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「動き出した時計」

 差し伸べられた手を俺は掴んだ。その瞬間、俺の中で止まっていた時計が少しづつだが、動き始めた気がした。


 失敗するかもしれない。人生詰むことになるかもしれない。だけど、俺は思ってしまったんだ。”面白そう”と。そう思ったら、失敗しても、人生詰んでもやってみたくなった。金なら多少はある。試すなら今しかない。


「無樹斗くん、今日はさ家に帰らずにここで過ごさない?」

「うん。いいよ」


 そして俺たちは壁にもたれ掛かるようにして座る。


 神橋さんはクラスでも人気があるのでこんな人が虐待を受けていると知った時は少々驚いた。よく学校であんなに笑顔で過ごせるな。尊敬するレベルだ。


「そうだ、なんで俺があそこで死ねないって言いきれたの?」


 あの時はどうして俺の行動を知っているのかという疑問しか出なかったが、なぜあそこで言いきれたのか?今となっては少し疑問が出てきた。


「それはね、僕がそうだったからだよ。僕も何回もここに来ては下を見て死への恐怖を体感した」


 神橋さんもやっぱり虐待を受けているんだな。少し半信半疑だったがこれで完全でわかった。


 そして俺たちは夜通し語り合った。虐待のことやこれからのことなど色々と。その時、俺は久しぶりに笑うことが出来た。






 5月下旬ということもあり、外で一夜過ごすのはあまり苦ではなかった。ただ強いて言うのならコンクリートの床が硬いぐらいだ。


「有咲は今日授業出る?」


 俺たちの予定としては昼休みに学校を出て一度家に帰り、荷物などを取ってからまた再会してからどこかに行くというものだ。なので、午前中の授業は出ても出なくてもどっちでもいいのだ。


 今頃親は何をしているのだろう?俺を心配していることは無いだろう。まぁ、どうでもいいか。


「僕は出ないよ。だって、僕たちはもう自由だから!」


無邪気に笑顔を浮かべる有咲。その笑顔はいつもクラス内で見せるものとは違い、本当に生き生きしている。


そして俺もそれに釣られるようにして、自然と口角を上げていた。


「なら俺も出ないわ」


 そしてまた俺たちは語り合った。







 昼休みが始まりを知らせるチャイムと同時に俺たちは屋上を後にする。有咲と分かれ、帰路を辿る。


 家に着き、中を探索するが誰もいない。両親は仕事に行っているので当たり前か。そのためにこの時間にしたんだしな。


 キャリーケースと楽に運べる肩掛けのカバンを部屋から取り出し、家を徘徊する。色々な物を見ては自分の物かを確認して、自分の物だったら必要か必要じゃないかを判断する。必要な物だったらキャリーケースかカバンに入れる。


 そして家中を徘徊し終わり、日用品や使えそうな物は全てキャリーケースかカバンの中に入れた。通帳や財布も持った。それでもう完璧か・・・・


 以外にも早く終わったので俺は最後に風呂に入ることにした。昨日入ってないし、ちょうどいい。


 風呂から出て、髪を乾かし終わったので家を出る。そして俺は家に向かって深く頭を下げた。一応17年間もお世話になった家だ、もう帰ることがないと思うと少しばかり名残惜しさがある。でも、それを捨てて、俺は有咲との待ち合わせ場所である公園へと向かった。





 公園についたが、有咲の姿はまだなかった。なので、適当にベンチに座る。カバンから通帳を取り、中を確認する。実は中学の時から結構深夜バイトしていたのでお金は溜まっていると思う。


 中学ではもちろん高校生でも深夜バイトは禁止だ。でも、将来独り立ちする時のために金は欲しかったから身分証なども色々といじってバイトしてきた。時給1100円のを週二で三年間と時給1200円のを週三で三年間やってきた。


 一 十 百 千 万・・・・数えたらざっと200万以上溜まっていた。これは自分でもビックリ、食費などの生活費は出していなかったからずっと溜まっていたのだろう。と言ってもご飯を2日食べなかった日もあるがな。


「なーに見てるの?」


 ベンチの後ろから急に声が聞こえたので一瞬ビビったが、振り向いて有咲だと分かればホッと落ち着く。それに有咲の髪が少ししっとりとしていたのを見る限り、風呂に入っていたのだろう。


「どれだけ資金があるか確認してたんだよ」

「へー、それでどれぐらいあるの?」


 少し言うのを躊躇ったが、これからはほぼずっと一緒にいる仲になるのだろうから言ってもいいだろう。てか、一緒に生活するのか、これからは。そう思ったら、少し緊張してきた。それに女の子とこんなに長く話したのもいつぶりだろう?少なくとも4年前より昔なのはわかる。


「ざ、ざっと200万ぐらいかな」


 そう言った瞬間、有咲はバツが悪そうな顔になる。何があったのだろうか?それとも俺が地雷を踏んだか?


「僕は50万ぐらいしかないのに・・・・男の子って金遣い荒くないの?」

「俺はただ使う暇がなかっただけだ」

「ま、いいや。それじゃ行こうか」


 そう言って有咲は歩き出した。俺たちの目標は福島県。理由は特に無い!ただ行ったことないからだ。そんなのでいいのかと思うかもしれないが、俺たちは自由なのだから、住処をどこにするかなんて神奈川県(ここから)離れてしまえば正直どこでもいい。根拠はないがこれだけは言いきれる。


 どこに住もうがどんな暮らしをしようが俺は絶対に以前の生活よりかは楽しくて有意義だ!


「ちょっと、無樹斗!早く!」


 駆け足で有咲の元へ駆け寄る。


「作るんでしょ?僕と一緒に楽園を」


 そして俺たちは今日、この日人生で最初で最後となる家出をした。

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