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ドライヴ

 車に乗って出かける。窓は全開。母は鼻歌まじりにラジオを聴いている。ナミは白のティーシャツに色褪せたジーンズという、アメリカのティーンみたいな服装。背が高くて、手足が長いので、そんな格好でも悪くない。

 石畳の上、ショッパーを片手に颯爽と歩く。ナミはショッピングの時の、街の活気とした空気や帰りに寄るカフェが好きだった。

母が美容院に行くというので、ナミはその間に気になってるものを物色した。涼しそうなノースリーブのワンピースに白いミュールを買った。他に欲しいものは後で母に買ってもらうつもりだ。出しぬけに立ち止まって太陽の光を浴びる。背中の方にじんわりと汗が浮かんでくる。木陰のベンチに座って、しばし休憩した。木漏れ日が頬を撫でて、幸せな気持ちになる。血液の循環に合わせて、体内にエネルギーが満ちていくような感じだ。

美容院から出てきた母と落ち合うと、まず買い物にまわった。一夏分の買い物だ。ナミはそんなに欲しくなかったけれど、母が水着を買ってくれた。一緒にホテルのプールに入りたいのだそう。ターコイズブルーのビキニのそれは、自分で選んだものではないけれど、シンプルでオシャレですぐに気に入った。

本屋にも行った。十作近く本を買ってもらう。夏に打ってつけの本、コレットの「青い麦」と「シェリ」を見つけた。本を抱えていると、とてつもなく幸福な気分になる。新品の紙の匂いのする、本をこれから読むのだという期待感と意気込みで胸が高鳴るのだ。他に、江國香織のエッセイ本と小説と林真理子の「不機嫌な果実」も購入した。

「今年も読み漁るの?」

 帰りの車の中で、母が訊いた。母の運転は静かでそつがない。

 フロントミラーにはサングラスをかけた母の姿が見える。口元が笑っていた。

「無理のない程度にね」

 今年は本の虫になるのではなくて、友だちと花火大会にも行きたいし、小説だって書いてみたい。ホテルの近くを散策をするのもいいと思う。アルバイトなんかもいいかもしれない。

「今日、街にアイスクリーム屋さんがあったでしょ。あの、駅の隣のカラフルなお店。パラソルのある……。あそこで夏休みの間だけ、バイトしたいんだけど……」

「いいじゃない。やってみなさいよ」

 屈託のないセリフ。フロントミラーの中の口元は相変わらず笑っている。

 ナミは一抹の寂しさ、心細さを感じた。


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