第二戦
「こいつは楽だ。歩かなくていいのは助かる」
戦車と化したスライムに乗っかりくつろぐフナイ。
その様子をただぼんやり見つめているハヤシ。
「なんか言いたそうだけど?」
「なんでそんなにのんびりできるですか。あなたをみているとなんかイライラしてきます」
「腹をくくれ、今からそんなんじゃ持たないぞ」
「わかってます。わかっていますけど……」
「ここで気の利いた話でもしてやれたらよかったんだけどな。ゴメンな、なんの話もできなくて」
「謝らないでください。別にあなたがわるいわけじゃ……、ただ苛ついているだけですから」
「それが困るんだ。これからずっと一緒に行動するんだ。お互いをもっと知らないと」
「今の所それは無理です。しばらくほっといてください」
「そうするよ。もっと君の気持ちを理解できていれば娘にも嫌われずに済んだだろうに」
「結婚してたんですか?」
「一応はね、でもね、妻や娘の気持ちなんて考えてやれなかったからね。そりゃ嫌われるわな。君も嫌っているんだろう。こんな男で申し訳ないけどしばらく付き合ってくれ」
「……、私に言われても。他人ですから……」
「そうだよな、まあ、忘れてくれ」
「なんか、余計に嫌な気分に……、ん、なんかいますよ」
「ああ、いるな。なんだろう。ちょっと止まって」
ぎこちなく会話を続けていた二人の前に現れたのは犬に似た生物、ただ頭が3つあったことから普通の生き物ではなさそうだった。
「あれってもしかして」
「知っているんですか」
「間違いない。あれはケルベロス、でも……」
「なんですか?」
「こんなところにいるのはおかしいんだよ。ケルベロスってのは地獄の番犬といわれているからな。地獄から逃げ出す亡者どもに襲いかかるといわれるほどに凶暴なやつだ。どこから逃げ出してきたのやら。さすがにファンタジー世界、こんなのが出てくるんだ」
「そんなのと戦うのですか? スライムとは比べ物にならないですよね」
「そりゃ戦うしかないだろう。どんだけ強かろうが逃げるわけにはいかない」
対峙するフナイとケルベロス。お互いに譲る気配を見せない。
「ヒデミちゃん、ヒデミちゃん」
「なんですか? 気軽に下の名前を呼ばないでください」
神の呼びかけに不快感を示すハヤシ。しかし神は意に介さない。
「フナイさんだけに戦わしていいの?」
「私は戦えませんから」
「そんなあなたに!」
チャラチャラ~~ と猫型ロボットが道具を出すときのような音が聞こえたかと思うとハヤシの目の前に一本の杖が現れる。
「これを使えばあなたも一端の魔法使い。お好みの魔法が使えるようになります」
テレビショッピングのようなノリで神はハヤシに説明する。
「直接戦闘はできなくても掩護射撃ぐらいはできるようになるよ」
ハヤシは恐る恐る杖を手に取る。
「じゃ、やってみよう~」
神に促されるようにハヤシはフナイの隣に立つのだった。