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二
宋から出奔した孔子一行は、とぼとぼと次の国へ歩んでいた。
横殴りの風が細かい砂を運んでくる。
目を細くしながら弟子の一人が言った。
「あの若者は何者でしょう」
一行のうしろを、少々距離をおいて、痩せた覇気のない若い男がついてくる。
ちらちらと弟子たちがそちらをうかがうたび、恥ずかしそうにうつむく。
「宋の間者ではないでしょうか」
と弟子が孔子に言った。
孔子は目を細めながら、何も答えない。
一行は川に行き当たった。ほとりで休む。
若者はおずおずと一行に礼をし、孔子のもとへいき、
「昨晩は兄が失礼をいたしました」
と言った。
「桓魋どのの兄弟であられるか」
と孔子が言った。
「はい。司馬牛ともうします」
「なんの御用かな」
「私を弟子にしていただきたい」
「わしは宋を追われた身。弟子になれば、君も国へは帰れまい」
「それでも、教えを乞いたく」
孔子は目を細めた。
「君が満足するまで、ついてくるがよろしい」
「ありがとうございます」
そのときから、司馬牛は孔子の弟子となった。