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scene14 ストーカー

【しぃぃっ! きみちゃんに聞こえるだろ! (聞こえてます!)】


加藤千隼がお店に訪れてから一週間後の事。もう記憶から加藤の文字が消えかかっていた頃だった。お昼の忙しい時間が終わり、裏でお昼の休憩に入り一息ついているとカウンターのどらさんから大声で呼び出された。


「きみちゃぁん!! ちょっと来てぇ!」


いつもの大きい声よりさらに大きい声で呼ばれたので、何事が起きたのかと急いで表に出て行くと、なんと! あの加藤千隼が立っていた。軽く会釈をする彼に、私は驚きを隠せないまま問いかけた。


「ななな、何しに来たんですかっ!?」


「え……えっとぉぉ……お、お弁当を買いに来たんです……」


「ええっ? ど、どこから? ひょっとして……?」


「はい……家……し、品川からです……」


私は、驚きと言うよりも呆れてしまい、再び大きなため息をつきながらそっけなく注文を聞いた。


「はぁぁ……ご注文がお決まりになりましたらどうぞっ……」


「じゃぁ……幕の内弁当を一つお願いします」


そう言った後、彼は後ろの椅子に腰かけた。そして注文を待つ間、静かに壁の一点を見つめていた。その裏で幕内三人衆がボソボソと言い始めた。


「何しに来たのかな……」


「弁当一つ買いに東京から……」


「あの子…ストーカーかなぁ……」


「惚れたんだよ………」


「えぇぇっ!? きみちゃんにぃぃ!?」


「しぃぃぃぃっ! きみちゃんに聞こえるだろ!」


(三人衆の皆さん、はっきり聞こえてますけどっ!)


幕内三人衆の言葉をよそに、私は内心穏やかではなかった。


(何で、何しに来たの? しかもまた家(東京)から! すっごい迷惑!)



しかも、そのまた一週間後、再び加藤千隼がお店に来た。この時、幕内三人衆はカウンターの裏から、頭だけ出してこっそり私たち二人のやり取りを見ていた(隠れてたって見えてます!)


私はカウンター内で彼の顔を見ようとはせず、下を向いたまま仏頂面で淡々と応対した。彼は……というと、にこりともせず終始下を向いたままの私の顔が、上を向くのを待っているかのように私の頭のてっぺんをじっと見つめていたらしい。


結局この日の彼は私の顔を見る事なく、注文した幕の内弁当を受け取ると『有り難うございます……』とだけ言い残し、何も言わずに帰って行った。そして彼が店を出ていったと同時に裏にいた幕内三人衆が……


「プッハァーハッハッハッッハァァァ!」


大きな笑い声と共に手を叩きながら表に出てきた。


「きぃみぃちゃん、その顔! 最高!」


「今度来たらその顔写真に撮ってあげるよ!」


私は(本当に笑い事じゃない!)と叫びたかったのぐっとこらえ、燥ぐ三人衆にちょっとムカついた。そしてどらさんが肩を叩きながら……


「また1週間後が楽しみだね、きみちゃん!」


と笑いながら冗談めいて言った。


しかし、その1週間後のお昼過ぎ、店の外を掃除するふりをして監視していた内藤さんがお店の中にバタバタと走って入って来た。


「きみちゃん! 来た来たっ……来たよっ!」


カウンターにいる私につぶやくように知らせに来た。どらさんの予想通り、彼がお店に来たのだった。


「えっ? ええ、えっとぉぉぉぉ、あああっあのぉむ、む村田さん!カカ、カウンター変わってもらっていいですかぁ!」


私は、さすがに少し怖くなってカウンター業務を村田さんに代わってもらい、裏に引っ込んだ。そしてどらさんと内藤さんが裏からこっそり、彼と村田さんのやり取りを見て私に実況した。


「村田さんが出来上がった弁当を渡している……弁当を受け取りながら彼が村田さんに何か言っているよ……村田さんが彼に身振り手振りを交えて何か言い返している……それを聞いた彼は、何か困った表情をしてるよ……頭を深々と下げて……出て行ったよ、きみちゃん」


彼が帰ると、私より先にどらさんと内藤さんがいち早く村田さんのもとに駆け寄った。


「ねぇねぇ何! 何話してたの?」


二人が興味津々に聞いた。すると村田さんは……


「君子さんは? と聞いてきたので『今日は、休みだよ』と教えてあげたら手紙を渡してくれませんかと言ったもんだから『自分で渡しな』って言ってやったよ!」


村田さんは、行き怏々と話した。


「そしたら『明日、お店が終わる頃に伺います』……だってさ」


『また来ます』ってことは、明日は、確実に合わなければいけないってこと? 私が俯いて考え込んでいるとどらさんが言った。


「彼がどういう考えか知らないけど、わざわざ遠くから来てんだしさ、何も喋んなくていいから手紙くらい黙って受け取ってやんなよ。私達が傍に居てあげるからさ!」


「手紙を受け取ったなら、『これで終わりにしてください』って私が言ってあげようか?」


と、内藤さんが心配して言ってくれた。でも……


「ありがとう内藤さん……でも大丈夫です、自分で言います」


そう返事をした。でも……明日……あぁぁぁ……気が重い……。




scene15へ……気が重いけど……続きます……



つばき春花です、すみませんscene14での次回予告のタイトルが間違っていました、お詫びして訂正いたします。


次回……『scene15 家電友達』ご期待ください。

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