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サーシャ3


 イケメン騎士はロバートさんという。年は23才。子爵家の三男だそうで。家督はおにいさんが継いだので、今は騎士団の寮に住んでいるんだとか。

そんなことまで自己紹介された。モテるんだろうね。貴族の騎士。

 騎士かぁ。

なんか思い出して、モヤモヤする。いや、あれは金儲けだったんだ。

 わたしは振り切るように頭を振った。


 ロバートさんは閉館時間ギリギリまで本を読んで、帰り際わたしにいくつか質問をした。

 文法のこと。同じような単語の意味の違いなど。


「門外漢なもんで」

 とちょっと恥ずかしそうにしながらも、まじめに読んでいたのだ。

 へえ、騎士なのにまじめなんだ。

 そう思ってしまった。いけない。騎士に対して偏見を持っている。アレのせいだ。


 騎士だってちゃんとした人はたくさんいる。むしろアレが例外だ。

 そうそう。わたしはふたたび頭を振った。


 あれから何回か通ってきて、エララ語についていくつか教えてあげた。古い異端の宗教についても、いっしょに探してあげた。

 懐かれた気がする。


毎回リンダが首を突っ込んできた。どうやらロバートさんにロックオンしたようだ。

いやいや。だからといって、あんたエララ語がなにかも知らないでしょ。

 うまいことぽっちゃりおじさんが連れ戻してくれて、ロバートさんに迷惑をかけずに済んだ。

 はい、わたしはイケメンには目もくれず、きっちり仕事をしましたよ。

 えらいです。だれか褒めてください。


 まあロバートさんも人当たりがいいというか、人好きがするというか、エララ語と宗教なんていう笑いの要素がまったくない話題なのに、なぜか笑いながら2人で本を見ているという状況。

 いやっ! これは仕事だっ! 利用者さんが快適に利用できるようにっ!


 ロバートさんが本をしまって図書館を出て行くとリンダが後を追いかける。露骨だ。職務放棄だ。

 やっぱり来年の更新はないな。

 追いかけて行ってなにを話しているのやら。10分15分で帰っては来るけど。

うん、できたらわたしもそうしたい。常識と仕事が勝って、そこまでできない自分がちょっと悲しい。

 いやっ! 仕事!


 そのうち用は済んだのか、ロバートさんはぱったりと姿を見せなくなった。

「ロバートさん、来ないんですかねぇ」

 リンダが聞いてくる。わたしも聞きたい。だれか教えて。


 しょうがないな。騎士には縁がないらしい。

 そんな気持ちになりはじめたころ、朝からリンダがニヤニヤしている。

 なんだ、気持ち悪い。


「きのう、ロバートさんに会ったんですぅ」

 え? ええ?

「仕事帰りに会ってぇ。お話してぇ」

 へ、へえ。

「ネックレスもらったんですぅぅぅ♡」

 え、ええ……。

 なんかショックなんですけど。あれ、わたしといいカンジじゃなかったですか? わたしの勘違いでしたか?


「……よかったね」

「はいーーー♡」

 だから、正面に立って見おろすなって。

「今度お食事に行くんですぅぅぅ♡」

 そうですか!!!


「はいはい、油売ってないで仕事してくださいね」

 ぽっちゃりおじさん、ナイスです。

「ええー? わたし油なんか持ってませんよぉ」

 バー―――カ!


 みたいなことが三回ほどあって「ああ、そうですか。よかったですね」と投げやりになったころ。

 その日は散々な一日だった。

 朝一でめんどくさいおじいさんに絡まれ、子どもがジュースを持って走って転んで、盛大にジュースをぶちまかし、せっせとモップをかけ、痴呆っぽいおばあさんに頼まれたこの世には存在しない本を延々と探し、リンダが昼休憩から帰ってこなくてランチを食べそこなった。


 こんな悪い日ってある?

 わたしの心は粉々だ。

 どんよりとしたわたしを、ぽっちゃりおじさんは気遣ってくれて、定時で帰してくれた。

「これ食べて元気出して」

 そう言って、マカロンを一個くれた。ピンクのかわいいやつ。

 おじさん、ありがとう。乙女心をわかってくれて、最高の上司です。


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