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ゲート・ジ・アース  作者: 雪村遥人
第一章:繋がる世界編・第一節:プロローグ
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相坂嶺緒のプロローグ

 俺には前世の記憶がある。日本ここではない別の世界で、賢者として生きた記憶だ。

 前世の俺の記憶は、黒い亀裂に吸い込まれた所で止まっている。

 あれから十二年が経過した。日本と呼ばれる国に生まれた俺は嶺緒レオと名付けられ、兄と二人の妹、両親の六人家族で生活している。

 三月ともなると学校は終わり、四月の新学期に向けて約一ヶ月の春休みが与えられる。

 もっとも、小学校を卒業したばかりの俺にとっては中学校が始まるまでの準備期間で、春休みと呼ぶのが相応しいとは思わないのだが……。

 今日は珍しく家族揃ってショッピングに出かける予定だ。

 最大八人まで乗れる大型の車。数年前に父が購入した我が家唯一の移動手段だが、残念ながら父は運転ができない。正確には免許は持っているのだが、スピードを出しすぎてしまう癖があって何度も警察に止められていたため母に運転禁止を言い渡されたのだ。

 今回も例に漏れず母が運転するらしい。

 目的地のショッピングモールまではこの車でも一時間かかる。車とは実に恐ろしい乗り物だ。なんせ運転が始まると争い難い眠気に襲われる。初めて乗った時は〔催眠〕でもかけられたと勘違いしてしまった。車の前では一時間など一瞬で過ぎ去ってしまうだろう。

 と、思っていたのだが……。

 三十分ほど経った頃だろうか、キキーッとブレーキの音が耳を叩き、全身が強く揺さぶられ目を覚ました。運転席の方を見ると、母が真っ青になって前方を見つめている。

 母の視線の先には黒い狼に似た『何か』が五匹。こちらを見て唸っている。

『何か』は大型二輪車を上回るほどの大きさで、普通の生き物ではないことが分かった。

「母さんアクセル踏んで‼︎早く逃げるよ‼︎」

 兄は天窓を開きながらそう叫ぶと、上着の内ポケットから二丁の拳銃を取り出した。

 両手の拳銃を一発ずつ発砲する。上手く命中したようだが、『何か』にダメージが入っている様子はない。強いていうなら少し動きが鈍ったか?

 などと分析していると母が正気に戻ったらしく、車が猛スピードで走り出した。

 一方通行道路の逆走。こんな状況でなければ免停だろうな。

「クソッ……⁉︎やっぱダメか」

 『何か』が車に追いついてきた。時速八十キロ近く出ている自動車に追いつけるとはとんでもない速力だ。

「母さん!もっとスピード出して!」

 兄が再度指示を出す。九十、百、百十とスピードが上がっていく。百二十。この車が出せる最高速に到達するが、引き離せる様子はない。

 (〔加速〕を使うか……?)

 俺が魔術を使えば逃げることはできるだろう。だが後が怖い。

 ヴィドラと違い、日本は魔術の使える人間は決して多くない。更に俺は日本で使われる魔術の形式を知らないのだ。もし普及していない魔術を行使したことが露呈すればどんな面倒なことになるかわからない。

 どうすれば上手くこの場を切り抜けられるかを思案していると、勢いよく車が横転した。

「「「うわあぁぁぁぁぁ!!」」」

 横転の衝撃で天窓から外に投げ出される。幸い兄が庇ってくれたため大きな怪我は無いが、兄が頭から血を流している。

「兄さん‼︎」

「大丈夫。少し切っただけだ。それより…来るよ!」

 振り向くと『何か』の爪が迫ってくるのが見えた。回避はできる。だが俺が回避行動をとってしまうと、爪は兄を切り裂くだろう。大丈夫と言ってはいるが、今の兄がこれを躱せるとは思えない。

 俺は素早く〔簡易物理障壁〕の術式を構築し、『何か』の攻撃を受け止める。

 こうなっては仕方ないと反撃に出ようとすると、目の前の『何か』の全身に風穴が空いた。

「今のは……」

 多数の発砲音が聞こえ周囲を見渡すと、アサルトライフルを持った三人の男が『何か』を次々と倒していくのが見えた。

「すごいな」

「あれが日本が誇る対魔獣用兵団、『GSS』だよ」

 『GSS』は確かあらゆる災害から民間人を守るために作られた組織だったな。『何か』は災害扱いなのか。

「魔獣?」

「ああ、さっきの狼みたいなやつのことね」

「へぇ……」

 今のがこの世界の魔獣か……。

 この後、簡単な事情聴取を終えた俺たちはショッピングを諦め、帰路につくことになった。

 横転した車だったが、運よくタイヤを交換するだけで済んだ。

 父曰く、普通の車とは出来が違うのだと。フレームが多少変形しているが走るのに支障のない範囲のようだし、本当に何か違うようだ。

「父さん」

「分かってる。レオ、家に着いたら私の部屋に来なさい」

 珍しく真剣な様子の父と兄。一体どうしたのだろうか?

「分かった」

 と小さく返事をして、眠りについた。

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