いかけた!

 

「白石川……貴子さん⁉ 貴方が社長だったのですか⁉」


「そうよ、黙っていてごめんなさい。でも声を大にして言う事でもないけどね! さぁさぁ座って! 今お茶を用意するから!」


そう言いながら私の肩を抱きソファに案内してくれた。そして私が座ると


「どうぞくつろいでね!」


そう言うと社長自ら、お茶の用意を始めた。私は聞きたかった事、今回試写会に招待された事を社長に聞いた。


「白井……貴子社長、どうして私を招待したのですか?」


貴子社長は、お茶を入れながら……


「貴子でいいわよ。それは、真咲から説明があった通り、千隼が貴方に失礼をしたお詫び……もあるわ。でも……きみちゃんには悪いけど本当は、もっと不埒な事を考えてるの……」


(不埒な事?)


そう私が疑問に思っていると『コンコンコン』とドアをノックする音、その後ドアを開け入室してきたのは……


「加藤千隼、入ります……」


加藤千隼だった、彼が俯き加減で入室してきた。声のトーンが低く表情も暗い、この前と比べるとまるで別人のようだった。


「社長、お呼びでしょうか?」


私が居ることに気付かず入室してきた千隼、何気に顔を上げ、ソファの方を向く。するとようやく私がいる事に気が付いた。


「こんにちは……千隼さん」


にこやかに挨拶をする私。すると彼の顔が一瞬固まったと思った次の瞬間、表情が一変した!


「えっ? きみちゃん? きみちゃんだ⁉ えっ? ええぇっ! 何で? 何でここにいるの⁉ 何できみちゃんがここに居るの⁉」


歓喜の驚きの中、社長が彼に事情を説明する。


「私がきみちゃんを明日の披露試写会にご招待したの。貴方のかっこいいところを見に来ない? って言ったら快く来てくださったわ」


彼の表情が明らかにさっきと違う、目が輝き始め意気揚々としている。


「うわぁぁぁぁ! やったぁぁぁ! きみちゃん! 僕明日、いや今から頑張るからねっ! 失礼します!」


と喜び勇んで仕事に戻って行った。


「はぁぁ………という事よ……まるで子どもでしょ? この映画のプロモーションのせいで貴方に会いに行けないって捻くれちゃってねぇ。もう扱い難くて困るわ、あなたのおかげでね!」


「すみません……」


私が俯き誤ると


「あ、ごめんなさい! あなたが悪いとかそういう意味ではないのよ、気にしないで! だからね、最近の千隼は、全くやる気がなかったの。今度の映画にしても事務所総出でプロモーションしてるけど本人のやる気が全く感じられないし、たった十秒のPV撮りでNG連発するなんて信じられないでしょっ? そこで今回の試写会できみちゃんを利用させてもらったって訳……」


そして貴子社長はお茶をテーブルに置き、私の前に座ると一つ……目線を落とし語り始めた。


「前にも言ったと思うけど千隼は本当にいい子……でも向き不向きで言うと役者には全然向いてない。ライバルを蹴落とし騙しあい、お互いの腹の内を探りあって……それが出来る子はそうやってスターへ上り詰めていく。優しい千隼にはそういう事ができない……つまり役者には向いていないの……」

  

(貴子社長は、彼の事を本当によく分かっているんだな……)


「千隼は、あなたに好意を寄せている。でも貴方はそれに答えていいのか今……躊躇している。その理由も私には分かっているつもりよ。あなたの過去に何があったのか……それを聞くつもりはないけれど、本当に辛いのなら自分に正直になってあの子に伝えてあげて……。もしそれで千隼が駄目になっても……私は、あの子を見捨てたりしない。最後まで責任をもって面倒を見るから大丈夫よ!」


貴子社長は、私の胸の内をすべて知っているかのように話してくれた。私は、泣きそうになりながらも必死に我慢して……


「はい……」


と返事を返した。そして『コンコンコン』と再度扉をノックする音が鳴り、今度は真咲さんが入ってきた。


「社長、そろそろお時間です」


「あら、もうそんな時間。じゃぁきみちゃん、また後でね!」


そう言い残し真咲さんと部屋を出ていった。


scene25へ……真咲さんといい、貴子さんといい……かっこよすぎる

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