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美人の母

 このホテルに連れてこられてから、随分無為に過ごしている。

「来なさいよ。来年は遊んでられないでしょ」

 夏休みが始まる少し前、母が無責任にそんなことを言った。

「いやだよ。あそこ何にもないでしょ。どこ行くにも車が必要なのに運転できないんだもの」

 ナミが口を尖らせて答える。

 母は平然とした様子で、陽光で眩しいばかりのベランダに洗濯物を干している。日焼け止めと朝の美容液だけで塗って化粧をしていない母は、それでも美しい。こうして不意に娘の心を打つほどに。母が着ると、無地のコットンティーシャツだって高級なもののように見える。

 ナミは母のように美しくはなく、容姿は平凡な域を出ない。容姿に恵まれていたなら、さぞかし愉快だったろうに、と思う。母はナミのことを、とても可愛いと言ってくれるし、見た目は大して重要ではないと言い聞かせてくれる。それでも、ナミは美人の部類に入る女の子たちが羨ましかった。


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