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ゲート・ジ・アース  作者: 雪村遥人
第一章:繋がる世界編・第一節:プロローグ
4/9

山中の試験

 三月の山は寒い。

 季節のこともあるが、山の高い場所は気圧が下がるため余計に冷える。

 特に前日雨が降っていたとなればその寒さは尋常ではない。

 周囲を見渡すと、既に顔色が悪くなっている者も多かった。いくら寒いと言っても登山は多量の汗をかくものだ。それが山頂で冷たい風に晒されれば体調を損ねるのも当然と言える。

 俺はタオルを持参していたため軽く汗を拭うだけで幾分かマシになったがタオルを持っていない人はご察しだ。

(これなら動き回っている方がマシかもな……)

 などと考えつつ、こっそり服の内側に〔防寒〕の術式を組み込んでおく。念のため〔隠蔽〕も合わせているから探知される心配はないだろう。

 キィーン__という耳障りな機械音が鳴り響く。

 音の発生源を見ると、タブレット端末片手にハンド型メガホンを構えているジャージの男が居た。

『これより、神楽坂学園入学試験の説明を開始する』

 その合図と同時に、受付で渡されたスマートフォン端末に一通のメールが届いた。

『試験のルールはメールに記載されている。確認してもらおう』

 メールの内容はこうだ。

 試験の内容は下山。

 一つ。ここ、山の頂上をスタート地点とし、受付の施設をゴールとする。

 二つ。山の中には複数の教官と的が隠れていて、教官の端末からQRコードを読み取ると一分、的を射撃すると三十秒制限時間が延長される。

 三つ。ゴールした時の残り時間がそのまま成績となる。

「すみませーん‼︎この射撃ってどういう意味ですか?俺銃とか持ってないんですけどー!」

 思い切って大声で問いかける。疑問はそのままにできないのが魔術師の性なのだ。

『そのことも含めて順番に説明する。まずは__』

 教官の話をまとめると、初期制限時間は五分間。射撃には実弾銃ではなくセンサー式の訓練用拳銃を使うらしい。教官や的の正確な数は教えられず、探すのに時間をかけすぎると持ち時間が足りなくなる仕様だ。ただし普通に下山すれば十分はかかるため真っ直ぐゴールを目指すのはおすすめしないとのこと。

 全ての説明が終わり、訓練用の拳銃が配布される。

「これって……」

 渡された拳銃に使われている桜のエンブレムには見覚えがあった。

 兄が使っていた二丁拳銃にも同じエンブレムがあったはずだ。そういえば兄も神楽坂学園の生徒だったな。

 一昨日は緊急事態で気にも留めなかったが、一般人が拳銃を所持していれば逮捕間違いなしだ。

 恐らく入学後には実弾が入ったものが支給される。当然規制はあるだろうが、実戦に身を置く者が日頃から武器に触れるのは重要なことだ。政府が運営に関わっているだけあってそこは認められているのだろう。

『それでは……試験……開始!!』

 一際大きな合図とともに、受験生全員が駆け出した。

 雨の影響もあってぬかるんだ斜面を駆け降りるのは得策ではない。頭では皆分かっているだろうが、制限時間は短く、また競い合う場面において冷静な判断を下せるとは限らない。

 その証拠に何人か足を滑らせて崖__大怪我をするほどの高さではない__から転落している。

 俺は先に教官を見つけるため〔ソナー〕を利用した。これは術式を用いる魔術とは違い、魔力をそのまま運用する技術だ。

 魔力を薄く広げて波を作り、その反響から人の位置を特定する。受験者の多い中で教官を探すのは意外と簡単だ。人型で動いていないものを探せばいいのだから。

(これは探知系の術式にも引っかからないし多少派手にやってもバレないのがいいよなぁ)

 ソナーの結果教官の数は二十五人と分かった。最短ルートを思い描きながら駆け出す。

 全員のQRコードの読み取りが終わり、残り時間が二十七分にまで伸びた。

 的の方はどうするかと考えていると、近くで一人の女性が転落しそうになっているのが見えた。

「危ない!」

 反射的に思わず抱き寄せてしまった。

「邪魔しないで!」

 彼女は俺を強く突き飛ばしながらそう言った。助けられておいてその言い方は無いだろう。という俺の思考は、彼女の顔を見たのと同時に消え失せた。

「マリ……ア……?」

 その顔は前世で幼馴染だった少女マリアにそっくりだった。

 髪色も瞳の色も異なるが、その顔立ちは見間違えようもない。

 彼女は怪訝そうな表情を浮かべると、何も言わず走り去ってしまった。

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