「暗黒の世界」
時間だ・・・
あの人はどこにいるんだろうか。
「やあ、お待たせしました」
「柿崎さん」
「名前は簡単に言わないでください」
ギロリと睨みつけられて私は思わず後ずさりする。
「も、申し訳ございません」
「いえいえ、ではこちらになります」
私は柿崎さんが差し出した爆弾のような箱を渡される。
「これはどうやったら爆発するんですか」
「護送車に向けて投げつけてください。そのショックで爆発します」
淡々と男が話すため私は現実の世界にいるのかが分からなくなる。
「じゃあ、これを落としても」
「もちろん、取り扱いには注意してください」
私の背筋に緊張が走るのが分かった。
「は、はい。それで該当の車はいつ」
「これが車の写真です。あと20分程でここの道を通りますよ」
「なぜ、それを」
「内緒です。ではがんばって下さい」
男はその場を去っていく。
「え、あの」
「私は見届けるだけです」
ふふと笑いながら男はいなくなってしまう。
こうなったら覚悟を決めるしかない。時間まで私は物陰に隠れることにした。
「ねえ、マスターあのおじさん大丈夫かな」
「あのおじさんとは?」
「ほら、この間来てた、被害者の父親だよ」
「ああ、あの方ですか」
「復讐すると思う?」
少女は遠くを見ながらマスターに声をかける。
「どうでしょうか?あまり現実的ではない気がしますね」
「ちょっと、私帰るわ」
「ちゃんと学校に行って下さい」
「まだ謹慎中」
少女は喫茶店を後にする。
「やれやれ」
親父の手帳を盗み見たけどあの加害者の護送は今日だったはず、間に合うか。
少女は急いで走り出す。
後、5分か・・・
とうとうこの時が来た。私は胸にしまっていた爆弾を取り出しイメージを膨らませる。
私は息子との日々に思いを馳せる。
これで終わりにしよう。お前の仇は討ってやる。
いよいよその時がやってきた。
護送車と思われる車が遠くに見える。
「やめろ!!」
遠くから少女が走って何かを言っているのが目に入ったが私はそのまま車の前に飛び出す。
護送車は私の目の前で急ブレーキを踏む。
「息子の仇だ。死ね!!」
私は爆弾を車に向けて投げる。
終わった。私は身を屈めながら爆発に備える。
カラン。
爆弾は車に当たった後に虚しく音を立てて地面に落ちていく。
「何者だ」
警察官が車内から出てきて私を取り押さえる。
私は何が起きたのか検討がつかなかった。あの男が立っていると思われる場所を思わず見渡す。
すると、男はにやりと笑っていた。
嵌められた。私はただ黙って警察官に取り押さえられながら唖然とする。
男の姿はもうすでにない。
「間に合わなかった」
はぁはぁと息を切らしながら少女は嘆く。
ふと少女は護送車に目線を向ける。
そこには満面の笑みで笑っている加害者の姿があった。
この世界はなんて残酷なのだろう。翌日の新聞には被害者の父親を叩く内容の記事が載っていた。
「なんということか・・・」
マスターは記事を見ながらポツリとつぶやく。
今日は少女は来ないだろう。何となくそんなことを感じた。